第19話スラム会議と初心者支援
メンテナンスが終わる予定の日曜日十五時。マウントギアを装着しゲームを起動……。
クローネシュタットのギルド出張所西門側だ。各種お詫びをもらう。荷物が一杯で受け取れない場合は後日受け取れるとの事。
お詫びの目玉は、経験値千取得宝箱*十個、取得経験値百%アップ巻物[効果は一時間]*三十個、百万マール[全員に同額]
今までゲーム時間で毎日受け取っていたお詫びは貰えなかったので、配布が終了したらしい。
注意事項が案内される。
「レベルアップは計画的に行うようにお願い致します。
敵とのレベル差が四以上あると敵が逃げる仕様です。
具体的にはLV五になると、LV一であるジャイアントラビットが逃げます。同様にLV六になると、LV二である野犬、ゴブリン、狐、野鳥が逃げます。
急激なレベルアップにより、狩りたい敵が狩れなくなる恐れがありますので、ご注意ください」
ふーん。私は称号があるから関係ないけど、でも高レベルなのに低いレベルの敵が襲ってくるって厄介じゃない?まあメリットだけの称号なんて無いのかもしれないな。
ギルドの報告窓口で、買取価格を確認すると、兎の死体と肉と皮の価格が、百と六十に戻っていた。相場を基に戻したみたいだね。エルドワはこれで大丈夫になったのかな?
ちょっと心配だから状況を確認してみようかな。ギルド内ではピンポン音がしていたが出たら鳴りやんだ。
多分、あの辺のと思われる場所に向かって歩こうとしていたら、
エルドワがご都合主義と思えるようなタイミングで歩いてきた。
「お、爺さん久しぶりだな、遭難でもしてたか? わたし? 元気だよ」
どうやら私は迷子前提らしいな。今は相場が回復したので、しばらくは兎で生計が立てられるだろうが、きっと今まで以上の人がログインしてくるから、また相場が下がることだろう。その時に困らないように準備が必要だな。
エルドワ達も不安があるため、これからスラム街の人と会議をするとのこと。私も参加して良いとの事なので参加させて貰う事にした。
ただ、それほど親しい関係でない人が意見を言っても、流される可能性もあるし、なにか仲良くなる為のご機嫌とりというか、手土産があった方がいいかな。兎串はどうだろうか?
「兎串? 皆大好きだよ。でも大体百人居るんだぞ、百人分買ったら、えーと一本百マールだから、百足す百足す百足す百足す……」
とりあえず計算は止めてもらって、串焼き屋を数店舗回って、今あるの全部と、一度に焼けるだけの肉を買った。
全部で二百二十本になったが、各店舗でおまけしてもらって、合計、二万マールで済んだ。まだ二百十三万強のマールがあるので、これくらい全然大丈夫です。
スラム街に到着したら、広場に多くの住人がいまいした、獣人だけにプププ。笑っている私をエルドワが紹介してくれた。
「以前、兎肉と皮が安くなっていた時に、高く買ってくれたえーすさんだ。今後安くなった時のために、どうすべきか一緒に考えてくれるって。じゃ、えーす簡単に挨拶してくれ」
あ、挨拶考えてなかった。
「こんにちわ。えーすです。わたしはエルドワの……」
エルドワの何だ?
