第7話フント薬局でアルバイト
ログインするとお詫びが届いた。テント一個、薬草五個、毒消し五個、ポーション五個、一万マール。お詫びっていいなw
直ぐにギルド内がざわつく。どうやら私がいる事に気がついたようだ。
「システム限界を超えるくらいの下手くそだってさ」
「このゲームで今一番有名なプレイヤーが来た」
「称号二個持ちなんてトッププレイヤーだよねー。下から見てだろうけど。プププ」
「お爺ちゃん無理しない程度に頑張って」
出来るだけ気にしないようにしながら、クエスト掲示板の前に立つ。が、周りからの視線が痛い。堪えて見ていると薬屋からの手伝いの依頼が貼り出されている。
・ポーション作成手伝い。成果給。一本五十マール。初心者歓迎。優しく指導します。
安い、安すぎる。五百マールで売っているものを五十で作らせて五百で売るのかよ。と思ったら、どうやら原材料は依頼元が用意し、作成を手伝うらしい。
ポーション作れたら戦闘しないでお金を手に入れる事も出来るだろうし、勉強にもなりそうだからこれを受けることにした。
場所はこの近くなので、早速薬屋に向かうことにした。
クエストの薬屋は南門の近くにあった。丸いフラスコの看板に“フント薬局”と書いてある。早速中に入る。
「あら御免なさい、店を閉めるを忘れてたわ。もう閉店時間なの」
と明るい女性の声が聞こえた。
その女性の鼻の先端は黒く丸い。顔の横にあるのは耳かな? ダックスフンドのような耳が顔の横に付いている。体毛は全体的に明るい茶色、茶色というよりクリーム色という感じだな。
「こちらこそ夜分すみません。ギルドのクエストで、ポーション作成の手伝いにきました。えーすといいます」
「あなたがお手伝いの方ね。私はこの店の店主のソフィよ。正式な仕事は明日以降にお願いするとして、店の奥に工房があるからこちらに来てくれるからしら」
と言って、店の奥に続く扉を開けて中に入っていった。後ろには長い尻尾が見える。工房に入ると、一人の男性が仕事をしていた。
「彼は私の夫で薬師でもあるローラントよ。ローラント、ギルドに依頼していたお手伝いのえーすさんよ」
「はじめましてえーすさん。ローラントです。よろしく」
優しく語りかけてくれた彼は頭の上に三角の耳がある。鼻と口の周りが黒く、体毛は濃い茶色っぽい。シェパードっぽい感じだな。
「えーすです。薬師の経験はありませんが薬師になりたいと思っています。ご迷惑をお掛けすることが多々あると思いますが、ご指導の程よろしくお願い致します」
「じゃあ夕飯の支度があるから、あとはよろしくローラント」
手をヒラヒラさせながら、ソフィーさんは戻っていった。
「まずはどの程度理解しているか質問させてもらうね。ポーションの作成方法や、薬草、毒消しの作り方は理解しているかな? なるほど。
じゃそこから説明するね。薬草を摘むと薬草:生になる。このままでは高い効果は発揮されない」
説明が続く。要点をまとめると
・薬草:生を天日で三日程度干す。
・合わせ草:生を天日で三日程度干す。
・薬草:乾燥と合わせ草:乾燥を一対一の割合で混ぜる。これでアイテムとして使える薬草になる。
・混ぜる際に調合スキルを持っていない場合、失敗する確率が高い。
・混ぜる際に調合スキルを持っている場合、MPを消費する。
・毒消しも作り方は同じで、調合の割合も同じ。薬草が毒消し草に変わっただけだ。
・ポーションは薬草:乾燥と合わせ草:乾燥を細かく切断し、それを水に一日漬ける。
・切断時に調合スキルを持っていない場合、失敗する確率が高い。
・切断時に調合スキルを持っている場合、MPを消費する。
・割合は薬草十個、合わせ草十個、水二リットル。
・漬けた水を弱火で沸騰させて一リットルになるまで煮込む。
・最後にビンにつめて完成。
なるほど、しかし調合スキルなんてものは持っていないと思うんだけど。これって手伝える事があるのかな?
