内緒話

昼休み、寿直と硯さんが教室から出て行ったので引き続き啓介と雑談していたら、二人が走って戻ってきた。

そして教室の前でひとしきり騒いだ後、寿直がこちらに戻ってきたので事情を聞いたら酷い内容だった。

「なんつーか嘉木が言ってたのはそう間違ってもなかったのか」

啓介が一人で納得している。

嘉木さんと啓介がどんな話をしていたかも気にならないわけじゃないが、今はいい。

「寿直、硯さんってそんなキャラだったか?」

「そうだよ。なおやはいいんちょうと話さないからそういう印象ないかもだけど」

「そうだな。硯さんはもっと大人しくて真面目で落ち着いた子だと思ってたわ」

まさかそんなきっつい女の子だとは思わなかった。

なんだろう、俺の周りにはそういうちょっと変な女子しかいないんだろうか。

この話は京子ちゃん興味持つかな。

いや、硯さんと京子ちゃんの間に接点はないはずだから話さなくていいか。

「朝、嘉木から硯さんと仲が悪いって聞いたんだけどさ」

「いいんちょうとかぎさん? うん、それはいいんちょうも言ってた。かぎさんと仲良くないって」

「今の寿直の話を聞いて納得したよ。いや、もともと嘉木が誰かと仲良くできるなんて思ってなかったけど」

「それは嘉木さんに失礼だろ」

いったい啓介は嘉木さんをなんだと思っているのやら。

そしてそのひどい扱いを受けつつも啓介と仲良くしようとする嘉木さんもだいぶ不思議だが。

しかし啓介がそれでもなお距離を置かないということはそれなりにいいところもあるんだろう。

啓介は嫌いな相手にはとことん距離置くし扱いが最低になるからな。

「で、寿直はどうすんの」

啓介が寿直に向かって微妙な顔をする。

「どうって?」

「そんなトラブル起こすような硯さんとまだ付き合いを続けるわけ?

面倒だし大変だぞ」

知ったような口をきくのは啓介自身がそう言う経験があるからだろう。

祥子先輩とか。

嘉木さんとか。

「これくらいのことで、おれがいいんちょうと距離を置くわけないじゃない」

「だよなー」

「まあ、今回は90%いいんちょうが悪いんだけどさ。でも英語の先生も変な感じではあったし。

他の先生がいるところで付き合ってるのかーとか、男女付き合いについて説教始めちゃったりとか?

対応が子供っぽいよね」

うちの学校の教師は生徒同士の付き合いに全くと言っていいほど口を出さない。

だというのに今回口を出したのにはなにか理由があるのではないか。

たとえばちょっと前からクラス内の派手な連中がまとめて学校に来なくなってることとか。

寿直があっちこっち怪我をして登校してきたこととか。

「なあ寿直」

「うん?」

「お前、最近硯さんとなにかあったか?」

「ないよ。いつもどおり」

最初から寿直が素直に言うなんて思ってなかったけどさ。

でもなんかあるなら教えてほしいし、あまり危険なことはしてほしくないというのが本音だ。

だって友達に危ない目になんてあってほしくないだろ。

「いいけどさあ。なんかあったらちゃんと言えよ。

寿直は一人で危ないことするから」

「そうだぞ。困ったらいや、困る前に言え。報連相っていうだろ」

啓介と俺がそういうと寿直は笑った。

そうやって笑っていられるうちはいいんだ。

まだ余裕があるってことなんだから。


放課後に俺と啓介はそろって担任に呼び出された。

なにかと思えば寿直のことで、最近変わったことはないかとか、変なことを言ったりしていないかということだった。

「いえ、新崎君に変わったところはありませんが」

「笹井君の言うとおりです。新崎君はなにも変なことはありません」

担任はそうか、とため息をついて首を回した。

「新崎から聞いているかもしれんが、昼休みに英語の先生とちょっと揉めてな。

親を呼ぶかどうかで先生たちの間でも問題になってるんだよ」

「はい新崎君からしか話は聞いていませんが、英語の先生もだいぶ極端なことを言われたようですが」

啓介の敬語は気持ち悪いな、と思いながら横で話を聞いている。

俺の聞きたいことは啓介が話してくれるだろう。

「そうなんだよ。硯と新崎ならそうそう間違いは起こさないと思うんだが、いかんせん先日のことがあるからな」

「先日?」

それは、寿直が怪我をしていたことか。

「聞いていないのか。なら俺から話すことはできんよ。プライバシーやらなんやらに関わるからな

それ以上担任はなにも教えてくれなかった。

それもそうか。

このご時世、下手なことは言えないよなあ。

帰っていいとのことだったので職員室を出て教室に戻る。

そこには寿直が一人で宿題をしている姿があった。

さて、と啓介と視線を合わせる。

今あったことを素直に聞くかどうか、それが問題だ。

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