第12話AIの解析と修正
日本時間十時、ゲーム時間零時、肉と皮の買取は完了している。
いつものごとく、お使い、商会、串焼き、移動、ブラウメーア、売る、荷物引き取る、移動、クローネシュタット、商会NPCおったまげ、ギルド報告。
ちなみに、買取してもらう時に聞くセリフは何度思い出しても気持ちがいい。この気持ち良さを、アナタニモ、ワケテ、アゲタイ。では、どうぞ。
「肉が二千七百個で三十万七千八百、皮が二千七百個で三十万七千八百、合計六十一万五千六百だね」
ぐふふ。相場が若干下がったが、まだ儲かりそうなので放置露店してお昼だな。
CONNECTを見ると、トムとハジメ等の板に記載があった、トムからだ。
「鈴木さん、VRゲームはどうですか? ちょっと相談したい事があるんですけど」
書き込み時間を見ると業務時間内だった、何だろう? 仕事の関係だろうか?
「トム。しばらく家にいるから、手が空いたら電話してくれ」
しばらくゲームをする訳にはいかないな。そういえばあのゲームのAIってどんな仕組みなんだろう?ちょっと見てみるかな。
しかし、人が作成したプログラムの解析って大変なんだよねー。
どれどれ……、戦闘は予め戦闘パターンが登録されていて、それに近い動きを呼び出しているのか。
なるほど。人の関節は数が決まっている。だからその軸と動きが記録されているんだな。
そのパターンに無い、中間の場所で行動する場合は、他の似た動きから計算して補助しているのか。
AIサポートがない場合だと、自分の好きな動きが出来るが、その分色んなことを一から計算しないといけないから、動きがモッサリしているみたいだ。
野球ゲームでバッターが打つときは、力加減、タイミング、ミートポイントを選択したりするけど、そもそもバットを持ったり、構えたり、打つときのフォームまでは気にしない。
AIサポートは、細かい事を気にしないで、戦闘の仕方を楽にしてくれる感じかな?
常に用意している戦闘パターンが多すぎるとメモリやCPUのリソースを食いすぎるし、パターンが少なすぎると中間の処理を計算するのにリソースが必要になるのか。
なかなか限られたリソースの中でいい仕事しているじゃないか。ゲーム制作会社の事を少し疑ってたけど、ちょっと評価があがったぞ。
しかし残念だな自己学習機能がない。良く使う動きや本人の過去の動作から推測するところまで行ったら合格なんだけど。まあオープンソースで作ったならこんなところかなー。
ゲームで使うにはちょっと手間が掛かり過ぎるし、費用がかさむからな、利益を出さないとねー。
でも回避システムはちょっとあれだな。確かに全身を大きく回避したら当たりにくくなるけど。ちょっと動きに無駄があるなあ。ダメージを受けるよりはいいのかな?
最大公約数を求めたらこんな回避になったのかもしれないな。
剥ぎ取りのシステムは……。作業を全て省略して、結果だけ出しているようだな。兎なら肉と皮と決まっているから、刺したら肉と皮が出てくる。
兎の剥ぎ取りがリアルと同じような動きで再現されても気持ちわるいし、いちいちそんな面倒なことはしてられないだろうゲーム性が落ちるからな。
これはこれでいいんじゃないか。あっ電話だ。
「こんにちは、田中です」
用件は、富士山通製のVR用チェアー試作品のモニター依頼だった。ほぼ開発が終わって実用テストらしい。
信頼出来てVRを長時間する人が必要とのことで、確かに私ならピッタリだ。モニター代も出るらしいし、二つ返事でOKしておいた。
ちなみに法律でエコノミー症候群予防処置が取られていて、フルダイブ中は肉体に信号が走って、傍から見ると体がピクピク動いて気持ちが悪い。
この製品は椅子側の方がグニャグニャ動くタイプだそうだ。テスト中に問題があると不味いので、生体反応は会社側に送られることになる。
用件も終わったようだし、再ログインだ。日本時間十四時、ゲーム時間は八時、バザーを見ると全て買取が終わっていた。
いつものごとく、お使い、商会、串焼き、街を出たら兎が面倒、移動、ブラウメーア、売る、荷物引き取る、移動、街の近くで兎が面倒、クローネシュタット、商会NPCおったまげ、ギルド報告!
