46話「驚愕」

「その氷。我が溶かしてみせましょうか?」


 一同が、マリリンへと振り向く。


「そんなことできるのか?」

「我の魔法は、究極の眠り魔法だけではありませぬ。火魔法だって使えるのですよ?」


 そういや過去に、マリリンは火魔法が使えると言っていた。

 しかし、初級しか使えないと言っていたが、どうなんだろうか。

 未だ誰も、火魔法を使うマリリンを見たことがない。


「よかろう。魔女っ子よ、試してみよ」


 フェリエルが、マリリンへと近づく。

 そして一匹のスライムが、何処からともなく飛び跳ねて来た。

 そのままピョンと飛び跳ね、フェリエルの頭の上に乗っかった。

 スライムは丸い瞳で、マリリンを見つめる。


「そのスライムは我の同志。名はライムと申す」


 どうやらフェリエルの仲間のスライムのようだ。

 

「可愛いのでありますっ!」


 マリリンがスライムに手を差し伸べる。

 途端、スライムはマリリンに飛びついた。 

 マリリンは優しくライムを左腕で抱き、頬を擦り寄せた。

 

「へえ……スライムって人に懐くもんなんだな」


 俺もライムを触ってみた。

 ゼリーのようにぷるんとしている。

 なかなか可愛いじゃないか。


「で、マリリン。この氷、かなり厚みがあるけど大丈夫なのか?」

「我はハイ・ウィザード。我が魔力を結集すれば、初級の火魔法とて、紅蓮の業火になりまする」


 自信満々でマリリンはそう語る。

 俺はフェリエルに視線を向けた。


「他に方法がない。試してみるがよい」


 左腕でライムを抱きながら、右手でマリリンは杖を氷の柩に向けた。


「――フフフッ。では、ご期待に添い。我が最大火力の火魔法で、瞬時に氷を蒸発させてみせましょう!」


 キリッと姿勢よく杖を構え、マリリンは得意げに前に進み出た。

 うーん。なんだろう。

 鼻の下がむず痒いな。

 ポリポリ。


「マリリン殿。そんなに意気込むな! 中の姫様まで、焼いてしまったらシャレにならないぞ!」


 リシュアがマリリンの気勢を削ごうと忠告する。


「マリリン殿。まずは最小火力から試してみるのだ」

「アリスは、回復魔法を詠唱止めしとくね!」


 俺はチラッとフェリエルを見た。

 俺達のやり取りに特に不満は感じてないようだ。


「じゃあ、マリリンよろしく頼むぞ!」

「はいっ!」


 マリリンはライムを抱いたまま、詠唱を始める。


「偉大なる始まりの炎よ! その名は紅き汝。我と汝が力もて、等しく滅びを与えん来たれ創生の灼熱の奔流――――」


 ……な、なんなんだ……やけに文言が仰々しいな。

 

「ま、まずいぞっ! ハジメ殿! マリリンは加減をしらないぞっ!」


 リシュアの叫びにアリスが、ポカーンと振り向いた。

 たしかに初級の火魔法にしては呪文の台詞が、仰々しい。

 マリリンは眠り魔法の範囲調整もできない。

 ある意味、不器用なのだ。

 これは大惨事になりかねない。

 焼け焦げた、お姫様の姿が脳裏を過ぎる。

 マリリンの瞳が、紅い炎の渦で揺らめいた。

 ――マ、マジで、これはやばいぞっ!


「ちょ……マリリンっ! 最小火力って言ってんだろ! バッバカッ! やめろおおおおおお!!!」

「もう、止まらないのですぅぅぅ! 究極火球射矢アルティメットファイアーアロー!!!」

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