第74話 長い一日の終わり
助かったと思ったとき、気が付いた。
……グェイブがない!
探してみると、すぐそこに転がっていた。
手を伸ばしてみたけど、届かない。それどころか、リューナを前から抑えつけていた男に見つけられてしまった。
そいつが拾おうとした瞬間、僕は目を閉じた。何が起こるか分かっていたからだ。
何も見てなくても、白い光がビカっときた。
目を開けると、どいつもこいつも腰を抜かして倒れている。
立っているのもいるけど、こいつらの何人かはたぶん、テヒブさんがいたときに家の中へ踏み込んできたヤツらだ。
確か、床に落ちたグェイブを拾おうとして、セキュリティ用の限定魔法で吹っ飛ばされたんだっけ。
そりゃヤバさが分かるだろうし、その話を聞いたヤツも目を閉じるだろう。
村長はと言うと、まだ手枷を持ったまま、両脇に男たちを立たせてリューナを待ち構えている。立っていられるのは、グェイブの限定魔法について聞いてたからだろう。
……リューナ?
村長に向かって、まっすぐに歩いているのはリューナだった。光を見ないで済んだってことが、限定魔法が発動したとき、2階から見てたんだろうか。
男2人に左右両側を塞がれたリューナに、村長が手枷を突き出した。男たちはそれを取って、リューナにはめようとする。
……やめろ!
言う前に、リューナは手枷を押しのけた。僕は急いでグェイブを拾うと、その場に駆け寄る。その手を掴んで逃げるつもりだった。グェイブさえ持っていれば、誰も手は出せないはずだ。
でも、リューナを連れて走り出すつもりだった僕の手は振り払われた。余った勢いでその場に転んだときに見えたのは、リューナを追う男たちの足だった。
……まずい!
慌てると、よけいに手足が動かなくなる。足をじたばた滑らせて身体を起こすと、村長が男たちと、無言でリューナを見送っているところだった。
……追わない? 何で?
リューナは、前に自分が閉じ込められていた家へと歩いていく。ようやく立ち上がった僕は、後を追った。
呆然としている村長と男たちをよけるのもめんどくさかったけど、妙に素直に通してくれた。それが気になって振り向くと、やっと我に返ったのか、村長を置いて男たちが追ってくる。
追いつかれるかと思ったけど、何故か女たちが駆け寄ってきて止めてくれた。
どうしてかなんて考えている暇はなかった。
……助けなくちゃ。
家の中へ入ったリューナは、ドアを閉めた。それを開けて追いかけると、階段を上るところだった。
その先には、窓枠に十字架のはまった部屋があったはずだ。
……入ったら、閉じ込められる!
外を見ると、女たちを押しのけて、男たちがやってくる。リューナが胸を触られたときはカッとなったけど、今は違った。
戦わなくちゃいけなくなるのかと思うと正直、顔を見るのもいやだった。
……来るな!
僕は家から出ないで、グェイブを戸口から突き出した。
そいつらの足は止まったけど、1人だけ、ふらふら歩いてくる男がいた。限定魔法を見ても平気で来るようなヤツは、脅してもムダかもしれない。
関わると、本当に斬りつけなくちゃいけなくなる。リューナに触らない限り、それはやめておきたい。
そう思うと、つい、後ろに退いてしまった。
男は、グェイブの光でぼんやりと照らされた家の中に入ってくる。
「止まれ」
グェイブを突きつけたけど、怖がりもしないで、まっすぐ歩いてくる。このままじゃ、リューナがまた捕まってしまうかもしれない。
……やっちゃうしかないのかな。
僕は覚悟を決めようとして、目を固く閉じた。
……だめだ。
やっぱり、こわい。
男はグェイブの先っぽから逃げて、階段へと向かう。その時、男の手にカギが握られているのが見えた。
……リューナを閉じ込める気だ!
僕は男の背中にグェイブをつきつけた。
「よこせ」
日本語で言うしかなかった。伝わるかどうかは分からなかったけど、ダメだったら、こいつの手からグェイブの柄で叩き落とせばいい。そのくらいなら、たぶんできる。テヒブさんから習った技なら!
男は、僕の言葉がわかったみたいにあっさりとカギを落とした。急いで拾いに行くと、グェイブを見た途端にしゃがみ込んだ。
そこへ、村の男や女が次々にやってくるのが聞こえた。
「……!」
「……、……! ……!」
後ろから聞こえる大きな声は何を言っているのかは分からなかったけど、僕の悪口みたいに聞こえた。
小学校や中学校の体育でドッジボールとかやらされたとき、ミスをするとスポーツ得意なヤツが何人も、こんな風に怒鳴ったのを思い出した。
「うるさい!」
僕がグェイブを高く上げて叫ぶと、そんな声は聞こえなくなった。こんなヤツらは無視して階段を上がっていく。
窓枠に十字架のあるほうの部屋に入ると、そこにはリューナがベッドに腰かけてうつむいていた。グェイブの光に気が付いたのか、僕を見ると駆け寄ってきて抱き着いた。
「リューナ……」
胸の感触にドキっとしたけど、深呼吸して身体を離した。手を取って、カギを握らせる。
「……」
何か言ったけど、意味は分からなかった。ありがとう、とでも言ったんだろうか。
部屋から出て、ドアを閉めた。グェイブの光を頼りに手すりから下を見ると、村の人はまだこっちを見てるみたいだった。
……入れるもんか、絶対に。
中からカギがかかる部屋じゃない。僕はグェイブを抱えて、廊下の壁にもたれた。これなら、誰も近寄ってこないだろう。下手に僕を動かそうとすれば、グェイブに触ってひどい目に遭わされるだろう。
そう思うと、急に眼の前が暗くなった。僕は眠ってしまったのだ。
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