第14話 黄金人参ショットガン
扉が開かれると、中は薄暗い大広間であった。
奥には、黒く禍々しい空気が漂う。
「……お兄様! カイト君!」
広間の中央には、大きな鳥籠のように中に吊された牢がぶら下がっていた。その中には捕らわれの王女エリザベーヌが入れられていたのだ。
「水瀬!!」
「エリちゃん!!」
少年二人は、王女を見つけるなり駆け寄ろうと広間へ入っていく。
「ちょっと貴方達待ちなさい!」
「おっしゃ! 俺様達も中に入ろうか!」
「え!? ちょ、ちょっとブラウン!」
ウサテレの画面に映ったユリエが引き留めるが、デーブは問答無用でウサテレを前進させる。全員が中に入った所で、案の定自動的に扉は閉まり黒い茨のツル達が伸び始め扉を
少年二人が中央に吊された牢の下に着いた所で、黒い靄が広間に漂い始める。
『ハッハッハッハ! ハーッハッハッハッハ!』
広間全体から聞き覚えのある高笑いがエコーした。
『ヨクココマデ来タナ、勇者達ヨ!』
「この声は……魔王サウス! あ、いや、南方!」
「何処にいる! 早く姿を見せて俺と勝負しろ!」
少年達とウサテレは辺りを窺いながら、いつでも攻撃が出来るように戦闘態勢を取る。
すると、広間を漂っていた靄が玉座に集約していき黒い球体のように渦を巻き始める。完全な球となった黒い固まりは、スライムのように形状を変え体格の大きい男へと変化していった。
『ココマデ来レタ褒美ダ! 死ンデモラオウカ!』
「待ってくれ南方!」
魔王サウスが動きだそうとする最中、ショーンは制止させる。
「貴方は何の目的で、エリちゃんを狙うんだ! アナタは何者なんだ!」
「目的……カ」
彼の言葉に魔王サウスは笑みを浮かべる。その笑みは何か傷つけることを企んだような歪んだ表情であった。
『簡単サ、コノ世界ヲ支配スルコトダ!』
「この世界の設定のことを聞いているんじゃない! 真面目に答えろ南方!」
ヒッヒッヒと面白おかしそうに嘲る。
『俺ハ真面目サ、ココハソコニ居ルロリ幼女ガ創リ出シタ世界ナンダロ?』
「え!?」
魔王サウスの回答に思わず言葉を失った一行。真っ先にその話題に食いついたのはウサテレの中に居るユリエだった。
「南方ダイチ! 貴方はどこまで知ってるの?」
『ヒヒヒ、ダイタイダヨ。タブン今マデノ世界ハ、ソコノロリ幼女ガ防衛本能デ創リ出シタ壁ダ。ダガソレト同時ニ俺トイウ存在ヲモ作リ出シタ。イヤ、俺ガ植エ付ケテヤッタンダ! ソノ見エナクナッタ目ニナ! アヒャッヒャッヒャッヒャ!』
魔王サウスの下卑た笑い声が木霊す。エイザベーヌは押し黙っているが、怯えている檻を掴んだ手が震えていた。
「ふざけんな!」
笑い声を振り払うように大声を上げたのはカイトだった。
「お前が水瀬に何をしようとしてるのか知らねぇけど、悪いことをしようとしてることは良く分かった!」
カイトの足に巻かれた黒い包帯、太股の部分に[閃光]の文字が浮かび上がる。それと同時に彼の周りにいくつかの光の小さな球体が浮かび上がった。
「俺がお前から水瀬を守ってやる!」
「カイトくん……」
彼は魔王サウスを睨みつける。だが、サウスは勇敢な彼を嘲る。
『オウオウ、カッコイイ事言ウジャナイ! マルデ主人公ミタイデ尊敬シチャウ!』
サウスの口元は笑ってはいるが、彼の両目はジッと彼等を見つめていた。
『ソウイウ女ノ前デカッコ付ケル奴見ルト、惨メナ姿ニ成ル程グチャグチャニ殺シテヤリタクナルンダヨ。二次元デモ……
広間に漂う闇の霧が、更に濃くなっていく。
♠
魔王サウスの周りを漂う霧は一気に凝縮し、紫がかった黒い剣へと形状を変えた。宙に浮いたその剣は百本単位で作り出され、剣先が一気にショーンとカイト、そしてウサテレへと向けられた。
『細切リニシテヤル!』
魔王が手を掲げ、投げるように前へ腕を振り下ろす。同時に剣が次々と彼等に向かって飛んでいく。
「くッ!!」
奥歯を噛みしめるショーンは、右手の黒い包帯に[剣心]の文字を浮かび上がらせ鞘に収めた白い剣を取り出す。彼は一歩分の間合いを詰め、剣の群の前に立ちはだかる。
彼は最も突出していた剣を一瞬で選び抜き、常人では到底視認出来ない程の早さで抜刀する。
だが……
「……やっぱりか」
彼の一振りは確実に一本の剣を直撃したはずだった。だが一番初めに魔王サウスを対面した時と同様、攻撃が当たらなかったのだ。
「ゴールデン・エンチャント!!」
カイトの周りを飛び交っていた光の球体の一つが、ショーンの剣へとぶち当たる。剣の刃は黄金色の輝きを纏った。
「ショーンの兄貴! 作戦通り援護するぜ! いけええええええええ!」
