第22話鉱山都市アイゼンハルト
日本時間九時半、ゲーム時間二十三時、夜一緒にPTで狩りをするかも知れないので昼間は自身のレベル上げをする。エルドワにも会いたいが、ゲーム内が夜中なので無理だろう。
昨日のPTで得た経験値は五百位で、アルミラージ二匹分より少ない。今なら経験値百%UPスクロールがあるので、一匹分にもならない。まだ使ってなかったけど、アルミラージより良い敵に会えないし使っていいだろう。
PTでの戦闘はAIの学習には良いし、一緒にプレイするのが楽しいので、稼ぎは別にどうでもいいのだが、経験値を貯めて”兎の餌二”が取れるだけの蓄えと、LV十までの経験値は欲しい。
前田が遠慮なくLVUP出来るようにしてあげたいし、孫娘にも応援されてしまったから、兎以外の敵も呼び寄せられたら便利だろう。
お使いクエを受けて、商会にいき、串焼き食べて、よし今日も頑張るぞ。
経験値UPスクロールを使って、歩いているアルミラージに向けて脱兎を行う。アルミラージは吹っ飛ばされて、地面を転がりヒクヒクしている。そして止めを刺す。
いやー刺身にタンポポを乗せる仕事より簡単だわー[菊です]剥ぎ取りナイフを刺すと、肉と皮が百個とアルミラージの角が出た。いいね、この調子で行こう。角も枠をとって邪魔だから少し売り払っちゃえ。
途中昼飯休憩をとりつつ、日本時間十六時、ゲーム時間十二時、経験値も十一万九千溜まったし、肉と皮の相場は若干下がったものの、マールも九百七十万は有る。ふふん。
経験値の使い道は、詳しい
しかし、バレないように聞くって難しいな。どうするかな。
エールラーケからクローネシュッタトに戻るために、街道から少し離れた場所を移動する。
街道を見ると、NPCの商隊らしき集団が、狼の集団に襲われている。相変わらず細かいなぁー。
あ、一人狼に片足を噛まれている。魔法使いらしき人が噛まれている人にヒールをしている。戦士は別の狼と対峙していて助ける余裕が無さそうだ。
相当苦戦しているな、NPCにも横殴りってあるのかな? 助けが必要か聞いて求められたら助けるかな。
「大丈夫ですか? 手助け必要ですか?」
「お願いします!!」
戦士が大きな声で支援を受け入れた。んじゃ、駆け足で近づいて、足を噛んでいる狼に向けて
「クライネファイヤー」
火の玉が飛んで行き狼のお尻に当たった、狼のお尻が燃えており、噛まれていた人は開放された。
他の狼三匹が私に気がつき、こっちに向かってくる。何で全員向かってくるの? とりあえず
「クライネファイヤー」
先頭の一匹に火の玉を当てた。顔が燃えており、その場でイヤイヤしている。残りの二体の相手をする。
一匹がこちらに向かって飛びかかってきたので、槍を横から当てて軌道をそらしつつ、もう一匹の方に押し出した。もう一匹はその狼が邪魔でこちらに向かってこれない。距離があいているので
「クライネファイヤー」
押し出ししていない側の狼の腹に火の玉が当たり燃えて、その場で悶えてる。先ほど押し出した狼に槍を突き刺し、ヒクヒクしたので、再度槍を突き刺す。腹が燃えている狼に槍を突き刺した所で、別の狼が私の上半身目掛けて飛んできた。
上半身をひねってかわし、槍を引き戻して、狼に向けて刺す。狼は避けようとしたが、横の刃は避けきれず片足を引きずっている。動きが鈍っているので、次の槍は回避できず倒れた。
商隊側を襲っている狼も戦士に倒された。ウインドウが表示されたので戦闘が終わったようだ。意外に弱かったのは、既に手負いだったのかも知れない。商隊に近づくと
「ありがとうございます。助かりました」
噛まれていた四十才くらいのおじさん、オトマールが話しかけてきた。数人死に戻りが出て戦力が下がっていたそうです。
狼は剥ぎ取らないの? と思い質問したら、ポシェットに余裕は無いので、全部貰っていいとのこと。
剥ぎ取りナイフを刺したら、合計動物の皮八十になった。しかし何で狼は動物の皮なんだ?