後見人:違うな、そんな大層なものではない
友達:シックリくるな、とりあえずキープ
商売上のパートナー:ここのメンバーと距離感が出そうだな
お爺ちゃん:ドワーフでも無ければ、獣人でもない、無理だな
という事で、友達だな。[ここまでの思考は約一秒]
「エルドワの……友達です。いずれ肉と皮が安くなる可能性が高いので、それ以外で生計を立てる方法を一緒に考えたいと思います。あとこれ皆さんにお土産です。どうぞ」
私の話が終わった後に、エルドワが満面の笑みを浮かべながら私の太ももをバンバンと叩く。叩かれて喜ぶ趣味は無いです。
「称号:“エルドワの友達”を入手しました」
なんぞ? 確かに友達と言ったけど、これで本当に友達になったようだな。
・エルドワの友達。クローネシュタット南西スラム街のNPCと少し仲良くなれる。
エルドワと一緒に串焼きを配っていく。皆お礼を言いながら肉を食べている。配り終わったので私とエルドワも食べて、残りはエルドワに渡した。
エルドワは小さい子達のまとめ役でもあるらしく、そのためこのメンバーの中でも発言力が強そうだ。司会進行は、獣人オラウータンのお爺さんフランジが行っている。
「兎は最近凄く多く出現するようになったので、効率の良い稼ぎになってた。しかし外国の人がこの街に助けに来てくれた影響で、兎肉と皮が市場に多く市場に出回るようになって値下がりした。
今後も人が増えるという事なので、値下がりは避けられないだろう……」
ふむふむ、色々な話を聞かせてもらった結果、スラム街に住んでいて職が溢れていたのは子供とおばさんだが、おばさんはゴミ拾いのバイトが入ったので安定した収入に繋がっているらしい。
問題は子供たちの稼ぎだ。薬草類をフント薬局に卸したり、川魚を釣って飯屋に卸したり、色々なお店で水汲みのバイトなどをしているらしい。
蓄えも若干あったが使い果たした後、暴落してギリギリの生活が続いてるそうだ。兎肉や皮が簡単に手に入って沢山売れたので、これがこの後も続くだろうと、服や靴、家財度具などを買い揃えたら値下がりしたのか、ついてないね。
ちなみにフント薬局では、薬草:生、毒消し草:生、話せ草:生を、それぞれ一日三十個で三百マール、合わせ草:生は一日九十個で九百マール、合計千八百マールで引き取ってくれるらしい。
それ以上は他の仕入れルートがあるから引き取ってくれないそうです。他の薬局は買ってくれないから、少しでも買ってくれるフント薬局はみんなに感謝されている。
流石だなローラントさん。相場より若干安いけど、スラム街の人の安定収入に繋がるよう、定期的に買い続けてくれるなんて。
でも冒険者ギルドに行って売れば、もっと高く買ってもらえるんじゃないかと思ったら、冒険者は外国の人のみに許可されていて、この街の住人NPCには許可されていない。当然買取もしてくれないとのこと。
うーん。とりあえず蓄えが貯まれば、兎の収入は元からそんなに割合を占めていなかったみたいだし、何とかなるのかな? でも、頭一つ抜けた何かを残してあげたい気もする。
もっとたくさん売れたら良いのに、私なら冒険者だからギルドに沢山売れるのにな……。私が買ってギルドに売ればいいのか。これなら幾らでも売れそうだな。
そういえば調合覚えたけど使ってなかったな。薬草乾燥させられる場所なんて思いつかなかったけど、ここなら乾燥する場所もあるんじゃないか? 乾燥したものを売ってもらえれば、よし。
「薬草:生、毒消し草:生を十個単位で買取したい。ギルドのクエスト価格を念のため確認してからになるが、フント薬局と同じかそれ以上は出せると思う。
また、三日以上乾燥させた薬草:乾燥、毒消し草:乾燥、も買取したいと考えている。
永久に買い続ける事は出来ないので、蓄えがある程度貯まるまでの間、一、二週間だと思ってくれ」
詳細はギルドのクエスト価格を見てから決めることにして、子供達の稼ぎについての話だったので、エルドワと私で内容を詰めて決めることになった。
そういえば、プレイヤーなら色々買ってくれるんじゃないのか? ここの街って専門店ばっかりだから、コンビニみたいな感じで品揃えを揃えたら売れるんじゃないの?
