第34話 アレッサ
馬車に揺られる。歩くよりも格段に楽である。
「ねえねえお姉ちゃんは何読んでるの?」
「……」
「ねえねえ……」
商人の娘のアレッサちゃんは数時間の旅路で少しは打ち解けてきたように思える。けど逆にメルルの奴は全然である。折角自分とドラゴでアレッサちゃんの心を溶かしたのに反応しないメルルのせいでまた心の扉閉じそうだし。
「はは、ごめんアレッサちゃん。そのお姉ちゃんはとっても駄目なお姉ちゃんなんだよ。気にしないでね」
なにかとても不満気なメルルの視線が向けられる。そういう視線をするならいたいけな子供を無視なんてするな。もうちょっとで泣いちゃう所だったぞ。
「お姉ちゃんはアレッサの事嫌いなの?」
「嫌いじゃないよ。アレッサちゃんよりも酷い人見知りなんだよ。だからもっと時間を上げてほしい」
「うん、分かった。アレッサと同じなんだね」
そういうとアレッサちゃんはニコニコしながらメルルの横に佇む。メルルもあとすこしすれば、ちょっとは慣れるとはおもうけど……どうなんだろう? こんな小さな子に優しさを向けられるってどうなの?
アレッサちゃんはしばらくメルルは放っておく事にして、もう一人の方に視線を向ける。自分にドラゴ、そしてメルルときたら後は一人しか居ないよね。勿論ブリンである。けど、アレッサちゃんは子供なりの直感なのかブリンが人ではないと気付いてそうな気もする。まあでもこの世界、人だけが居るわけじゃないからな。エルフとかドワーフとか絶対数は少ないけど、亜人とかもいる。
アレッサちゃんはただでさえ人見知りだから、小さなお口を開いては閉じてる。
「おいおい、何か声かけた方が良いんじゃないか?」
そう小声で言うとブリンの奴はこう言った。
「ごどもばうばそうだ」
ビクッと肩を震わせるアレッサちゃん。おいおいなんて事言うんだよこいつ。確かにアレッサちゃんはなかなかに美味しそうではあるけど。将来美人になりそう。いまでも十分に可愛いしね。それに子供は柔らかそうってのあるのかも。あんまり食べる所なさそうではあるけど、だからこそとか?
「アレッサ食べられちゃうの?」
うるうる涙目でそういうアレッサちゃんはメルルの腕にしがみついてる。うざそうにしるけど、振り払ったりはしない。
「大丈夫。彼は無闇に人を食べないから」
「人……食べちゃう系なんだ」
折角メルルが喋ったのにその内容のせいで、アレッサちゃんは引いてるよ。するとメルルは何度か迷いながら行動に移った。目を落としてた本を下において、ぎこちなくアレッサちゃんの頭に手をおいた。
「大丈夫……だから」
その行為にアレッサちゃんはちょっと思考停止してたけど、直ぐに顔をふにゃっとさせた。どうやら凄く嬉しかったようだ。それからはメルルも頑張るようになったから、アレッサちゃんの興味の対象はメルル一択になった。やっぱり異性よりも同性の方が良いのかもしれない。コミュニケーションが苦手なメルルでも本の事は饒舌だから、本に興味をもったアレッサちゃんに色々と教える様なやり方でなんとかやってた。
そんな微笑ましい光景に頬を緩めつつ、馬車は順調に進む。
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