第5話「輝きの剣」中篇
「ゴーレル、クーヴァよぉ、アークブレードを見つけたと言うのにオレに知らせないとは水臭いんじゃないか?」
「はっ、申し訳ありません陛下。手強い敵故に通信を入れるのを忘れておりました」
「まぁ、よい。アークブレードはまだピンピンしているようだなしな。二人共下がれ」
「オレ、後退する」
「仕方ありませんね」
ゴルゼガスとシュルトバインはヴァグリオの命令通り引き下がる。
目の働きをするガルディオンの顔のスリットが光り、アークブレードを睨みつける。
流石ゼイオン帝国皇帝といった所か、機械である魔動機から只ならぬ気迫が漂っている。
アレクは逃げることなら今すぐにも逃げたいと心のどこかで考えていたが、ここで逃げれば更に多くの人が死ぬだろう。
それはアレクにとって決して良い事ではない。
なんとかガルディオンに剣を向ける。
「こやつがアークブレードか。どうだ?オレと一騎打ちで勝負しないか?この勝負で決着が付いたのであれば、ゼイオン軍は引く事を約束する」
「勝負……?!」
アレクは驚きが隠せなかった。
皇帝である男が自分に勝負を申込んだのだ。
勝負を仕掛けるという事は勝算があるからそう動いたのだろう。
ますますヴァグリオの気迫に負けそうになっていく。
「陛下、いくらなんでも一騎打ちは危険では」
「クーヴァよ!オレの実力が信じられないと言うのか?!」
「いえ、そういう訳では……」
これ以上何を言っても、ヴァグリオの主張が変わることはないだろうとクーヴァは悟り、説得するのを諦めた。
「一騎打ちでは不服か?なら、仲間を呼んでもいいぞ。どのみちオレが勝つからな」
「仲間って私達の事よね?なんていう自信なの……」
「全く怖気づいていない……あれが皇帝の座に上り詰めた男か……」
リンとレイもヴァグリオの揺るがぬ自信に恐怖していた。
二人はアレクよりも実戦経験が豊富であり多少のことでは動じない。
だが、ヴァグリオの前では流石の二人でも恐怖し、動じずにはいられなかった。
「リン、レイ。アイツと戦おう」
「戦おうって正気なのアレク?!相手は現皇帝よ?!」
「フン、ここまでの馬鹿とはな……」
アレクの提案にリンとレイは当然のように反発した。
相手は皇帝だ。勝負に挑むのは勇敢ではなく無謀でしかない。
「俺が勝てるかは分からない……でも、ここで逃げるようなら誰も守れないだろうし、絶対に後悔する。無謀かもしれない……だけど俺は逃げたくはないんだッ!」
アレクの想いが通信で二人に伝わる。
ここで逃げればヴァグリオの進撃は進みもっと多くの人が犠牲になる可能性は大きい。
だが、ここで勝負に挑み決着がつけば引き上げるならば、勝負に挑むのが最もだろう。
勿論、この勝負に勝てる見込みは少なく、約束も守られる保証はない。
「アレクの気持ちはわかるわ。だけど……」
「俺達は今やれる事をやるんだろ?それに怖じ気づいてたら勝てる勝負も勝てないって、二人が言ったんじゃないか」
戦う前に言った事をアレクが返す。
それでもリンとレイの不安は払拭されないが、守りたいという気持ちはリンも共感した。
レイは彼の考えに共感はしなかったが、勝負を挑まなければ進軍は進み、恩人であるクルス・フェールラルトに危機が迫るだろう。
また、ここで逃げるのは軍全体から見れば得策ではない。
もし死んでも恩人の為になるので、あれば悪くないとレイは思っていた。
「わかったわ。その代わり、勝負に負けても生き残ってね。いい?」
「オレはここで死ぬわけにはいかないからな」
「わかったよリン。俺もまだ死にたくないはないからな!」
アークブレードとストームバレット、ブレイズフェニックスの三機が前進し、ヴァグリオのガルディオンと向かい合う。