「調合スキルを持っていないのですが、どうすれば調合スキルを入手出来ますか?」
「調合スキルは、作成している人の手伝いをして覚えるか、学校で習うかだね。直ぐには習得出来ないよ。私も習得するには一年かかったからね」
ゲームでスキル一つ覚えるのに一年かかるとか、ちょっと無理だと思うんですけど、何なんですかこのクソゲー。
がっかりした私を見てローラントさんが
「でもえーすさんは外国から来た方なんだよね? 外国から来た人たちの中には特別な力を持っている人が多くて、基礎を学ぶと経験値と言われるものを利用して短期間でスキルを習得出来るらしいよ。
もし経験値なるものを持っているなら、それが出来るんじゃないかな?」
!なんか凄い情報があったよね。経験値を利用して習得って、もしかして経験値を使うとスキルが覚えられるのか?
「具体的に基礎を学ぶのにどれくらいな日数になるのかは分からないけど、伝聞では数日らしい。
ただ、基礎を教える行為を無料で行うことは禁止されているので授業料をもらうことになる」
ムムム、スキルを覚えるのも金が掛かるのか。しかも経験値まで利用して。これは足らないお金は課金してくださいね。とか、そういう収奪の仕組みかもしれん。
NPCがぼったくるとは思えないしな。凄い人が良さそうで無料で教えてくれそうなのに、ゲームシステムに組み込まれた歯車のようなローラントさんを憐れみつつ、弟子入り希望を伝えた。
「受講料は十万マールになります」
所持金が足りません……。今持っている所持金をローラントさんにみせた。
「うーん。普段マールはどうやって稼いでいるのですか?」
兎退治とクエストで薬草生、毒消し草の納品、兎の死体買取と伝えた。
「本当はダメなんだけど、授業料は分割払いにして、薬草:生と毒消し草:生を直接こちらに卸してくれれば買取しよう。そして店の手伝いをしてくれたら手伝い賃を渡すよ。
十万マール払い終わって、基礎の習得まで終わっていたら、スキルを伝授しよう。それでどうかな?
じゃあ冒険者ギルドの方のクエストは破棄しておくね。うちからの依頼はクエスト枠と別になるから、クエストは今まで通り五個まで受けられるよ」
ローラントさん大変ありがたいです。本当なら数日かけてお金を稼ぐところを先に教えてもらえるなんて、しかもクエスト枠以外でもお金を稼ぐ手段も用意していただいて、歯車とか思ってごめんなさい。
今日は遅いので仕事は明日からとなった。毎日来なくても良く、好きな時に来れば良いって、それでいいのか仕事なのに?
どうやら他にも何人も雇っているから大丈夫らしい。まあこちらとしてはありがたいから全然OKです。一万マールを支払い、ソフィさんの手作り料理をご馳走になりお店を後にした。
ゲーム時間二十一時、日本時間二十時半、現実世界なら真っ暗な時間の筈だが夕暮れという感じだ。よし狩りを頑張るかな南門に向かう。
門の方に向かっているとハンスが近寄ってきた。
「えーすさん。これから外に出られるのですか?」
どうやら私が明かりを持っていない様子だったので、心配して来てくれたようだ。外には街灯がないので、夜は月明かりのみになる。
明かりを使うメジャーなアイテムは松明またはランタンだ。ただ松明は片手が塞がるのであまりおすすめ出来ない、ランタンを腰につけるのがいいそうだ。
「ありがとうございますハンスさん。ランタンを用意してきますね」
とお礼を伝えた。ハンスから、この時間だとお店は大体閉まっているので、冒険者ギルドの売店なら二十四時間開いていると教えてもらった。
冒険者ギルド出張所の前は凄い賑わっている。先ほどの事を思い出すと少し気が引けるが、ランタンが手に入らないと夜の狩りが出来ないし、諦めて入ることにする。
相変わらずギルドの中は人が多い。売店の前まで行く頃には、ギルドの中がざわつき始めた。
「うおっ。有名プレイヤー発見ー。スクショスクショ」
「あんな称号つけてゲームできるなんて精神力強すぎ。マジパネェス。ある意味尊敬します」
「お爺ちゃんガンバ! 応援してるよー」
「どMなんだろう。あるいみ嘲笑もご褒美なんじゃないの?」
はぁ~そういうのは本人に聞こえないようにお願いします。パーティチャットとかそういうのがあるだろうまったく。