名乗ろうと思ったら私のことを知っていた。なにそれ怖い! どうやら私がお使いクエをしている商会の会員らしい。
彼達や他の商会会員達も街道を頻繁に移動しているのだが、一度も私とすれ違ったことが無いのに、短期間で仕事を終わらすので、不思議に思っていたそうです。
ちょっとNPCとかに力いれすぎなんじゃないかこのゲームと思いつつ、職業上の秘密なので教えられないと言ったら引き下がってくれた。
街道の途中には安全地帯があって、そこで同業者を待ってから帰途に着くといっているので、安全地帯までは一緒に移動する事にした。
移動しながら、前から疑問に思っていた幾つかの質問をしてみた。街道で野営する理由は、夜、街道にはゾンビやスケルトンが出やすい為、安全地帯で朝まで待ってから移動するそうです。
オトマール達の仕事は、街と街の間で商品を配達する仕事で、私のお使いクエとあまり変わらなかった。
どうしてその仕事をしているの? と尋ねたら、生活のためと回答されてしまった。ちょっと私が聞きたかった回答ではなかった、質問の仕方が悪かったようだ。
もし配達が滞るとどのような問題が発生するのか? と尋ねたら、街の生活に支障が出てくるそうだ。
クローネシュタットの一都市だけで、全ての物資を用意出来ないので、例えば食べ物が不足すれば飢饉が起きる。
薪や炭が不足すると、家庭で暖が取れないので冬では凍死するし、火が扱えなくなれば、鍛冶屋の炉や、パン屋の窯なども止まり、生産活動にも支障がでる。
クローネシュタットは、アイゼンハルトと比較すればまだましで、二都市と小さいが複数の村との間で交易ができているので何とかなっているが、アイゼンハルトは、殆どの食料をクローネシュタット経由で賄っていたので、そろそろ食料が尽きるのではないかとの噂が出始めている。
凄い深刻な問題ではあるが、クローネシュタットも自分の街を維持するのが精一杯で、グリフォンの群れを突破出来るほど戦力はないとのこと。
それでも状況確認のために、街の兵士が何度か向かっているが撃退されて街に戻されてしまっているそうだ。
うーん食糧不足かあ。餓死しているNPCとか見たくないな。しかし私に何とか出来るのかな、脱兎なら行けそうな気もするが……、死んでもデメリット無いし、とりあえず行くだけ行ってみるか。
「オトマールさん。もし私がアイゼンハルトまで行くといったら、支援をしていただけるのでしょうか?
食料や燃料を運ぶと言っても、個人の力では配達物を用意するのも困難だと思っています。私なら、もしかしたらですが、たどり着けるかも知れません」
「ほっ本当ですか! それでしたら、今、商会長に一筆書くので、それを持って行って頂ければ、支援が出来るかも知れません」
オトマール達を安全地帯まで送り届け、紹介状をもらい、少し駆け足で丘の裏まで行って、脱兎でクローネシュタットに戻った。
前田から“ささやき”という個人間で通信するチャットが来たが、今日は用事があるのでと断った。ごめんな。
商会に行き、納品とドヤ顔とセットで紹介状を出したら、別室に案内された。応接室のソファーに座って待つ。
ドアが開き、私と同じくらいのおじさんが入ってきた。
「はじめまして、商会長のウーヴェです」
「えーすです。よろしくお願いします」
席を立ち、握手しながら自己紹介をした。
商会としても、食料や燃料など物資を用意する事は可能だが、冒険者ランクEの私に本当にアイゼンハルトまで移動が可能か不明瞭なため、無条件に信じて用意する事が出来ないそうです。
うーん。アイゼンハルトまでの距離を確認すると、およそ五十キロで、登山という程でもないが上り坂になっている。
街道は続いているので道に迷うことは無いらしい。断崖絶壁や吊り橋のようなところもなく、走っても大丈夫そうだ。
今はLV六でMPが百だ。これだと脱兎四十キロ分で若干足りない。脱兎が切れて休憩している最中に襲われると厄介だな。
LV七でMPがどこまで増えるか分からないが、百二十五あればギリギリ足りるはずだ。LVUPしたらHPもMPも回復する不思議仕様だしLVUPをしてみるかな。
「それでしたら少しでも構わないので、アイゼンハルトに必要と思われる物資を用意して下さい。まずは一度行って帰ってきます。何も持たずに行くのは時間の無駄です」
