(26)ディベート
「それでは始めます。まずはチームA代表者から、お願いします」
チームAメンバー「議題『世界を変えることはできますか?』の主語は人間であり、変える、という言葉は将来における変化を示していることは明白です。しかし、現在の社会における全体的な意思決定はアシュレイに委ねられており、その段階で主役は人間ではない。よってほかの『世界を変えることができる』という意見には矛盾が生じます」
チームCメンバー「異議あり。アシュレイがすべてを
チームAメンバー「今回の議題は世界を『少しだけ』変化させることを想定するものではないと私は考えます。仮想世界の変化が世界の趨勢を決めるわけではない。そもそも仮想世界だって人工知能システムの範疇です。社会の現状を逆転させるようなクリエイティビティが今の人類にあるとは思えませんが?」
チームEメンバー「世界を『変える』ということは、『変わる』ではなく人類が意図的に『変える』ことだと考えます。その意味で現在の仮想社会のクリエイティビティには人類の意図的な要素は少ない。例えばタイムマシンの開発など、もっとダイナミズムを生み出す画期的な成果がなければ、世界を『変える』とは言えないと思います」
チームDメンバー(玲)「可能性という意味では、タイムマシンの開発も可能性が0とは言いきれない。そもそもすべての可能性を否定するのはナンセンスです」
チームE担当者「ではあなたはタイムマシンを開発できると断言できるんですか?」
チームBメンバー(雅也)「チームD担当者はタイムマシンにこだわってそういった極論を述べているわけではない。それは先ほどの発表内容からも明白です。『悪魔の証明』のような論争には意味がない。もっと建設的な議論を望みます」
チームEメンバー「それではあなた方に質問です。『人間の生殖行為の減少が原因』と、そこがボトルネックのように述べられていますが、それが本当に改善するものならば、これまでにすでに改善できた話なのではないでしょうか? 私はここは根が深い問題だと捉えています。技術的なことで言えば、人工授精という方法もある。しかしそれは正当な理由があって禁止されているわけです。また、種の保存については、これまで多くの動物が失敗し、絶滅してきた過去があります。ここについてどうお考えですか?」
チームBメンバー(真奈美)「まず人工授精の制限についてですが、これは人口の爆発的な増大を危惧して設定されたものと認識しています。それ以外の可能性についても研究の必要性はありますが、いずれにせよ絶対悪とは言い切れないと考えます。次に、種の保存についてですが、現在の妊娠適齢期の女性数を
チームAメンバー「では重ねて質問です。人工授精の制限の撤廃について、今後のタイムスケジュール的に何年かかるか想定されていますか? また、妊娠・出産適齢期の女性について、絶滅が危惧されるほど減少している段階ではない、とのことですが、そもそも婚姻数が大幅に減少しているわけです。具体的な対策がない中でアシュレイのバランスを変更することは危険すぎると思いませんか?」
チームBメンバー(良助)「制限の撤廃について、ですが、少なくともその意思決定において、長期の議論を要するとは考えておりません。昔と異なり、アシュレイの思考バランスを考える上で、極端な性悪説に立つ必要がない。したがって、人口のレッドリスト入りについても余裕があるとの認識です。具体的な対策については、物理的には資源の分配および富の不均衡が一義的な課題だと考えています。その面においてはわれわれが先ほど述べたとおりで、30年前と比較して十分な余裕があります。これはつまり人類が『世界を変えることができる』十分な可能性を保持していることと同義と言えます」
チームDメンバー(涼音)「……人工知能の……演算で……解決……」
チームEメンバー「すみません、おっしゃる意図がわかりませんが?」
チームDメンバー(玲)「補足の補足を致します。現代における人工知能の演算能力は数年前には考えられないレベルまで向上しています。そこで、現在の資源分配のバランスと個人の幸福度、および婚姻の比率を天秤にかけること、つまり『個人の幸福の追求』と『子孫の繁栄』を矛盾なく両立するバランスを目標に演算にかけることで、合理的な変化を算出できるのではないか、という意図です」
チームDメンバー(霞)「さらに補足します。人工知能が人間の研究の産物であることも現在の地球規模での人類の存在スペースには十分な余裕があることも皆様ご存じの通りです。その上で『現状を
場内が沈黙する。状況を見て試験官が言った。
『はい、二次試験は以上となります。結果は後日発表いたします。本日はお疲れ様でした』
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