とりあえず売店でランタンを探す。五千マールで販売していた。火種っぽい消耗アイテムが必要で、そちらは五個で百マール。一個で二時間ほど利用できるらしい。とりあえず五個あれば明日の朝までは持ちそうだな。
ランタンと火種を五千百マールで購入。残りは六七百四十マール。これってやばいんじゃないか。お金がなくて詰みそうだな。考えても仕方ないし、とりあえず外に狩りにいくか。
門から出るときにはハンスが居なかった。ハンスの同僚と思われる方に聞いたところ、今日の仕事は終わって帰宅したそうだ。そりゃそうだよな。二十四時間働いてたら過労死するわ。
街の外にでる。あちこちでプレイヤーと思われる人が犬と戦っている。
しかしなんで犬は穴から出てこないのかな。兎は歩いていると穴から出てくるので戦闘になるんだけど。不思議だな。犬は強そうだから湧いていても関わりたくないので近づかないようにしている。
歩いていても穴から兎が出てこない。既に湧いている敵に兎が見当たらない。視界にいるのは犬ばかりだ。明るさ的には夕方だから遠くにいる兎が見えないのか。
兎は夜行性じゃないのかな、夜行性の動物だと思ってた。ゲームだからリアルとは違うのかもしれないしな。
ゲーム性を高めるなら、昼と夜で化物を分けるとかありそうだしな。夜ならアンデットとかスケルトンかな。
そろそろ暗くなってきたので、ランタンに火種をセットして明かりを付ける。
そういえば脱兎の称号にあったスキルってどんな感じなんだろう。
いきなり戦闘で使うより実際に使って理解してから戦闘に使う方がいいよな。
でもどうやって使うんだろう? とりあえずスキルを使いたい気持ちになってから、称号名を言ってみる
「脱兎」
――――はっはやい、――凄い速度で走っている。
途中犬に近づいたが、気がつかれる前にブッチ切っていた。効果が切れたので急激に遅くなり、体勢がくずれそうになる。おっとっと。
どれくらいの距離をどれくらいの速度で走ったんだろうか。暗くてよくわからないな。時間にしたら効果は数秒だな多分。距離にしたら数百mといったところか。
びっくりしたー。
仮定だけど、効果が四秒、移動距離が四百mとしたら……。うん計算出来ない。社会人になって時速を求める事なんてなかったし。計算するならPCの電卓使うしね。
現実逃避せずに真面目に計算しよう。確か、速さ=距離÷時間だったかな。
一秒で百mだとしたら、一分で六千m、六十分で三十六万mつまり時速三百六十kmか。
はえなー人間じゃないわ。これが一回一MPか、反則だわ。危なくなったらこれで逃げれるね。でも死に戻りするつもりだから使う機会って高レベルにならないと出てこないかも。
もう少し練習しておくかな。
「脱兎」――――「脱兎」――「脱兎」――――「脱兎」――――
ふー。効果が切れる前や切れた時に再度使っても使えるから、クールタイムのようなものも無さそうだ。これ移動に飽きたら使うのもありかも。
そういえば、兎の餌の方の称号は全然発動しないな。いない動物は近づいてこないのか。とりあえず、うさぎも居ないし目の前にある丘を登って、景色でも見てみるかな。
「脱兎」――――「脱兎」――――「脱兎」――――
楽ちんだわー。あっという間に丘の上です。振り返るとクローネシュタットの街が見える。
大都市であることがよくわかる。ところどころに火がたかれていて幻想的な景色だ。街の外では多数の光があり、プレイヤーが多くいるのが分かる。しばらく座って景色に見とれてた。
兎もいないし街の方に戻りつつ、犬狩りでもチャレンジするかな。どうせ死んでもデメリットないしな。ビビっていても仕方ない。
ヨッコイショと腰をあげて移動しようとしたら、目の前に穴があき、角のある兎が出てきた。
この距離なら間違いなく戦闘になるだろう。先手必勝、杖を振りかぶって叩きつけるがよけられる。
少し距離が離れたところで互いに見つめ合う。兎の角が光り始めた、何かやばい気がする。
兎の角から、轟音と共に黄色い光線のような稲妻のようなものが飛んできて、一瞬でHPがなくなった。
「最寄りの村に戻りますか? はい いいえ ※注意:LV十までは死んでもデメリットはありません」
“はい”を選択して街にもどる。兎の癖して魔法使うとか反則だよー。私も使いたいー。
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