第19話 ネーミングセンス
相変わらず面白そうなんで隣の教室の柏木君を見送る。あ、また何かの雑誌を持ってくる女子。この前の子じゃないから自分で仕入れた情報かこの前の子を真似て自分もトライか。頑張るなあと自分の教室に戻ろうとすると柏木君がその子を遮り教室を出てきた。
「佐久間! さっきのことなんだけど!」
さっきのこと? 箱を探すこと?
柏木君はなんか適当な話をしつつ、私を廊下の奥まで引っ張っていく。
「助けてって言ったじゃないか!」
「ああ! 忘れてた!」
「また宇宙人の雑誌持ってきてたの見てたよね?」
「いや、宇宙人かどうかは……」
雑誌っていうのは見えたけど。宇宙人には詳しくないから。
「そういう問題じゃない」
「でも、自分が演出してたんでしょ?」
「宇宙人じゃない! 宇宙が好きなのは本当だから」
まあ、知らない知識でマニアな部活には入れないか。
「マニアなイメージ取れないね。逆にしんどい?」
「うーん。あんまり変わらないけど。まあ、人数は少ないからまだいいけど」
今で少ないの? どれだけだったんだ? 中学時代? 橘君もいるのに。
「宇宙人じゃない、宇宙なんだって言えばいいのに」
「そう言ったら。宇宙について興味もないのに散々説明させられて無駄な時間過ごす羽目になるから、嫌なんだよ」
「もう、言ったの?」
「一人ね」
あの子は何人目なんだろう。
「で、懲りたと」
「うん。なあ、佐久間助けて!」
「無理だよ。榊が私を彼女にしてる。二股になったら今度は私が攻撃される!」
そう榊は私を彼女だってことにしてるんだ……。
「そうなの?」
「知らないの?」
噂には鈍感だな、柏木君。
「じゃあ、こうやって助けて」
イチイチですか! いいけど。まあ、話をするだけだからいいんだけど。
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
「あ、じゃあ戻るね」
「また、放課後!」
「目安箱!」
榊、ネーミングセンスがおかしい。いや、他もおかしいけど。
放課後の生徒会室。箱に装飾していて名前も書かないとって話から榊のネーミングセンスがおかしいことが判明。
「ご意見ご感想を! は?」
橘君もおかしい。おまけに箱ってのが消えてる。
柏木君は一人静かにパソコンでアンケート用紙を作ってます。
「じゃあ、ご意見箱は?」
どうだ!! 二人のを混ぜたぞ。
「えー、なんか違う」
榊の感覚からだと違うんだろうね。
「意見箱は?」
パソコンに向かって全くこちらに興味なさそうだった柏木君。どうやら仕事が終わったので参加してきたみたいで、ちゃっかりこの流れを聞いている。
「おお! それいいな!」
「ああ、なんかしっくり来た!」
榊、橘! 私の提案からの“ご”を取っただけなのに、なんでそんなに急にまとまるんだよ。
「じゃあ、それ作るね」
ああ、柏木君。箱に貼るこの箱の名前を作って終わらせたかっただけだったのか。すでにアンケート用紙は誰の確認もなく印刷されているし。
私の意見なんてなんにも聞いてもらえないのに!
アンケート用紙には『ご意見ご感想を!by生徒会』って、柏木君、橘君と似過ぎだよ。どこまでも。
さあ、箱を設置って事で鍵を借りる時に設置する机の調達も榊がしていたので箱と用紙を持って移動。一年、二年、三年の教室がそれぞれ並んでいる廊下の真ん中に設置。
不安なんだけど。ご意見ご感想を!ってフンワリした生徒の意見も感想も不安だけど、それに対しての榊の反応が不安だよ。そしてノリノリになるその他二名も。それに反対するどころか応援しかねない、顧問も。
今日は榊の料理当番だ。宿題も終わって、一人でゲームもつまらないから榊と話してる。本当に手際いいな。春から転校したわりに家事が手際良すぎる。
私の場合は母が父にベッタリで二人で旅行、挙句短い転勤というか出張までついて行くから仕方なく家事をやるうちに出来るようになった。一人暮らしの許可もそれがあったから出たんだろうけど。
榊ってなんで一人暮らしなんだろう。家庭の事情とかからんでたら嫌なので聞いてないんだけど。
そう考えると私って榊のこと全然知らないなあ。
ブーブー
最近榊の携帯がこの時間によく鳴る。榊は全く出ない。誰なんだろう?
一度目には出なくていいのか聞いたけど、いい、って一言で終わらされた。
ブーブー
ドンドンかかってくる回数増えてるんだけど。誰からなんだろう。
「おし! 出来た! 運べよ、香澄!」
二人で食べてる間にもなり続ける榊の携帯。どうしよう。知らんぷりし続けようか。
食べ終わって洗い物をしている。榊はまた今日もゲーム。だけど、最近身が入ってない。すぐにゲームオーバーになる。榊も携帯を気にしてるんだろう。
と、そこへ
ガチャ
と榊の家のドアが開く音。
ガツ
あ、そういえば榊は家に入ってチェーンしてたな。ずっとしてなかったのに最近はずっとチェーンをかけてる。何でか理由を携帯のこともあって聞きづらかったんだけど……
ドンドン ドンドン
「陸! 開けて! 陸! 携帯にも出ないで!」
若い女性の声が聞こえてくる。チェーンの隙間から聞こえるので鮮明に聞こえる。
誰? 榊、鍵もかけてたよね? なんで彼女は榊の家の鍵を持ってるの。
洗い物が手につかない。手の泡を洗い流して榊を見る。
私と目があった榊は立ち上がり玄関へと歩いていく。
「陸! これ女の子の靴じゃないの! 何してるの! 開けて!」
チェーンの隙間から私の靴が見えたみたいだ。これって最悪な場面?
榊が私に何もしないで彼女のフリだけでいたのはあの女性のせいだったのかな。胸が苦しくなる。締め付けられて息が苦しい。何これ?
「陸!」
「開けるから閉めて!」
榊の口調。どう聞いても親しい間柄。そうだよね。この部屋の鍵を持ってるんだから。
ガチャ
ドカドカ
女性は勢いよくこちらに来た。が、私の前を通り過ぎてすぐに榊の部屋を開けようとして、キッチンにいる私に気づく。振り向いた女性は……私よりも少し年が上ぐらいかな。真っ直ぐな黒髪が肩まで伸びていてクッキリした二重の切れ長な瞳の女性。……綺麗な人。
「陸! どういうこと?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます