小さな恋の詩

Habicht

少女ハナ

第1話 湖畔の出会い

 天界、地上、魔界と隔たれた世界、

 その昔、天界の使者が地上の民と結ばれ血を残した。

 幾つもの代を重ね血は人々に散らばり、各地で人間より能力の高い者を生み出した。

 魔族にも対抗しうる力を得た人間に魔族は反発、

 地上は魔界の魔物に侵略されることとなった。

 幾つもの国が滅び、そして生まれていった…


 天界の血が薄まった現在においても、稀に発生する能力の高い者達は各々が騎士団や冒険者ギルドへ加入し、

 その力で魔物達との戦いに身を投じていた。


 天使と人間の恋物語がおとぎ話になった数千年後の現在、

 建国から数百年の王国から物語は始まる。


 王国は王国騎士団を有し、魔界の魔物と戦い続けてきた。


 さらにナイトギルドを併設、冒険者ギルドを統括し、治安の維持に務めてきた。


 騎士団はナイトギルドと共同でクエストを発注して、

 冒険者ギルドに魔物討伐や国からの任務、街の依頼などを斡旋していた。


 10年ほど前、南の砂漠の町で大規模な魔界からの侵略があり、騎士団は苦戦の末、これを撃破。

 騎士団長の名誉の死をもって終結する。


 それからさらに10数年の月日が流れたある日…


「アタシにも何か人の役に立てることがあればいいのに…」

 寂しげに湖畔で佇む少女の名は"ハナ"、

 小さい頃の記憶ははっきりしておらず、王国の西側、居住区で祖母と二人暮らしをしている。

 街外れの小さな湖畔で時間を潰すのが日課の、体の小さな女の子。

 基礎教育の学校は既に卒業していたが、未だ将来を決めきれず、バイト(街で受けられる小さなクエスト)で生計を立てていた。

 この日も行き付けの雑貨屋の手伝いで冒険者のための回復薬作りの材料を買い付けて、配達し終わった帰りだった。

「ハナ、お前は人より小さいのだから、暗くなる前には帰ってきなさい」

 それが祖母の口癖だった。

 今日は買い付けの量が少し多くて、すでに夕暮れ時になっていた。

 湖畔の水面が茜色に染まり始め、やがてくる夜を宣告していた…


「もう家に帰らなきゃ」

 立ち上がって帰路に着こうとした、その時!


『た、助けて!!』

 湖畔のすぐ近く、城壁の方から男性の叫び声が聞こえてきた!

 男性は走ってハナの方へと向かってくる!

 見れば後ろから黒く大きな"何か"が追ってきていた!

(そんな?!街の中に魔物が!)

 ハナは驚きと恐怖で動けなかった。

「騎士を呼んでくれ!」

 必死に逃げながら叫ぶ男性にハナは怖じ気づいて何も出来ない。

 大きな影は鋭い爪の伸びた大きな手を振り上げると

 次の瞬間!辺りに血飛沫が舞った!

「ぎゃっ!」

 男性は背中を大きくえぐられ、倒れこんだ。

「ひっ?!」

 恐怖で言葉にならない叫びだけがハナが反応した唯一の行動だった。

 動かなくなった男性に興味が薄れた魔物はハナに気付き、

 大きく鼻息を吹き出しながら、湖畔の周りの柔らかい地面に大きな足跡を付けながらゆっくりとハナに近付いてきた!

(殺される!)

 目は開いていても、もうハナには何も見えていなかった。


 今度は逆の手を振り上げハナに襲い掛かろうとした!

『うおぉりゃあぁ!』

 騎士らしき男が現れ、ハナと魔物の間に割って入り、

 大剣で魔物の腕を一刀両断する!

『ギャアァァァァ!!』

 腕を切り落とされ悶絶する魔物に向かって騎士は攻撃の手を緩めない!

 2、3と連撃を重ね、やがて魔物はその場に朽ち果てた。

「大丈夫か?!」

 ハナに言葉をかけるが、すでにハナは意識を失っていた…


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