「だめだよ。勝手にお店を作れないし、住人のお店は専門店にするのがルールとなっているから」
エルドワいわく、それ以外にも既存の商品と全く同じ物をおおっぴらに勝手に販売したら、その同じ商品を取り扱っている住人と揉めることになるので駄目だと言われた。良い案だと思ったんだけどなあ。
スラムの住人と仲良くするために、子供たち相手に少し日本の話をしてあげた。全く別の世界のお話しと前置きしたが、凄く楽しんで貰えたようだ。
クエストの薬草買取価格を確認するために、エルドワと一緒に一番近い南門ギルド出張所に向かい、私だけ中に入る。
南門のギルド出張所に入ると新人の多くがギルド登録に並んでいる。クエスト掲示板を眺めていると歓声とピンポンが聞こえる。
「うぁーファンですー頑張ってください」
「今度執事の格好してください!」
「凄い凄い!うさぎおじいちゃんだ!はじめて見た」
「スクショ!スクショ!」
確かに、否定的な意見は減っているようで良かった。ギルド内にいるとピンポンなる仕様にでもなったのだろうか? うるさい。
緊急クエストは残っていた。三日間で薬草を十個回収で二百マール。同じく毒消し草、合わせ草も十個回収で二百マールだった。マールはあるし、NPCから十個二百で買い取るって事でいいかな。
フント薬局には引き続き卸してもらって、それ以上余った分を私が買い取ることにし、乾燥させた薬草百個、毒消し草百個、合わせ草二百個は、合計で二万マールで引き取る事にした。
ポシェット枠を開けるために、猪肉四十八個と皮八個、兎肉と皮八個とヤマアラシの針五十本をエルドワにプレゼントした。大した金額でもないし肉は食べたほうが良いだろう。串焼きにするのに針は便利そうだし役立つと思う、多分。それと皮は転売してもらってもいいしな。
ギルド前でエルドワと別れた後、獣人犬戦士が愚痴っているのが聞こえた。全身布装備で木の剣を持っているので、初心者なのだろう。
「しかし、経験値取得UPを貰っても、敵が少ないから全然有効に機能していないよねー」
その周りでは、やはり初心者と思われる人が愚痴を言い合ってる。
ふむ。どうやら敵がまだ少ないらしい。人が多い時を基準に敵を出すと、人が少ない時間帯に敵が多すぎて狩りが困難になるようだ。バランスって大変だな、でも私なら敵を出せるな。よし。
「ちょっといいかな? 兎で良ければ私が用意できるけど」
意を決して話しかけてみた。
「え? うさぎおじちゃん。いや、兎を用意って?」
「称号の効果でね。兎が寄ってくるんだよ。良かったらだけど、兎を呼び寄せるけど」
「え? 本当ですか」「うぉーー。おねがいします」
ギルド前にいた初心者十数人と野次馬数人で西門側に向かう。
「西門側って兎が少ないんじゃ」という声がヒソヒソ聞こえる。
西門を出たところで声を掛ける。
「みんなAIサポートはオンになっているかな? なってないと戦いにくいからね。大丈夫みたいだね。
歩くと兎が穴から出てきます。少し駆け足すると歩くより多めに寄ってきます。でも全速力で走るとHPが減るから、全速力では走らないように。
私が先頭を駆けるから、少し間を開けて同じくらいの速度で着いてきて。敵が出てきたら近くの人が狩ってください。みんなが敵と戦えるように順番でよろしくお願いします」
私が先頭で走り、その後を初心者集団と野次馬が付いて来る。早速穴から兎が二匹出てくる。
「はい。それ狩ってね。どんどんいくよー」
「うわ! 本当に出てきた。凄い凄い」
大きく円を書くような感じで走る。兎が出てきて、初心者が倒す、兎が出てきて、初心者が倒す、野次馬がはしゃいでる。初心者は殆どその場にいるだけで、兎が出てきて倒せている。
そしてピンポンの音が定期的に聞こえる。なんだろう、このゲームのBGMにでもなったのだろうか。それにしちゃ前衛的だな。
途中夕飯休憩を挟んで、同じことを繰り返す。時間経過に伴い、新人と野次馬が増えていた。
