第47話 先生は何でも知っている?
シャント…山藤もうまくやっているようで、心配することもなかったが、面白くもなかった。スマホを見る理由もなくなって、俺はその電源を切った。
まだ沙羅が男子生徒どもと楽しくやっているだろうと思うと、教室に戻る気にもなれない。どこで時間をつぶそうかと考えながら、図書館の隅を離れようとしたときだった。
「言語学の勉強は進んでいますか、八十島君?」
ぼんやりしたダウンライトの光を頭から浴びた、鼻から上が影で真っ暗な顔が俺を見下ろしていた。
眼鏡をかけた、白髪交じりの細長い顔は、うちのクラスの担任だった。
……セーフ。
スマホを学校の構内で使っているのを発見されたら、没収だ。これがまた一晩、手元にないとシャント…山藤が苦境に立ったりやる気をなくしたりした時に、フォローできなくなる。
ミッションに失敗して「死なれ」たり、沙羅のお膳立てしたご都合主義でいい気になって、異世界に居座るような勘違いをされてはかなわない。
「ええ……」
たぶん、言葉の問題はクリアできたと思う。方法というよりは、本人のやる気の問題だった。
「そうですか」
それだけ言い残して、担任は書棚の角を回って姿を消した……と思ったら、本を1冊、わざわざ持ってきて差し出した。
「棒縛り、って知ってますか?」
そんなの知らなかったし、別に読みたくもなかったが、ここで受け取らないと解放してもらえそうになかった。
「いいえ……読んでみます」
担任が再び立ち去った後、俺はその辺の書棚をぐるりと回って、どこにもいないのを確認した。
本なんかさっさと返して図書館を出ようと思ったが、あとで確かめられても面倒臭い。一応「棒縛り」だけは確かめておこうと思った。
目次を開くと、その言葉はすぐ見つかった。古文で書かれた狂言だったが、何でこんなものを読んでみろと言われたのか分からない。
本文をざっとナナメ読みしてみたが、それほど難しくはなかった。
要は、大酒呑みの召使2人が困り果てた主人に縛り上げられるが、悪知恵を巡らしてまた酒を飲むというだけの話だ。
どういう脈絡でそんな話を持ち出したのか見当もつかなかったが、舞台写真のあるページを見て驚いた。
その中の狂言役者が1人、棒を両肩に担いでT字の姿になっている。
……どこで見てたんだ?
偶然の一致でない限り、スマホを使っていたのを見逃してくれたことになる。次はないなと覚悟すると、時間を見るために電源を再び入れようという気は起らなかった。
本棚の間を通り抜けると、壁に掛かった大きな時計が見える。昼休みが終わるまで、10分くらいしかなかった。
俺は沙羅目当ての男子生徒が自分たちの教室へ戻ってしまっていることに期待しながら、図書館を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます