第10話「アークセイバーの覚醒」後篇
「おい、アークセイバーって……」
「あぁ、アークセイバーはアークブレードの性能を極限まで解放した真の姿だ」
「アークブレードとアークセイバーって同一の機体だったのかよ……」
まさかアークブレード自体が伝説のアークセイバーとはアレクも思っても見なかったが、その操者であるマギラが魔動石に取り憑いている事を考えると自然と納得いった。
「相手がアークセイバーであろうとッ!このゾルディオンの前ではッ!」
ゾルディオンは手をかざし、アークセイバーに向けて掌から魔弾を放つ。
魔弾は地面に積もる雪を溶かしながら突き進んでいく。
「アレク!アークディフェンサーを使え!」
「わかった!アークディフェンサーッ!」
アークセイバーの左腕に魔力で形成された光の盾アークディフェンサーが現れ、ゾルディオンの魔弾はアークディフェンサーに吸収される。
すると、今度はアークディフェンサーの中から魔弾がゾルディオンに向けて放たれる。
「何だとッ?!」
ゾルディオンは腕を交差させて防ぐも、無傷とはいえず腕の装甲が溶けていた。
アークディフェンサーは魔力による攻撃を反射する機能を有しているのだ。
「クッ、この私がこんな所でやられる訳には……!」
地面を蹴り、ゾルディオンは空高く舞い上がる。アークセイバー相手となれば一筋縄ではいかない。ひとまずは撤退しようとクルスは企んだ。
「逃がすか!」
大量の魔力を推進力にして、アークセイバーも空高く飛び立つ。
アークブレードでは不可能であった飛行も、アークセイバーならば可能となっていた。
「く、来るなぁ!この化物がァ!」
クルスは取り乱し、両手を平げて魔弾を放つも、アークセイバーは素早く回避し一発も当たらない。
「アンタの命までは取らないッ!だけど、生きてその罪を償ってもらうぞッ!フェールラルト卿!」
アークセイバーの剣が光り輝き、四方八方から斬りかかる。
ゾルディオンは為す術もなく、両脚と両腕を斬られ、地へと堕ちていく。
「ぐあああッ!」
「待てッ!」
アークセイバーはゾルディオンに手を伸ばすものの、急に力が入らなくなった。
「アレク、魔力を消耗しすぎだ。これ以上は無理だ」
「クソッ、ここまでかよ……」
「だが、あれほどの損傷だ。すぐにも捕まるだろう」
あと一歩という所で……アレクはとても悔しい思いをしていた。
「アレク!ここはオレに任せろ!」
「レイか!」
「あぁ!クルスはオレがなんとかする!お前は休んでろ!」
ブレイズフェニックスに乗るレイから通信が入る。まさに渡りに船だ。
レイが来た事に安心し、アレクは一旦リンの元へ戻る事にした。
しかし、レイの目的はアレクとは違っていた……
一方、ゾルディオンが地上へと堕ちていく様子はレーゼも見えていた。
「クーヴァ、聞こえるか?ゾルディオンが落ちた地点へ向かって破壊してくれ」
「了解しました。私の部隊を連れて向かいます」
ディセルオで待機していたクーヴァはシュルトバインと部下を連れ、ゾルディオンの元へと向かう。
***
「まだだ、まだ私は……」
額から血を流し、クルスは一人呟く。
まだ自分の理想を叶えていないというのにここで死ねるものか。一旦本国に戻らなければ……
しかし、クルス直属部隊の魔動機は先の戦闘でやられたからか、誰も助けに来なかった。エレシスタ人ならば誰でも良い。早く来てくれ。
そう思った矢先、クルスもよく知る人物が近づいていた。
「ブレイズフェニックス……レイか!」
雪の積もった地面の上で、胴体だけとなったゾルディオンからクルスは姿を現し、助けを求め始めた。
ブレイズフェニックスはゾルディオンの前で止まり、操縦席からレイの姿が現れ、クルスの元へ向かう。
「レイ!よく来てくれた!流石は私が拾っただけの事はある!さぁ!私を助けてくれ!」
先の戦闘での衝撃で傷だらけとなり、体力を消耗したクルスは両手を広げ、レイを抱きしめようとする。
しかし、レイには彼を助ける気など全くなかった。
軍服の腰から短剣を取り出し、クルスに刃を向ける。
「レイ……?どういう事だ……私を助けに来た訳じゃないのか……?!」
「誰がお前なんかを助けるか」
「レイ!私を助けてくれ!褒美ならいくらでもやる!そうだ!リンを妻にやろう!混血のお前には最高の名誉だろう!」
「お前にオレの気持ちが分かるか……?分からないだろ……分かるはずがないッ!生まれながらに恵まれているお前ななんかにッ!」
レイは自分を利用し、見下していたクルスへの怒りと憎しみを込め、短剣をクルスの腹に刺す。
短剣を突き刺した部分から血が流れ始め、クルスの白き軍服は赤く染まる。
そして、レイはクルスを突き落とす。
クルスを捕まえ、そのままエレシスタに戻るのもいいだろう。だが、もうレイはエレシスタさえも憎悪の対象となっていた。
「ん?この魔動機……」
レイはゾルディオンの手足を見つける。
先の戦闘で切断されたはずなのに、再生し始めていた。
「まるでトカゲの尻尾だな……」
これならばまだ使えるかもしれない。レイはそう確信した。
その時、その場にシュルトバイン率いるゼイオン軍の部隊が現れる。
「おや、奇遇ですね。また貴方にお会いするとは」
「その声、やはりクーヴァか」
「陛下からゾルディオンの破壊を命じられましてね。そこをどいて頂けるとありがたいのですが」
どくものか。この世界すら変えられるというこの魔動機を渡せるものか。レイはそう強く思っていた。
「それは出来ない。オレはコレを使ってこの腐りきった世界を滅ぼす」
「面白い事を言いますね……ですがその状態では無理では?」
そう言った途端、クーヴァもゾルディオンが再生している事に気付いた。
切断された筈のフレームが再生し、さらには装甲まで修復し始めていたのだ。
「なるほど……面白いですね私も貴方に協力しましょう」
「く、クーヴァ様ッ?!」
クーヴァの一言に、ここにいる誰もが驚きを隠せなかった。レイもその一人だ。
「大戦で猛威を振るったというゾルディオンに、貴方の実力が合わされば確かに世界すら変えられるかもしれませんね」
「いいのか?オレはエレシスタもゼイオンも滅ぼすぞ?」
「構いません。私は強者に付いていくだけ。今ゾルディオンに貴方が乗ればこの世界で最も強い者になりますからね」
先の戦闘もアークセイバーの加勢が無ければゼイオンだけでは撃退出来なかっただろう。
それだけの性能を持つゾルディオンにゼイオンの血を引き、操者として実力を持つレイが乗れば、誰も止められないだろう。それが例えゼイオン帝国皇帝レーゼ・リ・ディオスであってもだ。
ならば、彼こそが強者だ。クーヴァが付き従うべき対象だ。
「いいだろう。オレはこの世界を滅ぼす……この力で!」
エレシスタ、ゼイオン。この二国が存在し続ける限り、混血の自分は忌み嫌われ、蔑まされ続ける。
変わるべきはレイ自身ではない。この世界だ。二国が千年以上も争い続けるから、自分は不当な扱いを受ける。
ならば、争い続けるこんな愚かな人間が住む世界など必要ない。世界を変えるほどの力を持つこのゾルディオンで滅ぼす。
レイはそう誓う。もう後戻りなど出来ない大きな分かれ道であった。
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