第21話「三人の逃亡者」
エレシスタとゼイオンの国境付近の森林……
そこには三機の魔動機が待機していた。
「ねぇ、これからどうすんの?」
白と黒の魔動機イーグルランサーの操者である黒髪の少女、スアン・フィ・ランシェが話しかける。
「どうするも何も、逃げ回るしかねぇよ」
「それで次は?」
竜のような尻尾があるダイノアクスを操る青年、デルト・ド・スカードはスアンの質問に答えも、さらに続く彼女の問いに口を閉じてしまう。
研究所から脱走して半年。
彼ら三人はゼイオン軍からの逃亡生活を続け、今森林で休息を取っている所であった。
「その次も逃げ続けるしかないだろう。今更研究所に戻るのもごめんだしね」
緑髪の青年、ヘンリ・ゴ・ファルテッドが代わりにスアンの疑問に答える。頭部に角のある緑色の魔動機、ライノカノンの操者だ。
彼ら三人は戦災孤児であり、実験材料として強制的に研究所に入れられ、発見された三機のソウルクリスタルを動かせた事から、三人共魔動機を動かすパーツ程度の扱いを受け、共に過酷な日々を過ごしていた。
だが、そんな日々に転機が訪れる。
ヴァグリオ皇帝の時代から非人道的な研究が密かに行われていた事を現皇帝レーゼによって明らかとなり、研究が中止されようとなったのだ。
これをチャンスと考えた三人はそれぞれの魔動機を乗り脱走。そして半年後、今に至る。
「どうしたのデルト?」
「いや、なんでもねぇ……」
デルトは一瞬、何かに呼ばれているような感覚に陥る。
その異変はすぐにも顔に出て、スアンは気遣うが、本人はただの気のせいだと思いこみ誤魔化した。
(なんだ、今の感覚……何かが近づいている……?)
スアンとヘンリが何ともしてないから、きっと気のせいだ、ただ疲れているだけだろうと思う一方、今までに感じた事のないようなものであったからか、デルトは気になって仕方なかった。
ほんとに、何かに呼ばれているのではないか。そんな事を彼は思った。
***
ラルクとクレアはそれぞれの魔動機を操り、自らの感性を頼りに国境付近へ向かって行く。
テンハイス城がガーディアンズに襲われた後だ。本来城から離れるのは得策とは言えなかったが、ダリルに話し短期間を条件にソウルクリスタル捜索に向かっていたのだ。
「こっち……ですよね?」
「まぁ、そうだな」
自信無さそうに、クレアはラルクに確認する。
二人共、残りのソウルクリスタルが呼びかけているであろう大まかな場所はわかり、そこに向かっている。
だが、周りは木々や山ばかりの人気のない場所。
こんな場所にソウルクリスタルを内蔵した魔動機があるのか、二人共半信半疑であった。
「レオセイバーとヴォルフブレードも田舎のオレの村にあったんだ。意外とこんなとこにあったりしてな」
ラルクは前向きに捉える。
レオセイバーとヴォルフブレードが発見されたラルクの村も、お世辞にも都会ではない。
だから、こんな場所にあっても不自然ではないし、こんな場所にあるからこそ今まで見つからなかったとも考えられた。
「そ、そうですよね!とりあえず、行ってみるだけ行ってみましょう!」
そうして目的地に向かう事一時間後。
森の中で二機とも魔力の反応を捉えた。
「近くにいるな……」
「ええ、三機ほど反応がありますね。それも高出力です。まさか……」
ソウルクリスタルを追って、魔動機の反応。それも高出力で三機も。
もしかすると、三機ともソウルクリスタルを搭載した機体なのか。
まさかと二人は思ったが、そのまさかであった。
「テメェら!どこの魔動機だ!まさかゼイオンじゃねぇだろうな?」
崖の上に一機、ダイノアクスをはじめとした三機が姿を現し、斧をレオセイバーとピーフォウィザーに向ける。
「あの機体に、この感じ……間違いありません!ソウルクリスタルを秘めた三機です!」
「あぁ。確かに感じる。三機も見つかるとはツイてるが、この状況はツイてないみたいだぜ……」
ラルクは警戒し、レオセイバーは剣を構える。
三機とも残された書物に描かれた姿と一致し、彼らのソウルクリスタルと共鳴するのを感じていた。
探していた三機が一度に見つかるは好都合だが、そう簡単に機体を渡してはくれないだろうと、クレアも予感していた。
「デルト、奴らの様子が変だ。それにこの感じ……」
「なんか変な感じするけど、そんなの関係ないでしょ!アイツらもアタシ達を追ってきたんだって!」
ヘンリの助言を遮るように、スアンは意見する。
二人共、ソウルクリスタルの共鳴を感じているが、ラルク達を敵だと思いこんでいる。
研究所を脱走してから半年、これまで接近してきた魔動機は全てゼイオン軍の追手であり、経験上彼らも追手とスアンは考えたのだ。
「ゼイオン軍じゃありません!私達はエレシスタ軍テンハイス騎士団の者です!」
「エレシスタ軍だと……?!なおのこと面倒だ!ここで倒してやる!スアン!ヘンリ!行くぞ!」
デルトの指示で、イーグルランサーとライノカノンが武器を構える。
ゼイオンは勿論、エレシスタに捕まるのもごめんだ。寧ろ、エレシスタに捕まる方が厄介であった。
自分達しかソウルクリスタルを動かせるのを利用し、兵器として酷使される未来が見えるからだ。
「まずはアタシからッ!」
イーグルランサーは肩の翼を広げて空に舞い、両手の槍を突き出し、敵である二機に向かって急降下する。
その姿はまるで、地上の獲物を捉える鳥のようであった。
「ヤツをギリギリまで引きつけるぞ。いいな?」
「は、はいっ!」
実戦経験も少なく、混乱しているクレアにラルクが指示を出す。
正規兵ではないが、実戦経験ならば彼の方が上なのは明らかだ。
「今だッ!」
イーグルランサーの槍先が二機を捉えようとした瞬間、ラルクの合図で二機は横に散開する。
「あそこでかわすなんて、やるじゃん!」
スアンは攻撃をかわされた悔しさを含め、敵の腕前を褒める。
敵を逃し地面に激突しそうな所で、イーグルランサーは軌道を変えて再び上空へと戻っていった。
「ごめん、デルト!かわされちゃった!」
「まぁ、いい!スアンとヘンリは青い方をやれ!俺は銃を持ってる方をやる!」
崖の上に待機していたダイノアクスとライノカノンは地を蹴り、イーグルランサーとライノカノンはピーフォウィザーの方へ、ダイノアクスはレオセイバーの方へと向かっていく。
ソウルクリスタルを持つ魔動機同士の戦いが今、始まる……
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