第17話「六機のオリジン」
「あれがレオセイバーか?」
「はいっ、間違いないと思います」
テンハイス城内の格納庫……
搬入されたレオセイバーを見て、城主のダリルとピーフォウィザーの操者である茶髪の少女、クレアが話す。
レオセイバー自体の性能は勿論、ダリルは操者自身も気になっていた。
どういう人間が乗っているのだろう……エレシスタ軍を助けたのだから、エレシスタ人であるのは間違いないだろう。
アレクのようにオリジンの力を他人の為に使うような人間なのか、レイやクルスのように自分の為にその力を使う人間なのか……
出来る事ならば、前者のような人間であって欲しいとダリルは思っていた。
レオセイバーは膝をつき、操縦席からラルクが出て来る。
「歓迎……って感じじゃねぇな」
「それは君の返答次第だな」
レオセイバーを前に銃を構えた兵士達がラルクの視界に入り一人呟くと、ダリルが答える。
半ば強制的に連れてこられた時点で察してはいたが、この魔動機に乗っている以上放ってはおけないのだろう。
エレシスタ軍を助けたばかりに、厄介な事に巻き込まれたなと思ったが、彼らを助けた事自体に後悔はなかった。
「ここは大人しくしておいた方が良いな」
まだ明確に自分に不利益がある訳ではない。
ここでエレシスタ軍と対立するのはラルクにとって得策ではなかった。
それに、エレシスタ軍に逆らってお尋ね者になりでもしたら、兄であるエルクに合わせる顔もなくなる。
ラルクは両手を上げ、大人しくレオセイバーから降りた。
***
テンハイス城にある、城主の部屋……
そこにはラルクとクレア、ダリルの三人がいた。
「友軍を助けたのは感謝する。だが、その魔動機を君の物にしておくのは難しい……というのは分かるな?」
机の上で手を組み、ダリルは真剣に話す。
やはり、その事か。
ラルクには魔動機を使った危険な仕事はしても、軍に追われるような事は一度もしていない。
となれば、オリジンであるレオセイバー絡みでの話しかないだろう。
ラルクの推測が当たった。
「えっと……貴方が乗っている魔動機、レオセイバーはわたし達魔術研究所が探していた機体なんです」
「探しものならオレもある。オレの兄と、その兄が乗っていたレオセイバーとよく似た灰色の機体だ。もしかしたら、アンタ達も探してるんじゃないか?」
「それってもしかして、ヴォルフブレード……!」
その魔動機にクレアは心当たりがあった。
ヴォルフブレードもまた、クレア達魔術研究所が探しているオリジンの一機だった。
「彼と魔術研究所が探しているものが同じなら話は早い。彼の兄が見つかるまで協力し、見つかったら君のレオセイバーを手放してもらう。これならどうだ?」
「わたしは構いませんが……貴方はどうですか?」
「良いだろう。兄が見つかればレオセイバーもいらないしな」
ダリルの提案にラルクとクレアは賛成する。
ラルクはエルクを探す手掛かりであるヴォルフブレードを追い、クレアもヴォルフブレードを探している。
ならば、この提案に乗るのはとても合理的と言えた。
「それじゃ、これからよろしく頼む。俺はこの城を任されてるダリル・ターケンだ」
「わたしは魔術研究所から出向してる、クレア・テーベルです!」
ダリルが自己紹介すると、続けてクレアも深々とお辞儀をして自己紹介を済ませる。
「オレはラルク・レグリス。軍は好きじゃねぇが、兄を探す為だ。協力するぜ」
ラルクは手を伸ばし、ダリルと握手を交わす。
なんとか丸く収まり、ラルク達三人は内心安堵した。
(アークセイバーが封印されたと思ったら、今度は二機もオリジンの面倒を見ることになるとはな……こりゃ退屈する暇もないな)
ダリルは心のなかで呟く。
クルスやレイのように誤った道を歩まないようと一人、気を引き締めた。
***
翌日の午前……
テンハイス城の格納庫で、レオセイバーの分析が始まった。
「あーやっぱりピーフォウィザーと同じような感じですね」
「何かわかったのか?」
軍服着たラルクは操者として、クレアの分析を見守っていた。
すると、膝立ちの待機姿勢を取っているレオセイバーの操縦席からクレアが姿を出す。
腹にある操縦席から飛び降りると、転びそうになりながらもなんとかクレアは着地する。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!」
転びそうになったクレアを見て、ラルクは思わず心配になり声をかける。
クレアは生まれつき高い魔力を持っているが、運動神経は良い方ではなかった。