「テンハイス騎士団第五小隊すまない、こんな事を任せてしまって……我々は見守る事しか出来ないが頼んだぞ!」
ウィザードの操者からアレクへ通信が入る。
心なしか、ヴァグリオの出撃により下がっていた士気が戻っているような気がした。
オリジンに専用機二機が揃えば流石のヴァグリオも負けるだろうと期待しているのだろうか。
エレシスタ軍が期待をしているならばそれを裏切る訳にはいかない。
ますます負けられない理由ができた。
「ほう、三機かちょうど良いハンデだッ!ゼイオン軍!手出しは無用だッ!」
ガルディオンは槍を両手に構え、槍先を三機に向ける。刃を向けられアレクは恐怖せずにはいられなかった。
だが、この国を守るために臆するわけにはいかない。
アークブレードの指先まで力を込めて剣を握った。
「クーヴァ様、我々も加勢すべきでしょうか?」
「なりません。これはあのお方の勝負。手を出せば一生の恥と思いなさい」
ゴブルの操者からクーヴァへ通信が入る。
この勝負に加勢し確実にアークブレードを倒そうと考えるのは自然ではあったが、そんな事をすれば皇帝を辱める事になり、重罪を課せられる可能性があった。
その為、卑怯者と呼ばれるクーヴァも加勢すべきではないと考えた。
(どのみち、アークブレードを始末できなければゼイオンの未来はない。それに、オリジンに敗北する程度であればその程度……アークブレードを倒すなら本望。ここで陛下がやられ、真の強者が皇帝の座に就くのもよし……)
クーヴァはこの勝負の二手、三手先を考えどちらにしろ自分にとっては好都合と考えた。
彼はヴァグリオに忠誠を誓っているのではなく、帝国一の強者である皇帝に忠誠を誓っているのだ。
だから、皇帝がヴァグリオである必然性はない。
彼はただ強い者に付いていく。ただそれだけであった。
「どこからでもかかって来いッ!」
勝負が始まる。
ストームバレットは足元に魔法陣を展開し、六発の魔弾を撃つ。
このまま行けばガルディオンに命中するが、そう簡単に行かず回避すべく地を蹴って跳び、魔弾は当たらず地面に着弾した。
「今よ、二人共!」
回避した隙を逃さないとアークブレードとブレイズフェニックスは大きく前進し、ガルディオンに飛び込む。
至近距離に入り剣を振り下ろすが、ガルディオンは槍の柄で剣を受け止める。
「思い切りがいいな。だが、思い切りだけではオレには勝てんぞッ!」
「そう簡単には行かないか……!」
ガルディオンの背後に回り、ブレイズフェニックスは二本の剣を掲げる。
「フン、そう来たか」
ヴァグリオにとってピンチではあったが、彼はまるでこの状況を楽しんでいるようであった。
ガルディオンは思い切りアークブレードを蹴り、すぐさま方向転換をしてブレイズフェニックスに向けて槍を振り下ろす。
アークブレードと左目と右肩を斬られたブレイズフェニックスは地面に着地する。
「まず一機ッ!」
「レイ!下がって!」
損傷したブレイズフェニックスに遅いかかろうとした瞬間、ブレイズフェニックスの前にストームバレットが立ちふさがり、二丁の銃口から魔弾を放つ。
ガルディオンも同時に槍を投擲し、ストームバレットの右腕が胴体から切り裂かれ、ドシンと音を立て銃を握った右腕が地面へと落ち、槍も地面へと刺さる。
しかし、ガルディオンも無傷ではなく、頭部の左を魔弾がかすめていた。
「少し視界が悪くなったか……まだ軽傷だッ!」
「リン!援護する!」
ブレイズフェニックスは宙に跳ぶとストームバレットの上に現れ、魔術で二本の剣に炎を纏うと振り下ろし、炎の斬撃を放つ。
流石のガルディオンも魔術による攻撃を直撃すれば無傷ではいられない。