初めてサウスと交戦した時、物理的な接触攻撃が利かなかったのだがカイトの操る光の能力に対しては悲痛な反応を見せた。そこで光のエネルギーは魔王サウスの持つ闇の力を打ち払う特性を備えていること仮定し、一行は魔王城へ向かう間際に対策を練ったのだ。
カイトの力はとても応用力が利き、光のエネルギーを物体に付加させることが出来ることに気づき、簡単な検証を行った後に魔王サウスを追いつめる算段を思いついたのである。
カイトのかけ声と共にショーンは剣を閃かせ、目にも留まらぬ早さで飛び交う黒い剣を叩き落としていく。
「は、早!? 剣が見えねえ!」
ショーンの見えない程の速度で振り払われていく剣裁きにカイトは度肝抜かれる。
集中するショーンは無言で剣を振るい続け、彼の放つ幾多もの斬影はまるで光の障壁を彷彿とさせるように彼の前方を守り続けた。
驚いているカイトも、手を前にかざし力を込める。
「俺も負けてられないぜ! ホワイト・ホーミング・ブラスター!」
彼の言葉を引き金に、辺りを飛んでいた残りの光の球が放たれる。
光の球はショーンよりも更に前方へと飛んでいき、ジグザグに光線を描きながら黒い剣の群へと突っ込んでいく。
光の球達が黒い剣に接触するやいなや、剣は黒い粒子となって消滅していく。そして光の球はボールのように反発し違う剣へと当たっていく。
反発を何回も繰り返し光の球達は黒い剣を打ち消し刃の群を抜ける。抜けた先には魔王サウスのみとなり、球体達と魔王の間に障害はない。
「くらえ! 魔王サウス!」
カイトが両手を力強く前に掲げると、球体達は連動して魔王サウスへと意志を持ったように襲いかかっていく。
『フン、当タラナネェヨ! 雑魚ガ!』
サウスは黒い残像を残しながら、瞬間移動の如く玉座から離れて行く。光の球体達は残像を貫通するも、手応えもないまま後方へ貫通していった。
『サア、次ハサッキノ倍ノ数ヲ出スゾ! オ前等如キノチカラデ防ギキレルカナ?』
「あいにく、次はねぇんだよ!」
鼻で笑っていたサウスの背後から、デーブの声が響き渡る。ショーンとカイトが応戦している中、ウサテレは壁伝いに猛スピードで旋回し、サウスの背後へ一気に距離を詰めたのだ。
「その残念フェイスを大改造してやらぁ! 覚悟しろ!」
『ッ!? イツノ間ニ!? ダガ、俺ニ物理攻撃ハ利カナイ! オ前ノニンジン如キニ……』
「俺様を誰だと思ってやがる」
デーブは血走った目でニヤリと笑い、キーボードを素早く打ち込み始める。
「行くぞキッズ!! ニンジンミサイル・ショットガンモードだ!」
「おうよ! ホワイト・ホーミング・ブラスター・シフト・ゴールデン・エンチャント!!」
デーブの掛け声にカイトは応答する。カイトが放った光の追尾弾達はそのまま消滅せず、今度はウサテレへ向かっていく。
ウサテレの前方には何十本のニンジンが出現し、そこへカイトの光の球が合体し黄金のニンジンの束が完成した。
そして、デーブとカイトは同時に叫ぶ。
「「くらえ!! ゴールデン・ニンジン・ショットガン!!」」
黄金のニンジン達は炸裂し、幾つものニンジンの先端が魔王サウスの顔から足にかけて突き刺さる。更に追い打ちとばかりに、ウサテレは顔面に刺さった一本のニンジンを後ろ足で蹴り飛ばし彼を転倒させる。
そのままウサテレは宙返りをしながら後方へ待避した。
「
デーブはエンターキーらしきスイッチを華麗に押した。それと同時に黄金のニンジン達は爆発した。
『ギャアアアアアアアアアアアア!?』
爆発音と断末魔が響き、玉座の間に貼られたガラスが全て砕けて割れた。
灰色の煙に包まれる中、これにて決着がついた――
と、誰もがそう思った時である。
『マダ……ダ……終ワラネェ……』
魔王サウスは衣装も体もボロボロになりながら、立ち上がろうとしていた。
しかし――
「させないよ!」
ショーンは間合いを詰め、右手でサウスの頭を掴みかかる。
黒い包帯の巻かれた右手は、いつの間にかカイトのゴールデン・エンチャントが付加されており、そして……[剛腕]の文字が浮かび上がっていた。
『ソ、ソノチカラハ!?』
「ああ! いつもの怪力の力だ。ちゃんと使い分けできるのさ! そして、今度は本気で投げる!」
完全にサウスの頭を鷲掴みにしたショーンは、ゆっくりと力を込めていく。
「消えろ!」
ショーンの言葉と同時に弾き飛ばされる魔王サウスは壁をぶち破り、空の彼方へと消え最後に星となった。
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