第8話 メガネ君とモテ男君

 さて、やってきた放課後。ノルマを達成して嬉しいの半分、強制的だったのにもう生徒会なんだと認めてる自分に気がついて後悔半分。生徒会室の前。


 ガチャガチャ


 ドア開かないし! 榊! なにやってるんだ! きっと勧誘できてないんだ。ちょっとした優越感。けれど、なんで自分が成功したかは全くわからない。


「あれ? 開かないの?」


 後ろから声がする。振り返り見ると柏木君だ。


「そうなの。生徒会長の榊がきっと生徒会の勧誘が上手くいかなくて手こずってるのよ」

「勝手に手こずってる俺を想像してニタつくな香澄」


 なぜ柏木君が参加したにも関わらず私を香澄と呼ぶんだ榊は!


「ニタついてないし。ほらちゃんと勧誘してきたよ。三組の柏木君よ。あ、書記希望だから」


 そこはちゃんとしとかないとここで逃げられたら困る。


「どうも」


 柏木君が榊に挨拶。


「えー、じゃあ、俺が会計? めんどいな。リュウ代われよ」


 え? どこから、声? と榊が大きく私が小さいから見えなかった。榊の後ろにもう一人いた。多分生徒会に入るんだよね。

 どうやって説得したの? 榊? ってか、リュウってなに? あ……私は勧誘メモをもう一度ポケットから出す。三組柏木隆。あ、あのいかにも自信ありげにモテてますオーラ全開の新入りと柏木君の関係は? 柏木君も新入りなんだけど。


 ガチャガチャ

 ガラガラ

 生徒会室のドア鍵を開けてドアを榊が開ける。


「まあ、とりあえず二人とも中に入ってから決めたら?」


 私には榊の言葉が悪魔の囁きに聞こえるよ。入りたくないこの中へ!!


「お前やれよ!」

「嫌だね。シュンがやれば」

「隆は得意じゃないか、そういう細かいこと」

「お前のが得意だ」


 なぜ生徒会を降りるに話がならないのか不思議なんだけど。そして、多分下の名前で呼び合うモテ男とメガネ君。かなり不思議な光景がさらに意外な決着をみせる。


「わかったよ。やるよ」


 と折れたのはモテ男の方だった。




「じゃあ、決まったところで、彼は六組のタチバナ シュンだ」


 と、橘瞬という名前を丸で囲ってるメモを榊は私に見せる。どうやったの? 女子じゃないの? ていうか橘瞬は候補のメモの一番上じゃない!!


「俺は榊陸で、こっちが副会長の佐久間香澄だ」


 ペコりとお辞儀をしてる私。って、何? この光景は? 私の予想の女子だらけに反して男子だらけになってる生徒会室。

 そして巻き起こる疑問、榊がクラブをやってないだけでも意外なことなのに、あのいかにもモテそうな橘がなぜやってないんだ。

 なんか軽い雑談タイムに入ったんで、昨日榊が見ていた資料を私は見に行く。確かこの辺に直してたよね。あ、あった。

 六組の橘、橘。指でたどって橘瞬の部活の欄へ。はい? なにこれ? 二重線引いてないよね。どういうこと?

 そこには陸上部、剣道部、バスケ部、サッカー部って欄からはみ出て書いてる。しかもどれにも二重線は入っていない。


「ちょっと、榊! ちょっと、こっち」


 せっかく勧誘したんでぶち壊すのもどうかと思って榊だけを呼ぶ。


「なんだよ、香澄、いいところなんだぞ」


 いったいなんの話でそんなに盛り上がってるんだよ! それよりここだろう? なぜ彼の名前をメモに入れてる。しかもなぜ彼は今もここにいる? どっかのクラブに行かなくていいの?


「これ!」


 私は橘のクラブ欄を指差す。


「ああ、それか。変だと思って橘に話したら、生徒会入ってくれることになったんだ」


 見えない。今の説明じゃ何にも見えないよ榊。国語のテスト悪いでしょ!!


「どういうこと? クラブに行かなくていいの?」


 もう橘本人に聞くしかない。逃げられるのも困るけど、途中でクラブに行かれるのも困る。


「ああ、それは試合用なんだ。試合に部に所属してない奴は出せないから、所属だけして試合にだけ出てるんだ」


 うわー。余裕の発言。さすがモテオーラ全開だね。


「じゃあ、クラブには出なくていいの?」

「時々試合の時には行くけど、試合はほとんど土日だしね。生徒会の活動には支障はでないよ」


 爽やかな笑顔で返してくれてるけれど……なんで掛け持ちしてクラブに所属してるのに練習行かない人間が生徒会に入るの?


「という訳だ。香澄、細かいな」


 いや、気になるよ。このメンバー。




「隆さあ、もうやめたらそのメガネ。視力検診どうやってるんだよ」

「え、見えないふり」

「そこまでしてなんかいいのか?」

「面倒はなくなった」


 ……どうやら親しい橘君と柏木君。話がわからない。入れないよ。


「香澄なんか2日でやめたぞ」


 そこに入れる榊。え? 今までその話してたの?


「なんの会話?」


 この生徒会室に生徒会っぽい話はいつやってくるの?


「ああ、柏木が伊達メガネだからやめたらって。香澄もやめて、おかげでノルマ達成だしな」


 ノルマ達成と私のメガネは関係ない。


「まあ、そんな事より体育祭!!」


 あ、柏木君、話をすり替えたね。

 って体育祭の話をしてたの? めっちゃ生徒会じゃない!


「体育祭で何するの?」


 急に話に食いつく私。生徒会っぽいことしなきゃ榊が余計な事をしそうだ。


「それを話しあってたんだ。榊が変装して障害物競走するのがいいんじゃないかって」


 橘君の言う榊の案。誰が! 誰がするんだ? 変装って?


「それってどっから参加を集うの?」

「クラス対抗で男女二名ずつ」


 スラスラ案が出てるけど、この計画を先生に打診されたのはいつなんだ!? 榊!

 ってそれ、自分も当たる。嫌だよ。私はやりたくないよ。ってか、みんなも嫌がるって。


「俺たちはその時は仕切るから抽選から外れるぞ!」


 そのセリフ、榊が一番やりたくなさそうなんだけど。どんな変装を考えてるの?

 しかもはじめから抽選する気満々だし。みんなが嫌がるとわかっててやるって。意地悪な奴!




「じゃあ、障害物競走に使えそうなものと、変装に使えそうな物が学校にあるか先生に確認してから決めよう」


 と、完全な榊の出来レースに乗せられた私達。いや、全校生徒。

 候補がいないからって、立候補者に全てを委ねたのが間違いだね。全く。榊、曰く私のせいなんだけど。


 

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