後進し攻撃を回避すると、地面の草に斬撃が当たり燃え盛る。
「うおおおッ!」
アレクは声を上げ、アークブレードが背面からガルディオンに接近していく。
ガルディオンが振り向くと既に至近距離であり、一歩下がり剣撃をかわそうとするものの、僅かに遅く右肩の角が剣によって斬り落とされた。
「ヤツは今丸腰……ならばこちらに勝機があるッ!」
「ならば、これはどうだ?」
そして、今度は背後からブレイズフェニックスが接近していき、今槍を持っていない危機的状況だがヴァグリオにはまだ手があった。
突然地面に刺さった槍が自我を持つように動き宙に浮き、ブレイズフェニックスへ刃を向けると、勝手に槍が勢いよく飛び始めた。
「なッ……!」
レイが驚くのも無理はない。
槍を回避しようと動かすも間に合わず、槍がブレイズフェニックスの頭部を貫き破壊した。頭部が破壊されブレイズフェニックスの視界は失われる事になった。
槍はガルディオンに向かい、右手を開けると手元へと動き、槍はガルディオンの元へと戻ってきた。
ヴァグリオは魔動石で出来ている槍の刃を媒介に手元へと戻ってくるように動かしたのだ。
これは誰にも出来ることではない。ヴァグリオの魔力が高いからこそだ。
「レイ!!」
「ヴァグリオは俺に任せてくれ!そのうちにレイを!」
「わ、わかった!」
いつも落ち着き小隊長として的確な指示を出していたリンは珍しく取り乱す。
仲間、それも共に同じ家で過ごしたこともあるレイがやられたのだ。無理もなかった。
ストームバレットは左腕だけでなんとかブレイズフェニックスの肩を持ち、アークブレードの後ろにあるエレシスタ軍陣営へと撤退していく。
「中々手こずらせたが、もうお前だけだなアークブレードッ!」
右手に持った槍をアークブレードへ向ける。
出来ることは全部やった。
傷つけることもできた。
だが、ガルディオンはまだ立っている。
「フフフ……やはり貧弱なエレシスタ人では選ばれし民であるゼイオン人には敵わんのだッ!」
ヴァグリオのその言葉にアレクは反応した。
エレシスタ人である自分を差別し、アレクは不快感を抱いた。
「お前を倒した次は、エレシスタ人共根絶やしにし、我らゼイオン人のみが生きる世界を築いてみせるッ!」
ヴァグリオは勝ちを確信したのか、大きな声で自らの理想を語り始める。
だが、その言葉がアレクの逆鱗に触れる。
レーゼにもガゼルにも同感できる正義があり守るために戦っていた。
だが彼はどうだ?
アレクがエレシスタ人というのもあり、彼の主義主張に同感出来る余地はない。
弱い者を一方的に攻撃するような考えはアレクの真逆の思想であり、許せるわけもなかった。
「怒っているのか?」
マギラがアレクに話しかける。
彼も怒っているのか声が冷たくどこか怒りが篭っているようであった。
「ああ、俺はあいつが許せない……あいつがいればリックのように罪のない人間が殺される……そんな事は絶対に許せない……!」
「俺もだ。やはり俺はゼイオン人が憎い……特にああいうのがな!」
「ふんっ……初めて意見が合ったな。俺はまだアンタの考えに同感は出来ない。だけど俺もお前も、あいつが倒さなきゃいけない敵ってのは同じだろッ!マギラッ!」
「ああそうだ。今のお前なら授けられるな。この力を……!」
ゼイオン人について意見が真逆だった二人が意気投合する。
同じエレシスタ人としてヴァグリオを許せないという部分は全く同じであった。
そしてアークブレードの足元に魔法陣が現れ、二つの目が光り輝く。
今、アークブレードの力が解き放たれようとしていた……
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