担保としてとことわり、アルミラージの角六本、兎の涙八個、兎の涙大粒二個を出して机の上に置いた。
「おお! これはアルミラージの角、しかも六本も。それに兎の涙を八個、えええ!? 兎の涙大粒うう!!」
おったまげて、両手を目の前で揃えて、“の”の字を書くように動かした、キャラ崩壊してますよ。
「……あなたの本気、分かりました!」
アルミラージの角はポシェット枠を専有するので出しただけなんだけどね。
ただ物資を用意するのに時間がかかるので、一時間後に商会で受け取る事になった。ちょうど良かったので放置露店して、ちゃちゃっと夕飯を食べる。
西門側のギルドにいき、クエストの報告をして、LVUP窓口に行く。
LV七にアップする。MPは百二十、これだと若干足りない。八にするには経験値二万五千。大丈夫経験値はまだある。
LV八にアップする。MPは百五十になった。よし、これなら余裕でアイゼンハルトまで到着できるはずだ。
でも脱兎を利用出来るのは、人が見えなくなってからだ。そうなるとそこまでの移動時間が勿体無いな。
窓口の担当に脱兎一と脱兎二は、任意に切替えて発動が可能なのか確認したら、その通り、任意で発動する種類を選べるとの事。
脱兎二なら、傍から見たら全速力と言って誤魔化せるかもしれない。脱兎二も覚えることにした。
しかし、今の時間帯は昼間なので兎が出ると厄介だ。フロアNPCに“兎の餌”の効果を解除したい場合どうすれば良いか確認したら、称号をギルドカードから外せば効果が解除されるとの事。
称号を再度セットすればまた効果が発動し、称号の付け外しは報告窓口で行えるとの事だったので、報告窓口に行き、“兎の餌”を外した。
私が出来る準備はここまでだ。まだ時間があるので串焼きを食べていると、
約束の時間になり、商会に行くとウーヴェ商会長が待っていた。
ポシェット枠を確認されたので、残り五十一枠と答えて、詰め込めるだけの物資を詰め込んだ。そこでウインドが表示された
「緊急クエストを受けました。納期が十日後[当日含まず]、一品目一万マール。一日短縮で千マール追加」
完了時の報告は、ウーヴェ商会長か商会になっていた。
「では行ってきます」
少し駆け足で西門の外に向かう。
西門を少し出たところで、AIを飛び避け可能モードを選択し、
「脱兎二」――――――――「脱兎二」――――……
全速力よりも若干早い足で草原を走り抜ける。念のためポシェットから薬草を取り出し食べる。
後々何か言われた時に、全速力でしたと言えるよう、少しでも違和感が無いようにするための工作だ。
人が見えなくなってきたところで、
「脱兎」――――「脱兎」――――「脱兎」……
だんだん風景が丘というか山っぽくなってきた。大体半分くらいだろうか、空に飛んでいる小さい物がいくつか見える。
地上には、猪や狼、オークの集団、熊、蛙、大蜘蛛が見えた。時速約三百六十キロなので、怪物が気がついた時には、既に離れてしまっている。
MPを九十消費したので、そろそろ三十六キロくらいかな。飛んでいる化物が結構大きく見え始めた。
化物が空から降りてくるが、どれも検討違いな所に行っている。どうやら私の速度に追いつけないらしい。これなら行けそうだな。
大きな街が見えてきた。多分アイゼンハルトだろう。途中から脱兎二に切り替えて街の門まで入った。ふうー。
「鉱山の街、アイゼンハルトにようこそ。というかグリフォン大丈夫だったんですか?」
衛兵が心配して声を掛けてくれた。大丈夫と返して納品場所の商会に向かう。
商会につき、緊急クエストの内容を伝えて物資を渡した。
「った助かったのか?」「ありがとうございます」
「兎肉感謝!」「兎のふんて……」
どうやら食料や燃料などが底を尽きかけていたようだ。何度か困窮を伝える伝令を出したが、全て怪物に襲われて到着できず困っていたとのこと。
ここは約一万人都市なので、持ち込んだ食料は、普通に食べたら二食分とちょっとになる。ぐはっ。
何往復しないとダメなんだ……。受領書兼お礼状をもらい、どうせ戻るならと溜まっている鉱石類を持たされた。お礼だから持っていけっだって。
商会にある仮眠室で約十分程横になりMPが回復したので、クローネシュタットに戻ることにした。
ちなみに、西門を出てこちらの門に入るまで、だいたい十三分でした。有り得ない速度だね。帰りは何分かな?