ラルクからは、城主の部屋で話している真面目でしっかりしてた彼女とは違って見えた。
「それで他になんか分かったか?」
「やはりレオセイバーで間違いないですねー操縦席周りもわたしのピーフォウィザーと同じですし」
ラルクにレオセイバーの隣で待機しているピーフォウィザーに視線を向ける。
獅子のレオセイバーと、孔雀のイメージを受けるピーフォウィザーの操縦席が同じ構造というのも、変な話だなとラルクはふと思った。
「レオセイバーとアレが同じ……?」
「そうなんですよ!大戦時に同じ場所か同じ技術者達で作られたのか、魔動石も同じで、内部構造も似てるみたいでー」
「それって、兄弟機って事か?」
「そう、それですよ!ラルクさん!」
レオセイバーとピーフォウィザー、どちらも何かの動物を模している魔動機とはいえ、それで兄弟機とはますます不思議に思わずにいられなかった。
「レオセイバーもピーフォウィザーもソウルクリスタルと呼ばれる、特殊な魔動石を搭載してる六機のうちの一機なんです」
「六機……って事は、その中にヴォルフブレードも……」
「はい、残された文書によると、残り四機は竜の魔動機、鷲の魔動機、犀の魔動機、狼の魔動機みたいです」
狼の魔動機、それがあの日エルクが乗った魔動機ヴォルフブレードで間違いないだろう。
正直、ラルクにとって竜と鷲と犀の魔動機に感心が無かった。
「あと、レオセイバーもピーフォウィザーも特定の人しか操者として動かせないみたいですね」
「特定の人……?」
「はい、ピーフォウィザーの場合は私、レオセイバーはラルクさんって感じで」
「って事は、ヴォルフブレードが現れたら操者は……」
「ラルクのお兄さんと見て間違いないでしょう」
ヴォルフブレードだけがエルク捜索の手掛かりである以上、その事実はラルクにとって都合が良かった。
「もしかして、クレアがここに出向しているのもそれに関係しているのか?」
「そうですね……元々はただの研究者だったんですけど、ある日ピーフォウィザーを発掘して乗ったら私以外じゃ動かせなくなっちゃって……」
城に魔術研究者が出向しているのは、魔動機の整備などを考えれば不自然という訳ではない。
だが、その研究者がオリジンに乗っているとなれば不自然だ。
何か事情があるのかと思ったら、そういう事かとラルクは納得した。
クレアはオリジン探すためにテンハイス城を拠点に活動しているが、もしもテンハイス城が攻められた時は出撃するようになっていた。
「わたししか動かせないって分かった時はどうしようかと思いましたが、これに乗っていると他のソウルクリスタル搭載機のおおまかな位置とかも分かるみたいで、オリジン探しには便利なんですよ?」
なるほど、あの時ピーフォウィザーに呼ばれる感じはソウルクリスタルの性質故の物だったのか。
ラルクの気になった事がハッキリとした。
「魔術は強大故に、使い方を間違えれば恐ろしい事になります……三年前に起きたオリジン同士の戦闘をご存知ですか?」
「聞いた事はあるな。伝説のアークセイバーとゾルディオンが戦ったって」
「はい、ですからオリジンが間違った使われ方をしないように、出来る限り現存するオリジンを回収したいんです」
さっきまでのふんわりとして印象から、一転彼女の言葉は真剣であった。
魔術に関わる一人の研究者として、可能な限り最悪の事態を回避したい。心のない人に魔術を使って欲しくない。
クレアはそう強く思っていた。
「魔術は人を傷付ける道具じゃないんです……いつかは兵器の技術としての魔術ではなく、大昔のように魔術で豊かな生活を送れるような世界を作りたいんです……」
かつては日常生活に魔術が使われたと言われるが、現代では魔動機の技術として使われている。
クレアとしては、戦う為だけに魔術が使われる事は複雑であった。
だから、いつかは武器ではなく、人の生活を支え豊かにする為に魔術を使われる事を願っていた。
「あっ、お腹空いて来ましたね!一旦ここで切り上げて、お昼食べに行きません?ここのご飯は美味しいんですよ!」
少し真面目な話をし過ぎたかとクレアは思い、誤魔化すように笑顔でラルクに昼食の話題を持ちかける。
「そうだな。メシにするか」
ラルクも同意し、二人は食堂へと向かう。
(魔術で豊かな生活か……)
そんな世界が実現出来るのかどうか、ラルクには分からない。
だが、魔術を使って誰かを傷付ける事はラルクも許せなかった。
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