第25話「メイザードの由来」
ぬいぐるみを手に入れて上機嫌の神奈はそのまま家に帰り、
ぬいぐるみを手近なところに置いた。
「それにしてもふかふかのぬいぐるみね。癒されるー」
「すっかり癒されモードだな」
「忍、どうしたの?」
「いや、ニューワールドとの戦いで気が滅入っているんじゃないかって」
「そうでもないわよ」
「まあ、その調子なら大丈夫だと思う」
「魔法は精神力も関わる物ね。気負いすぎてもいけないわ」
そんな神奈に忍はいう。
「いざという時は僕をたよってもいいんだ」
「お言葉だけ受け取って置くわ」
「まあ、男が魔法少女するのもどうかと思うしね」
ネオナチス戦において魔法少女として戦っているとは思えない口ぶりだが、
今の彼はまさかそうなると思っていなかったのだ。
「ふっ、いうじゃない。でも万が一って時もあるからね」
まあ、ネオナチスと戦う状況は万が一の時だともいえる。
それにしても僕はどうして魔法が使えるんだろうか、
と忍は小学生のころにも思っていたがしつこくなるので口出しはしてない。
小学生なので一卵性双生児の男女という物を知らないというのもある。
「良かったら一緒にお菓子食べるか?」
「プッキーね。いいわよ」
というわけで二人はプッキーを食べていた。
すると神奈は忍に向かっていう。
「良かったら、着せ替えをしてもいいかな?」
「えー……」
神奈が忍を着せ替え人形にしようとするのは冗談交じりだったが、
今回はかなり本気だろう。
療養のためだからだろうと思えるのだが、
いかんせん忍は気のりしなかったようだった。
「メイド服を着せたいわけ?『メイザード』だし」
「そっちのメイドじゃないわよ。魔法を作るから『メイドウィザード』」
「『メイドウィザード』を略して『メイザード』か……」
「どっかのヒーローみたいだと思ったの?」
「ニチアサの八時からやってるあれは属性魔法だったが」
「私は炎と雷だから違うわね」
「そこで冷静に返すのか……」
忍はちょっとあきれ顔だった。
「まあどうしても着せたいならいいさ。大変なんだろう?」
というわけで忍は神奈の勧めたメイド服に着替える。
「うんうん。やっぱり可愛いわ。こうしてみると私達って似てるわよね」
「姉弟(きょうだい)だからじゃないか?」
「それとこれとは関係ない気もするけど」
「一卵性双生児は性別が一緒になるはずだけどな」
忍がそういったのはまあ無理もない話であった。
何しろ一卵性双生児の男女は認知度が低い。
あまりに低すぎてミステリーのネタにされるくらいだ。
「でも、あなたが可愛らしい男の子なのは確かよ」
「年齢的なのもあるんじゃないかな?」
「僕がショタコンホイホイな年齢なのは事実かもしれないけど」
「ショタコンホイホイって……」
若干引き気味な神奈に対し、忍は返した。
「僕達は小学生だからね」
「中学生でババアとかジジイとかいう人は変態認定でいいかしら」
「いいんじゃないかな。日本だと小学生との結婚はアウトのはずだし」
「そもそも同性婚も認められてないしね」
「そういうのがおかしいとまではいわないが」
「皮肉ったのがバレたの?」
そんな神奈に忍はいい返した。
「そのくらい分かるし、僕だって節度は守れるさ」
「何となく忍らしいといえばらしいのかもしれないけど」
「まあ、今ごろ同性愛を否定する奴の方が珍しいからな」
忍が保守的なのは彼自身自覚があったようであり、
中学生になった今もなおそれは変わっていなかった。
「ともかく、もうメイド服を脱いでいいかな?」
「もういいわよ。充分癒されたし、何より申し訳ないし」
「そういってもらえれば助かる」
忍はメイド服を脱ぎ、私服に着替えた。
私服も神奈のおさがりだが、ユニセックスな物なので女物には見えない。
清宮家は貧乏というわけじゃないものの、
衣服の比重は女の子である神奈に置かれているので忍の物は後回しなのだ。
それに着回せる物は着回した方が節約にもなる。
というわけで忍は割と神奈のおさがりを着ることが多かった。
だからといって女装しているわけでない。
いってしまえば単なるリユース目的な上に女装に見えないよう、
男が着ても違和感の無い物を忍がおさがりとして着ているからだ。
ちなみに着回せない物は雑巾替わりにしたり、
当て布やカーテン替わりにしたりしていた。
貧乏じゃないとはいってもある程度の節約をすれば、
その分他に回したり貯金したりする余裕が生まれる。
なので貧乏かどうかは節約するかどうかと必ずしも関係しないのだ。
ともかく忍の衣装ははた目から見れば普通だし、
それこそ女物だというのはいわなきゃ分からないだろう。
また男物だとズボンがぶかぶかになってしまうほど細身の男性は、
女物のジーパンを履くことで誤魔化すこともあったりする。
専門店とかに売ってあるような奴は高いし、
それよりはファストファッション店で女物と分からないようなジーパンがいい。
そう考える人間もいることを鑑みれば、
男がそうは見えない女物を履いたって別に可笑しいことではない。
可笑しく見えるのはもはや感性の問題だろう。
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