もうすぐゲーム時間で二十一時、夕暮れが近づいて来た。そろそろ兎が出て来なくなるかなと思っていると、
「きゃー」「うぁー」「いてて」「早い! 早いよ!」
数人死に戻りが発生している。どうやらエリートが出たようだ。しまった失念していた。
「よし。私が戦う、みんな逃げてください」
瀕死の初心者の前に立ち、槍を少し短めに構える。
二体の兎はアイコンタクトを取り、兎Aが私の正面、兎Bが私の右側に移動する。挟み撃ちをするつもりだろう。
私は正面の兔に駆け寄り槍を出すが避けられる。何度か小刻みに突くが全て避ける。脱兎を使って無いと狩るのが難しい。
足音が聞こえたので、とりあえずサイドステップを使い、左に移動すると、顔のあったあたりを兎Bが通過する。
兎Bに攻撃をするため槍を向けなおすが、兎Aが既に足元まで来ており、サイドステップで更に左に避ける。
なんかサイドステップばかり上手くなっているな……。しかし、早すぎて槍では攻撃が追いつかない。
走りながら槍をポシェットにしまい、木の杖を出す。そのへんに落ちている兎の死体を拾い、杖の先端を兎の口の中に思いっきり突っ込む。
「うぁあー」「ちょっとエグい」「うははは」
兎グリップを着けた木の杖を構える。少し持ちやすくなった。兎Aは私の左、兎Bは私の右、両方が同時に走ってくる。
私は右斜め前に数歩走ってから、兎Bに向かいなおす。兎Bが顔目掛けて飛んでくるので、上半身をひねって避ける。
「なにあれカッコイイ」
攻撃する余裕もなく兎Aが足元に突っ込んでくる。私の右足に体当たりし体制を崩す。兎Aは走り抜ける。
何とか踏みとどまるが、背後に強い衝撃を受けて、地面に転がる。兎Bだろうが視界に見えない。探していると兎Aが倒れた私の方に駆け寄ってくるのが見える。兎が飛んだ瞬間、
「「「「ストーンショット」」」」「「「「ストーンショット」」」」
すごい数の石が兎Aにあたり、兎の軌道がずれる。同様に兎Bにもすごい数の石が飛んでいる。怯んでいるようなので、兎Bに近づき木の杖[兎グリップ付き]で殴る。
初心者も兎Bの周囲を囲み、木剣や木の杖で殴りまくる。
「ジャイアントラビットエリートを倒しました。経験値九が入りました」
「ジャイアントラビットエリートを倒しました。経験値十八が入りました」
兎Aは野次馬が対応して倒してくれたようだ。
剥ぎ取りナイフを刺すと肉と皮が一個ずつと二個ずつが入った。どうやら複数人で倒すと経験値やアイテムは自動分配されるようだ。
野次馬をしていたプレイヤーが、念のためと言って教えてくれたが、通常は他の人が戦っている敵を殴るのは、このゲーム内では横殴りといってマナー違反らしい。
今回は内輪のイベントのようなものだから別に構わないと思うけど、普段は気をつけたほうが良いとのこと。中には怒る人がいるらしい。
規約以外のローカルマナーまでは知らなかったので、お礼を言っておいた。
会話しながら西門に向かう。正確には一方的に話しかけてくる。
「あの避けるモーション凄いですね。どうしたんですか?」
「兎を杖に差すのはどうかと思います」
「助けてくれてありがとうございます」
「兎狩り楽しかったです。またお願いします」
なんだろう。子供を引率してる保育士のような気になる。しかし気になることがあった。
「あの石の攻撃はどうやったんだい? 凄かったね」
周りがキョトンとしている。
「あれは初期魔法のストーンショットですよ。えーすさんも覚えてますよね?」
「いや、魔法は一つも覚えていないけど」
周りが騒然とする。
「うそでしょ」「何で? 何で?」「縛りプレイ流石です。マゾ尊敬します」
「いやだってLVUP窓口に行っても出てきませんでしたよ?」
「そんな事は無いはずです。スキルを覚えたいって言えば出ますよね?」
あっ、そういえばLVUPしたいとしか言ってなかった。
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