「おめでとう。ランクがEにあがったよ。これからもがんばってな」
七千五百マールを受け取り、ギルドカードを見るとランクがEになっていた。
フロアにいるNPCの女性に確認したところ、クエストの依頼内容が変更になるとの事
・お使いクエの納品数が増えて報酬も増える。
・難易度の高い討伐クエが受けれるし、報酬も増える。
・ランクが高い人向けのクエストがある、内容は様々。
他の人もそろそろランクが上がってるのかな? それともお使いクエの評価が高いのだろうか?
よく分からない事を考えても仕方ないし、これからどうしようかなー、とりあえず串焼き食べながら考えようかな。串焼きを買う。あれ? 値段が一本百マールに上がっている。
「おじさん値上がりしたの?兎肉は値段下がっているんじゃないの?」
「確かに肉は下がっている。しかし炭の値段が上がり始めてね」
なるほど、人口二十万の都市とはいえ、これだけ多くの人が一度に来たら色々と足らなくなるよな。お使いクエが評価が高いのもその辺に関係するのかな?
今日は後一回だけ往復するかな、一日三回クエを達成して、商会NPCにドヤ顔を決めよう。よし、放置露店してと。
CONNECTを見ると記述があった。トムからだ。
「鈴木さん。椅子ですが今日の夜、二十二時か二十三時位に、持って行ってもいいですか?」
試作品は宅配業者には任せず、社員が運ぶのがルールになっているがトムが持ってくるのか。家が近くて、知り合いが持ってくるならお互いに都合が良いね。
「全然構わないよ。許可を出しておくから勝手に入ってくれ。すぐにログアウト出来ないかもしれないから、勝手に置いて勝手に出て行ってもいいぞ」
トムの生体認証は済んでいるので、セキュリティに許可の登録をしておく。来たらホームセキュリーを通じて、ゲーム側にコメントが出るようにした。
早めの夕飯を食べ終え、トイレよし、スポーツドリンク飲んだ、じゃゲーム開始だ。日本時間十八時、ゲーム時間十六時だ。
脱兎を使いならが草原を移動する。ブラウメーアの相場が下がってきているし、いつまでこの商売が成り立つか分からないが、他のプレイヤーが到達するまでが勝負だな。
ブラウメーアの近くには狼の集団が昼も夜もいるので、そう簡単には街に入れないはずだ。
ちなみにクローネシュタットとブラウーメーア間にいる化物は、狼の群れ、熊、野鳥、狐、蛇で、林にはデカイ蜘蛛がいた。
あくまでも沸いている敵だけだ。どれも手を出していない。特に林には近づけない、確認はしていないが蜘蛛の巣があったらやばそうだ。
狐っぽいやつなら行けるかもしれないが、戦闘中や歩いていたら別の化け物が出てくるかもしれない。
今はとにかく金だ。
「肉が二千七百個で二十二万六千八百、皮が二千七百個で二十二万六千八百、合計四十五万三千六百だね」
「四十五万三千六百でよろしいですか? はい いいえ」
“はい”を選択する。相場を確認すると、死体百二十、肉と皮が七十二になっていた。大分下がってきたな、そろそろ別の儲け手段を考えないとダメかも知れない。
脱兎で帰っていると、街道ではNPCの商隊が化物と戦闘している。今までにも何度か見かけたけど、人型のNPCとも戦闘していたり、夜になったら野営しているし、無駄に作り込みが多いな。街道に誰もいなければ街道を脱兎で走るのに。
考え事をしていたら、子狐にぶつかりそうになった。AIが自動で避けてくれる……ん?
何か引っかかるような。何だろう? と更にぼーと考えていたら木に近づきAIが避けてくれる。
あぶないわー。AIが避けてくれるかも知れないがもうちょっと真剣に帰ろう。
ゲーム時間十九時半過ぎ、クローネシュタットに近づいた。
悪目立ちすると儲け話に影響が出るかも知れないので、人前で脱兎はできるだけ使わないようにしている。でも、兎が穴から出てきてちょっと面倒だ。
敵が出ない場所まで来たので、最後は全速力で門に向かって走る。現実では疲れるから全力では走らないけど、ゲーム内なら肉体的な疲労は無いみたい。
しばらく走っているとHPが減り始めた。ううおおなんだ毒か?
立ち止まってポシェットから毒消しを出したけど、どうも毒っぽい感じがしない、HPの減りが止まった。
もう一度全力で走るとHPが減り始める。止まるとHPが減少しなくなった。あー全力で走るとHPが減るのね。
確かに制限掛けないと長距離の移動は、皆な全速力で走っちゃうからな。
良い子はそんなズルしちゃだめだぞ。
商会で報告をして、NPCがおったまげーげーしてた。
「まさか、一日で一往復は過去にも経験した事があるが、三回とは……。通常の三倍以上の速度で達成するとは赤い」
何か引っかかりそうなので省略。とりあえずドヤ顔を決め、西門側のギルド出張所に向かう途中で、エルドワを見かけた。
「お、爺さん迷子か? 私? 元気だよ」
話を聞いたところ、まだ解決の目処が立っていなかった。ただ、兎肉の買取価格が若干上がったらしい。死体が五十、肉と皮が三十になったそうだ。今度対策を一緒に考えてあげるかな、どうせ暇だし。
エルドワと別れて、ギルドで報告して一万マールを貰って、兎の買取価格を確認すると、確かに値上がりしてた。同じ額では数が集まらないので、肉と皮を四十八マールで買取を出した。
まあ倍率という意味では下がったけど、一個あたりのプラス金額としては同じだから、売ってくれる人もいるだろう。放置露店してログアウトした。
日本時間二十時、まだトムが来るまで二時間くらいあるな、今のうちにお風呂を済ませておこう[変な意味は無いぞ]。
待ってる間暇なので、戦闘の避ける動作について考えてみる。ロジックを一から考えるのは面倒だし、一番楽に実装するとしたら、自分で使いたいモーションを登録するのが早いだろう。
でも座標の計算や登録が面倒だな。う~~~ん。そういえばAI学習用モーションキャプチャーのプログラムがあったはずだな。それを使えばAIに動きを覚えさせられるはずだ。AIを切り替えてゲーム内で使えばいいな。二個目のAIにセット完了。
また暇になってしまった。ゲーム内のお金も溜まったし。孫娘に何か買ってあげるかなー、でも二人分の装備を整えるにはまだ金額が足らないか。
自分の装備も整えてからかなー。それにこのキャラで会うのはなー。うーん。
戦士の初期装備は木剣だったな。スラッシュって剣ぽいスキルな気がする。銅の剣が十万マールだし、これ位なら余裕でプレゼント出来る、様子を伺ってから決めよう。CONNECTに書き込みをする。
「ゲームの調子はどうだい?」
ログアウト中だったのか、すぐに返信がきた。
「楽しいですー(*゜▽゜*) 装備も整ってきたし。このあと狩りに行く予定」
「楽しんできてね。ちなみにどんな装備なの? |д゜)」
「全身革だよ。革の盾、革の服上下、革の胸当て、革の靴、革の帽子、革の手袋、そんで銅の剣 (≧∇≦)/」
グハッー、何もんだよコイツ。あれか学校行ってないのか? 引きこもりだったのか? ちょっと娘に電話して孫娘の様子を聞いてみるか、いや待て、勘違いして「おじいちゃん嫌い」とか言われてもまずい。
「すごいねえ\(^o^)/ ところで全部それ買ったの高くなかった?」
「ううーん。全部敵から拾ったのー。銅の剣はオークが落として、たまたま抽選で手に入れたの。
革装備はゴブリンやコボルトが出すよー(n‘∀‘)η 」
あー一人だから全然狩ってなかったけど。ゴブリンとかコボルトが北門側に出るっていってたね。確かに人型の敵なら、装備を持っていてもおかしくないかもしれない。
もう少し強くなったら、装備狙いで挑んでみるのも楽しそうだな。
まだ二十一時。トムが来るまで、後一、二時間だな。ゲームにインしてモーションキャプチャーだけ取るかな。
西門側の街で人気の少ないところにいき、AIをAI学習用モーションキャプチャーに切り替えて、色々な動作をする。
・上半身を前に屈めたり、左右に逸らすような動き。
・小刻みなフットワークで左右に動く。
・杖を使っていなす。突進してくる相手の横を突きながらかわす。
格闘技なんてやったことがないから思いついたのはこんなところだな。
それぞれ何パターンか実施して、また中央公園に行って放置露店を再開する。
モーションを編集しているとトムがきた。
「すみません夜分遅くに。椅子運び入れちゃいますね。」
パワードスーツを装着したトムが、重そうな椅子を楽々に運び込む。軽く雑談をしながらセットアップし、直ぐに帰っていった。
一応モーション編集が終わったし、二十三時を過ぎたので寝ることにする。それじゃ、おやすみなさい。
「おやすみなさい」
思わず口から出た挨拶を
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