第10話 レギュラーのユニフォーム

 美術部に行ってたのでいつもより遅れて行ったけど、ネットちゃんと設置してありました。なんかいつもありがとう。

 いつものように帽子をかぶって、鞄から出したまま抱えて来たスケッチブックを広げる。

 最後の方は涼ばっかりだったけど、ジャージだし顔は描いてないから気づいてなかったな。まあ、この光景を見れば一目瞭然で涼だってわかるんだけど。なにせジャージは一年のみだから、ラケット持ってコートにいるジャージ姿は一人だけなんだから。

 私が遅れて入っていった瞬間みんな涼を見てる。涼は私を。あ、うん。嬉しい。けど恥ずかしい。



 さあ、描くぞ!ってここまで来たら、描くしかないよね。



「集合!」


 佐々木部長の声がテニスコートに響く。



 あれ? 今日は早くない? と見ていると、一年生が部室から何か運んできてる。レギュラーメンバーに新たにメンバーに加わった人用に、レギュラーのユニフォームか。あ、涼ももらってる。これで、ジャージ卒業だ。早っ!

 一年生まだラケット持ってないのに。




 と、またネット片付けてくれてる。


「ごめんね。いつもありがとう。これ出す時も?」

「ああ、うん」


 二人のうち一人が答える。チラッと私を見る。ええ! 同じクラスじゃない! うわ、なんかどうしよう。この扱い……。


 と、涼が嬉しげに私のところに来る。


「みて!」


 うん。見えてる。こういうのしたら怒られるよ。


「こら! まだ終わってない!」


 ね。佐々木部長が吠えてるよ。


 私も怒られないようにコートの外で大人しく待っている。




 コートから出たみんなはチラって私を見ていく。いつか私がこれに慣れるかテニス部員が慣れるかするまで続くのねこれ。


 やっと涼が来た。あれ? 髪クシャクシャ。相当いじられてたみたい。すっかり馴染んだみたいで良かった。前の学校の事があったからね。よかった。



「ごめん。待たせて」

「髪クシャクシャだよ」


 そう言って涼の髪に触ると思ってたより柔らかい。


「マジ!?」


 と涼は慌てて直してる。クシャクシャの方が可愛いかったのに。


「すっかり可愛がられてるね」

「いじられてるだよ」


 涼はふてくされてる。相当いじられてたね。やっぱり。



「ほら、早く帰ろう」


 今日は私が涼の腕を持つ。意外、あ、意外じゃないんだけど。普段見えないけどちゃんと筋肉ついてる。レギュラー勝ち取るんだから当たり前なんだけど、細身に見えてたんだけどな。


「なあ、さっきなんで無視した?」


 あ、さっきのあれか。


「佐々木部長に今朝言われたの、テニス部でみんなの気の散ることしないようにって」

「え、いるだけで、みんな気散ってるけど?」

「そうだけど、さらによ。ってそんなに気が散る? 私がいると?」


 ヤバっ! テニス部に迷惑かけてる?


「ん。まあ、そのうち慣れるんじゃない? だいたいそんなんじゃ試合出来ないし」

「そうだよねー。観戦いっぱい来るのかは知らないけどいるもんね」


 ちょっと涼なんでか笑ってる?


「何?」

「いや、試合楽しみだなって。凛も来るんだろ?」

「うん。佐々木部長に確認されたんだけど。あれって観戦自由だよね?」

「そうだと思うけど。何でわざわざ確認したのかな?」

「さあ?」

「それより…」


 と、ガサガサとユニフォームが出てきた。あれ? 新品だったよね? さっき?


「何でクシャクシャなの?」

「さっき先輩に無理やり着せられた」


 それで髪が乱れてたのね。


「えー。私も見たいな」


 なんて無理な注文してみた。明日になれば見れるってって涼が言うと思ったのに。

 涼は鞄を置いてラケットも下に置き始めた。

「いや、うそ。ここで!? 冗談だよ。明日、明日見るから!」

「一枚しかないから試合しか着ないんだけどなー」


 えっ! あ、本当だ。そう言えばレギュラーユニフォームとそうでない時がある。佐々木部長。


「え、試合までダメなの?」

「そう言われたけど」

「……」


 やだな。見たい。見たい!!


「いや、でもここで着替えたら変だよー」

「じゃあ、うち」

「へえ?」

「うちおいで」


 神社だよね? ええ!!


「少し通り過ぎるだけだろ」


 そういう問題じゃないんだけど。

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