第31話 甘い夜
「おー、まだやってるのか!! もう一週間だぞ! 出来るのか?」
居間に突然現れた葵は好き勝手言ってくれる。
「出来るわよ。あともう少しなんだから」
「じゃあ、そんな遥にはご飯を作ってあげよう」
「え!? いいの?」
「気分転換だよ。いいよ。それより腹減ってるのかよ」
「うん! 頭を使ったからね」
「もっと頭使わないと終われないぞ!!」
「終われますよ!」
「じゃあ、もっと頭を使いなさい。俺は料理するから」
「はーい」
二人になったり三人に戻ったり、そして、今回の話、これで当番制は崩壊してた。お昼は作ろうと思ってたのに葵は相変わらず優しい。宿題を片付けているといい匂いがしてきた。これはトマト味のパスタかな。葵のレパートリーもすっかり把握している。城太郎はたまにいろんな料理にチャレンジをするので予測不能なんだけどね。
「おーい。出来たよ。マジで食べれるのか?」
こうは言ってるけれど、時間はいつもよりも遅め。きっと葵は本気でお腹すいてるだろう。私も匂いに誘われてお腹が刺激されている。
「はーい。食べるよう。もちろん」
キッチンに行き予想通りのトマトのパスタの前に座る。
「いただきます」
「はい。どうぞ」
二人の昼食。これまでも何度もあった。城太郎がバイトでいないことは良くあったから。もう、こんなランチタイムも来ないのか。なんだかさみしいなあ。
って、私ったら欲張りだな。城太郎も葵もって。すでに尚也が幼馴染に戻ってホッとしているのに。三人ともなんて欲張り過ぎだよ。
「遥ー。晩は作れよー」
「あ、うん。わかってるよ」
そこまで甘えません。
「俺は夕方には帰るから」
「え? そうなの?」
「ああ、もう親父がうるさいから晩飯は作らないといけないんだ」
「そ、そうなの?」
ダメだ。今、期待で声が弾んでる。絶対、完全に弾んでた。城太郎と眠れるー! と思うと顔まで熱くなる。
「遥、人の不幸を喜ぶな」
「よ、喜んでないよ」
嘘です。喜びました。ごめんなさい。葵。
「まあ、いいけど。ってことで毎日ここに荷物送る準備のために来るからな」
「うん。わかった」
ということは、この昼のランチタイムはまだ少し続くんだね。なんかちょっと嬉しい。
あ、朝は気をつけないと。
洗い物は私がしたので葵は部屋へと消えて行った。
今日は何しようかなあ。買い物いるかな?
夕方よりは少し早く葵は帰ると言うので私も買い物に出かけた。駅とスーパーはすぐ反対方向になる。
「じゃあ、また明日ね。葵」
「遥、幸せか?」
葵は真面目な顔で聞いてくる。そ、そんなこといえるわけないじゃない。
「え? 何よ?」
「いや、いい。今のニヤやけた顔見ればわかるし。じゃあなあ」
返事も聞かず葵は駅の方へと行ってしまった。
もう!! なんなのよ。恥ずかしい。
買い物をしてご飯を作り、宿題をしながら城太郎を待つ。遅くなる時は九時を回ることもある。覚悟して待っていたら八時前には帰って来た。
「おかえり! 今日は本当に早いねえ」
「ああ。ちょっと替わってもらったんだけど……あれ? 葵は?」
「葵は帰ったよ。晩御飯作らないといけないんだって」
「そうなのか!?」
城太郎声が弾んでるよ。
弾んでた私が言うのもあれなんで言わないけど。
「それより食べようよ! お腹が減ったよ」
「ああ。そうだな」
それから温め直したご飯を囲んでいただきますをした。
「バイトさあ。減らすから」
「え? なんで? 旅費はいいの?」
「いいんだ。今回の旅行も予定より早くに帰って来たんだ。その……遥に会いたくて」
「え? でも……私いないよね?」
私は予定通り帰って来た。例え城太郎が早くに帰って来ても私には会えないのに。
「いないけど、遥のいたこの家に帰ってきたかったんだ。変だよな? だけど遥のいない一人旅はなんか物足りなくって」
「変なのー!」
笑いながら真っ赤になった城太郎を見て幸せな気持ちになった。城太郎がそこまで思ってくれてるなんて想像もしてなかった。
洗い物は城太郎がしてくれたので私はお風呂の用意をした。そして、ドキドキしてる。そろそろ、なのかな?
バイト疲れがある城太郎に宿題をするからと言ってお風呂を譲り、宿題をするけど手に付かない。そろそろ、そろそろ、なの??
あ、でも、葵がいると城太郎は思ってたんだよね。用意はしてないかあ。あー、そうだねよ。かと言って自分が用意するのは嫌だから、してないし……。
「遥?」
目の前で手を振る風呂上りの城太郎。
「どうした?」
「ううん。何でもないよ。次、私入るね!」
宿題を片付けて部屋に持って入る。すぐに机に置いてカーテンを閉めて着替えを持って風呂場に行く。きっと真っ赤な顔になってる。
湯船に浸かり城太郎を思い出し、また熱くなる。ど、どうしよう。一緒に寝たいんだけどなあ。昨日のようになってまた葵に起こされても困る。あのニヤニヤ笑い!! でも、そばにいたいよお。なんにもしないで二晩も添い寝っていいのかなあ。
はあー。すっかりのぼせてしまった。考えたってどうしようもない。ないものはないんだし。
キッチンに行き、冷たいお茶を飲んでのぼせた身体を冷ます。
居間にもキッチンにも城太郎はいない。あーん。これは声をかけてってことだよね。城太郎の顔を見ないで眠れない。
コンコン
「あのー、えっと」
ガチャ
「おいで」
ドアを開けた城太郎はすぐに私の手を引いてベットへと連れて行く。
城太郎はストンと座って横を叩く。私は叩かれた城太郎の真横に座る。
「遥。今日はいい?」
「え!?」
「そのしてもいい?」
「でも、その、ないんじゃ……」
「念のため、今日は買って来たんだ」
ジッと私を見つめる城太郎。
「あ、あの、うん。だけど、私……その」
「うん?」
「一度しかしてないの、だからその……」
「うん。わかった」
何をどうわかったんだろう。城太郎は私を優しくベットに寝かせてくれた。そして、部屋の明かりを消してくれた。
そして私に優しく甘いキスをしてくれた。
正直一回目の記憶もないし、ほとんど未遂だったという、なんだか複雑な自分の体がどうなるのか、不安でいっぱいだった。でも、城太郎に優しく愛撫されるうちに不安はやがて消えて行った。城太郎にすべてを任せて、私は城太郎と一つになれた。これを初めてだったと言ってもいいんじゃないかって思えるぐらいに。
そして、そのまま私達は深い眠りについた。
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