第35話「自らの使命」
ビショップから明かされた過去と真実。
それを聞き、クレアと共に聞いていたラルク達他4人は何も言えず、ただ黙っていた。
彼らの経緯を聞けば、人類を憎み支配しようと考えるのは論理的と言えた。
「それでも、人々の為に人を殺して支配するなんて矛盾してます……間違っています!」
クレアは強く反論する。
それでも、ガーディアンズのやり方は間違っている。
人が愚かだとしても、それが人を殺す免罪符になる訳ではない。
「ならば、どうすればこの世界から争いは無くなる?答えてみろ!」
「それでも、貴方達のやり方は間違ってます!」
それでもと、クレアはビショップの考えを否定する。
この世から争いを無くす方法など、そう簡単に見つかるものではない。
「貴方達はガーディアンズ、守護神なのでしょ?ならば人を支配するのではなく、人を守るために作られたはずです!」
そうだ、自分達はエレシスタを守るため作られた。
ガーディアンズ。守護神を意味するその名前こそが何よりも証拠だ。
何故、人々を守るために人々を傷つけ、支配しようとしてる?
人々を争いから守るために、争いを根絶しなければならないからだ。
どうすれば、争いは根絶できる?
人は感情に身を任せ、誤った判断を下す。
だが機械である我々は、状況に応じて最適な手段で目的を達成する。
しかし、今のガーディアンズは手段と目的が矛盾している。
エレシスタ人を守るために、人々を傷つけ支配する。
それは本当に正しい事なのか……?
しかしエレシスタを守り、争いを無くすにはこれしかない。
たとえ矛盾していても……
「確かに貴方が言う通り、人は愚かかもしれません……過去に私と同じ魔術師が戦争の為に、人体実験をしていました。ですが、悪が全てではありません!人々の為に魔術を研究している人も、私は見てきました!だから、人がみんな愚かだなんて思わないで下さい!」
普段では見れないほどに、クレアは熱くハッキリと意見を飛ばす。
それだけビショップ、ガーディアンズの考えに対して思う所があるのだろう。
過去に人体実験をした魔術師とは、ロー・シャリーコの事であった。
彼の行った実験、アークブレードを動かすためにアレク・ノーレという人を作り上げたという事を知る人はごく一部しかいない。
しかし、彼が人体実験を行ったという事実だけは多くの人々に知れ渡っていた。
そのせいで、魔術師は常に非道な実験をしていると誤解している人もいることも、クレアは知っていた。
だから、自分達は魔術を誤った方向で使ってはいけないのだ。
ビショップはクレアの言葉を前に、沈黙していた。
彼女がの言葉がくだらなくて、言う言葉もないという訳ではない。
クレアの言っている事は間違ってはいない。
ならば、自分達ガーディアンズは間違っているのか?
「私は……私達は……」
ビショップは混乱していた。
誰が正しく、誰が悪なのか。
分からなくなり始めていたからだ。
***
その日の夜。
格納庫で一人、ビショップ考えていた。
勿論、クレアの言葉についてだ。
誰が正しく、誰が間違っているのか、何時間考えても答えがない。
ビショップは格納庫にある魔動機を見つめる。
「レオセイバーに装着されているのはソウルガルーダか……データにはあるが、最低限の情報だけか……」
レオセイバーを初めとしたソウルクリスタル搭載機の支援機として開発された、無人魔動機。
ビショップのデータにはその程度の事しか書いてなかった。
同じ大戦時に作られたエレシスタの魔動機ではあるが、ソウルクリスタル搭載機とガーディアンズとでは開発者も設計者も違う。
ソウルガルーダの情報が少ないのは、機密保持の為でもあるのだろう。
「形は違えど、同じ無人の魔動機……何故彼は人の味方をするのだろう……」
ソウルガルーダには戦闘に必要最低限の人工知能しか搭載されていない為、ガーディアンズのように意思はない。
もしも意思があれば、我々とと同じ結論にたどり着くだろうか?
ビショップはふと、そんな事を疑問に思った。
「こんなに悩み苦しむのであれば、いっそ意思や心など無い方が幸せなのだろうか……」
ビショップの考えは消極的な方向へ向かっていく。
機械らしく、人の命令だけを聞くだけの方が幸せではないのだろうか?
そんなことまでも考えていると、一人の男がビショップの前に現れた。ラルクだ。
「何の用だ?」
「定期的に見張っておけってクレアがな」
腕も足も今、ビショップはどうすることも出来ない。
だがラルク達エレシスタ軍からして見れば、まだ油断も出来ない。
警戒するに越したことはない、というクレアの提案だった。
ビショップはラルクを見つめる。
昼の尋問の時にも顔を合わせたが、レオセイバーに乗っていない彼と話すのは初めてであった。
彼ならば、今抱えている悩みを解くヒントを与えてくれるだろうか?
迷いに迷ったビショップはそう考える。
今まで人を見下していた彼らしくない発想であった。
「教えてくれ、お前達は悪なのか?私は正義なのか?」
ビショップは率直に尋ねる。
話しかけられるとは思っていなかったからか、ラルクは意外そうな様子であった。
少し間を置き、ラルクはビショップの問いに答える。
「正直、オレは人間全員が正しいとは思えない」
ラルクは躊躇いなく、思っていることを言う。
だって、そうだ。
もしもこの世界に善人しかいなければ、自分の村は襲われず、兄エルクが攫われる事もなかったはずだ。
「だが、これだけは言える。どんな理想を掲げていても、お前達のように誰かを傷付けるやり方は絶対に悪だと」
どんな理由があっても、それは人を傷付ける事自体が正しい事であってはならない。
それは三年前の経験から来た考えであった。
なにより自分を、自分達を殺しに来る者が正しいなど思いたくない。
一方、ビショップはラルクの言葉を聞き、深く考えていた。
そうだ、正当防衛ならともかく、人を傷つけ、苦しめ、殺し、支配する事が正しい訳がない。
それが例え、人の為だという理想を掲げていても。
『それでも、人々の為に人を殺して支配するなんて矛盾してます……間違っています!』
『貴方達はガーディアンズ、守護神なのでしょ?ならば人を支配するのではなく、人を守るために作られたはずです!』
昼間のクレアの言葉を振り返る。
そうだ、やはり今のガーディアンズのやり方は間違えている。
人を支配する事が、人の為であってはならない。
「そうだな、ラルク・レグリス」
反論せずに素直に受け止めたビショップに驚いたのか、ラルクはまたもや意外そうな表情を浮かべている。
ビショップの心の中にあった霧は晴れた。
今、自分が人の為に出来ること。
それは……
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