街の近くは脱兎二で、離れたら脱兎で移動する。クローネシュタットに近づいたところで、脱兎二に切り替える。もちろん薬草を食べることは忘れない。
西門から商会までは軽く小走りし、途中で串焼きを買ってポシェットにいれて商会に戻った。
ちなみにアイゼンハルトの門から西門までだいたい十二分でした。
ドアツードアっていい方が正しいか分からないが、依頼を受けて戻ってくるまでの時間が、休憩時間を入れても一時間掛かっていない。
何とか配達は可能だが、一度に届ける量が少な過ぎて私だけではどうにもならない。ちょっと相談しないとダメだな。
商会に入るとウーヴェ商会長がいて、私を見てガッカリしている。
「ウーヴェさん。実は相談したい事が……」
「いやいやわかってます。そんなに気落ちしないで下さい。兵士も何度も……」
「いやいや、そうではなくて……」
「でも、えーすさんなら出来ると期待しています。確かに一度は撃退されて戻ったかも知れませんが、ここは諦めずにもう一度、いや何度かは試みて……」
「違うんで……」
「あーわかってます。でも、そこを押して何とか、何とか、お願いします……」
うーん話を聞いてくれなそうだな。横にいるちょっと可愛い獣人羊女さん、多分秘書さんに受領書を渡す。何? って顔をしたが
「きゃああああー、メエエエーーー」
悲鳴は無いだろ悲鳴は、ていうかメエーとか言っちゃうんだ。
辺りが騒然とする。
「な、なんだセクハラか?」「フリージャンちゃん大丈夫?」
商会内の男どもが、俺を睨んでくる。いやいや何もしてませんよ。
「アイゼンハルトからの受領書です!!!」
フリージャン助かったよ。というか貴女が私を追い込んだんですけどね。
ウーヴェ商会長と仮眠室に行き、[いや私のMP回復のためですよ]少し相談をする事にした。私はMP回復の為ベットで横になっている。
「まさかこれほどの方だとは……」
ウーヴェさんが驚いている。そりゃそうだ。私も一時間弱で戻れるとは思ってませんでしたよ。
しかし、一度に持ち運べる量が限られている。何度か配達するのは構わないが、ずっと配達する事はお約束出来ない。
「失礼します。副商会長のフィデリオです。いや、横になったままで結構です」
フィデリオがフリージャンに連れられてやってきた。
「領主のハイコ様に私の面会を取り付けて欲しい。人命が掛かっている。一刻も早く頼む。商会旗を持っていけ」
何か大事になってきたんですけど、目立ちたくないのですが、
「ふむ。フィデリオ、その辺も含めて頼めるな」
「はい! 直ちに!」
フィデリオさんが走って出て行った。
ウーヴェ商会長から、少し話が長くなるが、とことわりをいれて
「えーすさん。商会に入る気はありませんか?」
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