第7話 職場
女は、酔うと仕事の話をすることがあった。
「今の職場は、今までの職場に比べたらいいほうと思うよ。どこにでもいる独善的なおばさんはいるけど。職場に期待してもしかたないじゃない。そんな職場しかないわけだし、あたし達は差し出されたものをそのまま受け取るしかないのよ。おばさんは、あたしが夜勤の時、早出。おばさんは早出の仕事をこんな風に言うのよ、『これは夜勤者の仕事でしょ』ってね。でもね、自分が夜勤の時は、その仕事をやりもしないのよ。そんなものよ。おばさんは高齢だから、楽したいありきなんだと思うよ。フロアリーダーに言っても取り合ってもらえなかったわ。噂では、おばさんはフロアリーダーに賄賂を渡しているんですって。おばさんとフロアリーダーは同類よね。そういう事情なんでしょうね、所詮。それはいいとして、にやけた施設長、擦れ違う時、やけに体を接触させてくると思ってたの。そしたら、この間、キッチンで洗い物をしていた時、『そろそろ僕達も僕達なりの楽しみ方をしようじゃないか』ですって。施設長は高級車を乗り回していて、もしかしたら、あたしが生活苦ということを知っていてそういうことを言って来たのかもしれないわね。あたしも若い頃なら、生きるために、そういう関係になれたかもしれないわ。職場での自分の立場を優位に持って行こうとして。実際のところ、どうだか分からないけれどね。でも、今は、子どもがいて、そんなことできるはずがないじゃない。どうして子どもに恥をかかせることができるの?」
女は、僕の背中を蹴りまくった。
「誘いに応じなかったから、あたしは針のむしろのような状態で仕事をしなければならなくなるかも。あるお偉い人が言っていた。労働とは、人間の人間性を基礎づけること。結局のところ、仕事なんてものはね、我慢しさえすれば何とかなるものよ。我慢の問題。馬鹿馬鹿しい!」
アッパー、キック、拳骨。
「我慢するのも我慢しないのも、違いがないように思えるわ。でもね、今度転職する時は、起業する時だって決めているの。だって、雇われている限り同じことの繰り返しでしょ。碌な職場ないじゃない」
キック、キック、キック。眠る。
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