第7話 テニスコート
うう、行きづらい。
放課後のテニス部のテニスコート。コート前なんだけど入りづらい。あの噂話どこまで広まってるの?
あー、でも、行かないと本当に涼目当てで行ってたって思われるし。あ、事実はそうなんだけど。そう見られるのは嫌だしな。
そう、それに絵!! 昨日の絵やっぱりいい。今まで動きのある絵を描いてこなかったから、最初は戸惑っていたんだけどだんだんとサマになってきたんだよなあ。
やっぱり行こう! ここでくじけたらダメだ私! それに涼がいるし。やっぱり涼に会いたい私。
あ、ベンチの前にはネットがおいてあった。来てよかった。あれが不自然に片付けられてくのは嫌だな。
当然のようにそこに座り帽子をかぶる。
あ、それでか。佐々木部長にまだかかるか聞かれたのってあの噂話だったんだ。自分が予想の一位だったから余計に嫌だったんだ。
「よ、凛。僕を描いてよ」
通り過ぎざまに私に声をかけていく。
う、自然にさらっとなんであんなにできるのよ。
「小林! 早く描けよ。こっちは親善試合あるんだからな」
「はい。頑張ります」
噂話どこまで広まってるのかわからないけど、今日の佐々木部長、勢いないな。もう怒り疲れた?
試合に向けてレギュラーは本格的な練習になってる。他の部員は基礎トレーニングやランニング素振り球拾いなどコート使わない練習メニュー。厳しい世界だな。運動部って。運動には全く縁がなかった私には新鮮な世界。
本番に向けた真剣な練習。いい感じに描ける。
あ、ちなみにもう誤解を招きたくないので、涼ばかり描いてます。
さすがは二、三年生蹴散らした涼、描いてて物足りなさは感じない。むしろあの迫力をどう描くのか悩んでいる。顧問が即許可した理由がわかった。難しい。
「集合!」
佐々木部長の掛け声。今日は終わり。って、ここ先生来ないな。佐々木部長に一任されてるよね。あの先生……軽い返事をしてたもんなあ。
「ありがとう」
いつものように一年生がネットを片付けてくれる。
さあ、私も帰ろう。スケッチブックやらを片付けて立ち上がると涼が走ってきた。
「一緒に帰ろう。着替えるから待ってて」
「あ、うん」
コートで待っているのも何だか恥ずかしいので、コートから出て涼を待つ。
通り過ぎる部員達、みんなが知ってるように見える。見ていられなくて空を見上げた。何もない空を見てるのも限界とコートの入り口を見る。ああ、あの日の涼みたい。その場所に立っている。ただあの日のような不機嫌な顔ではなく笑顔で。軽く手をあげようとすると、後ろから来た先輩に早く行けと涼は頭を撫でられてる。意外に可愛がられてるし。
「待った。ごめん。先輩に絡まれて」
と、後ろを見る。私の腕をとり急ぎ足で門を出ようとする。
「絡まれたってそんなに?」
「いや、屋上で何してたんだって。何もないじゃあ、納得してくれなくて」
自分が腕を回してきたくせに! 何もないで済ませようとしてたのか。
「私も友達に質問攻めにあったよ!」
「いや、ちょっとやり過ぎた。ごめん」
手を合わせて謝ってる。まあ、いいんだけど。って、ちょっとなの?
「あのさあ、涼って、その」
手が早いの? なんて聞けないし。
「いや、いい」
「でも、良かった。マジで部長だと思ってたから」
「なんでみんなもそう思うの?」
「え? だって部長としか話してないし」
なぜ、そう見えるんだろう。
「あれは、話ではなくて、苦情をいちいち言われてたんだけど」
「でも、凛他の部員と話してないし。あ、俺なんて話かけたら、部長に途中で入られたし」
「いや、あれは部長としての注意でしょ? 話しかけるタイミング探してたんだけど、部長目が厳しくて、困ってたんだよ」
本当は初日から話しかけたかったのに。
「でも、テニス部にいてビックリしたよ」
「私なんか先生に頼んで、佐々木部長に文句言われてコート入ったのに涼がいなかったから、どうしようかと思った。やめるなんて言える雰囲気じゃないし」
涼が軽く笑う。
「笑い事じゃない。こっちは必死だったんだから。一年生の教室行かないから二年生かと思ってテニス部に行ったのに」
「ごめん。ごめん。あの日は登校初日だから職員室行かないといけなくて。なのに、興味があったからテニスコート覗いたら、津島先輩に絡まれて試合してたら時間くっちゃって、学校の中わかんないから急でたし」
それであんなに早くにいなくなったんだ。
「でも、凄い時期に引越しだね?」
入学して一週間ぐらいしか経ってないのに。
「ああ、親父がな。じいちゃん倒れたから、実家継ぐんで慌ててこっちに引越したんだ」
「大丈夫なの? おじいさん?」
倒れて継ぐって。
「あ、ああ。それがさあ、もうでっち上げ? みたいな感じだったんだよ。大したことないのに大騒ぎして」
「そうなんだ」
でっち上げ? ってなんなんだろう? まあ、大したことないならいいか。
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