第二十五話「決着」
「きゃあああああああ!!!」
清家が悲鳴をあげた。
ウルベルトの剣先からぽたぽたと血が滴り、地面を朱に染めた。
郷田の首が地面へと転がった。
途端、清家雫が俺に縋りついた。
「お願い殺さないでっ!」
清家は瞳を涙で濡らし、懇願する。
「ルーシェリア王子、お願いですっ! 死にたくありません助けてください!」
かつて俺の告白に土下座し逃げ去った、清家雫がそこにいた。
彼女は極度の緊張状態の中で、衰弱しきっていた。
骨山はわんわんと泣きわめく。
間宮は覚悟を決めたように静かに俯いた。
メアリーが俺に縋りつく清家雫を引き離そうとする。
「あなたも同罪です」
その言葉は凍てつくほど冷たく、いつも俺に微笑みかけてくれる優しいメアリーとは別人であった。
これがこの世界の現実なんだろうか。
日本と言う温室の中で育った俺には、現実離れした日常。
ウルベルトは更にやる気だ。
次は骨山を仕留める気でいる。
俺が戸惑いながらウルベルトを見据えると
「これも全て、坊ちゃんの父君、アイザック殿下のご命令でございます。事件の真相が明らかになった今、この者達を生かしておく理由はございません」
「え? 父上が?」
「さようでございます」
普段は飄々として、いつもゆるい笑みを浮かべていた俺の父が、そんな厳しい命令をウルベルトに命じていたのか。
やるじゃないか。親父。
そう感心もするものの、身の毛もよだつ。
ウルベルトは骨山の黒髪をわしづかむ。
無理やり立たされた骨山の胸部に剣が突き刺さった。
骨山は涙を浮かべながら絶命した。
ウルベルトの眼光は次に清家雫を捉えた。
俺から引き離され失禁している清家へとウルベルトが近付く。
清家の瞳孔が大きく開いた。
「いやあああああああああああ!!!」
俺の中に清家雫への未練はあった。
しかし、それは遠い過去の話だ。
それでも、少しは可哀そうだとも思った。
だからと言って俺に止めることができるのか?
いや……無理だろう。
せめて最後ぐらいは目を逸らさずに見届けてやろう。
「まった! 待つのじゃ!」
制止したのはフィルの親父でもある国王だった。
シャーロットに肩を借りた国王がそこにいた。
「殺すことは無い」
「陛下のご命令とあれば」
ウルベルトは不服を申し立てることもしない。
「国王陛下のお慈悲に感謝するのだ」
命令に忠実な男だ。
血糊を布で拭うと納刀し、王の御前に跪いた。
そして王が命じた。
「その者達を獄へとつなげ」
この頃には、多くの衛兵が駆けつけてきていた。
清家、間宮、シメオンは手枷をされ獄へと、しょぴかれた。
「一先ず、落ち着いたわね」
嘆息しシャーロットが呟く。
そして俺の前にかがみ込むと微笑んでくれた。
「さっきは助けてくれて感謝するわ」
シャーロットが俺の頭を撫で撫でする。
撫でられながら、俺は考えに耽った。
シメオンが全部吐けば、この陰謀の全容が明らかになることだろうと。
「ルーシェリア、随分と魔術の腕をあげたんだな」
振り向くとそこには、苦笑いを浮かべるフィルがいた。
「弟に先を越されるなんて兄として立場がないよ」
俺とフィルは実の兄弟ではない。
兄弟ではないが、前にメアリーが話してくれていた。
俺とフィルは幼いころから兄弟のように育ってきていると。
王様からも褒められた。
「よくぞ二人の窮地を救ってくれたのう」
このミッドガルでは二つの派閥が次期国王の座を狙って争っている。
一つは現国王派。
もう片方がオースティン公爵派だ。
残念なことに派閥の力は圧倒的に、オースティン公爵の方が強いそうだ。
その理由は大きく二つあることを国王が話してくれる。
この国の通貨発行権を牛耳ってるのが、かのオースティン公爵。
つまり、彼の一声で、国家を支える予算の分配が決まる。
日本で言うところの日銀。もしくは国家の一般会計予算に該当する。
金の流れを自由にコントロールできる力は絶大である。
金になびく亡者が多いからだ。
更にもう一つが軍権だ。
この国の軍権はオースティン公爵の腹心、バーソロミュー・ヘルムート侯爵が持つと言う。
俺の親父は疑う事なく、国王派だ。
フィリップ王子を支持している。
ならば俺も、国王派として見做されてることになる。
これは自覚しとかないとな。
足元をすくわれる恐れがある。
オースティン公爵は俺の叔父上である。
俺は今まで、ただ漠然と身内であると言う理由だけで、ある種の親近感を抱いてはいた。
前世で天涯孤独だった俺は、家族の愛に飢えていたからだ。
だが、考えを改めなくてはなるまい。
俺も叔父上からは今後は危険視されるであろう。
郷田は死んだ。
骨山も死んだ。
もし未来で俺を殺害したのが郷田だと仮定するならば、俺の未来……。
この時点で変化が訪れたやもしれない。
だが、俺の直感はそう告げてはなかった。
そうだ、明日。
ドロシーに会いに行こう。
俺には将来三人の嫁がいるとマリーは語っていた。
家族が惨殺されるまでは、幸せな暮らしをしていたのであろう。
ドロシーに会えば、俺のこのもやもやした気持ちも晴れるに違いない。
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