おはよう

「あ、降田先輩おはようございます」

「おはよう京子ちゃん。今昼休みだけど」

「それはそれ~~これはこれ~~。啓介先輩います?」

昼休みの教室。呼ばれて廊下に出るとそこには京子ちゃんがいた。

思わずでれっとしそうになるが要件が啓介ということで眉間にしわが寄りそうになる。

「啓介?」

「ええ、啓介先輩です」

「いません」

「え?」

「啓介は永久出張中です」

「いやいや、いますよね。普通にこっち見てますよね。啓介先輩ーー」

全力でブロックしたが駄目だった。

くっそ、啓介め。俺を差し置いて京子ちゃんと仲良くなるだなんて何事だよ。

せめて2人きりにはさせまいと啓介の前に立ちふさがる。

「なにやってんだよ直哉。えーーっと相内さんだっけ。なに」

「祥子先輩がお呼びです」

「悪いが俺は不在だ。用があるなら糸電話を使えと伝えてくれ。以上」

そして啓介は本当に去っていった。

不在はわかるがなんだよ糸電話って。

笹井姉弟の家には糸電話が設置されているのだろうか。

今どきチャットでもメールでも使えばいいじゃねえか。

「あらーー。まあ、こうなるってわかっていたんですけどね」

「京子ちゃんは笹井姉弟が仲悪いの知ってたんだ」

「ええ存じておりますよ。気持ちはわからなくないです。あんなに優秀な姉と比較され続けるだなんて考えただけでもぞっとしちゃいますね。

そういう歪んじゃったところ、かわいいと思いませんか?」

相変わらずの京子ちゃんだ。

かわいいだけではないところがイイと思います。

「でも最近啓介先輩に付きまとっている人がいるみたいですね。嘉木さん、でしたっけ」

「え?」

「あれだけ大騒ぎしていれば学年が違ってもわかりますよ。そもそも私は嘉木先輩と同じ中学でしたし」

そうなんだ。

知ってる先輩同士が昇降口で騒いでいたんなら気づくか。

「嘉木さんってどんな子?」

「そうですねえ。真面目な人でしたよ。まじめすぎて融通が利かない部分もありますが、おおむね正しい人です。

たまに口は悪いですし、負けず嫌いなところはありましたね」

ずいぶん詳しいな。

よほど仲が良かったんだろうか。

でも今も仲がいいかっていうとそうでもなさそうだけど。

だって今でも仲がいいならこんなそっけない言い方しないだろうし。

「京子ちゃんは嘉木さんとなにかあったの?」

「いいえなにも」

「そう」

まあ、言いたくないならいいんだけどさ。

それより今気になるのはもう一つの方だ。

「祥子先輩は啓介になんの用事?」

「さあ? 私はただ呼んでくるように言われただけですから。

そしてどうせ来ないだろうから、声だけ掛けてそれで終わりでいいと」

「なんで君が?」

「ふふ、なんでだと思います?」

そんなの答えは決まっている。

「理由なんかないんだろ」

「あら鋭いですね、降田先輩。ちゃんと気づいていらしたんですか」

「当たり前だ。あんまり俺を舐めるなよ」

そもそも祥子先輩が啓介を呼んでいないことも、京子ちゃんが適当なことを言っていることにも気が付いている。

伊達に京子ちゃん観察をしているわけではないのだ。

では何故京子ちゃんは啓介を呼び出すような真似をしたのか。

それもきっとたいした理由なんかない。

「そんなに啓介が気になる?」

「さっき言ったじゃないですか。かわいいって。あとは以前お伝えした通り、顔いいですよね。好みです」

あんなののどこがいいのやら。

目の前にもっといい男がいるっていうのに。

女子の目は節穴かなにかなんだろうか。

そんな腹黒かわいい系後輩を好きな俺もどうかしてるんだけど。

「あ、降田先輩も好きですよ」

「マジで。付き合う? 結婚する?」

「そういうキャラ作ってるところ大好きです」

「そりゃどうも。ぶれぶれなんだけどね」

「私も人のこと言えませんから。では当初の要件は果たしましたので失礼しますね。お昼休みを邪魔して申し訳ありませんでした」

「いーーえ。また部活で」

「はい」

そうして京子ちゃんは去っていった。

いやしかし京子ちゃんはマジで啓介のことをどう思っているのだろう。

好きなのか?

おもちゃなのか?

そういう意味で女の子の考えることはわからんな。

「直哉?」

「うん?」

「変な顔してるけど。大好きな相内さんと話せてハッピーなんじゃねえの」

「うーーん、疑問が深まっちゃって」

啓介は首を傾げ、寿直はくすくすと笑っている。

妹のいる素直には女心がわかるんだろうか。

でもそれを聞いてみる気にはなれなかった。

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