第24話 再び再会する
真っ暗な我が家を見て、まだ帰ってないあの二人を思い描く。父も母もエンジョイしすぎだってば! と家の前に人影……え? 類?
「樹里?」
やっぱり類だ。類の声。類の言った、またな、が本当になった。
「類! どうしたの?」
この二年全く連絡してこなかった類が家に来るなんて……思ってもみなかった。
「あれ? 紫苑さんから聞いてない? 俺の物が出てきたって」
「あ! そいうえば、あれ?」
と、答えは意外なところから……拓海の口から出てくる。
「あれ、って?」
「俺がここ来た日に出てきたんだクローゼットの奥から……前の子のものだからとりあえず置いといてって、今も俺の部屋にあるんだけど……」
あれ、ってなに? まあ、いいや、宅配とかで送ったりできないものだったのかな? わざわざ類を呼び出すなんて……全く、しかもそんなものを拓海の部屋に置きっぱなしにするってどうなのよ。母ってばよく弁護士できるな、あの性格で。
「と、とにかく上がってって。待ってたんだよね? ごめんね。お母さん達ご飯食べに行ってたから私達も食べて来たんだ」
なんでか遅くなって二人で出かけてた、言い訳してるみたいなものの言い方になってる?
鍵を開けて三人で中に入る……たった数日でまたこんな状況になるなんて。あの二年はいったいなんだったんだろう。
「なんか、懐かしいな!」
類はなんでか無邪気だね。
「じゃあ、俺、部屋から取ってくるな」
拓海は急いで階段を上がって行こうとしている。
「あ、うん」
「ごめんね」
拓海が階段を上がって行く。
「類、今まで外で待ってたんだよね?」
「え? ああ、うん。誰もいないなんて珍しいから、そのうち帰って来るだろうと思って待ってたんだけど……」
「暑かったでしょ? 上がってって、冷たい飲み物でも出すよ。ほら!」
「あ、ああ。うん」
数日前の自分では考えられない言動に行動だな。類を気軽に誘ってる。
類と二階に上がりながら、数日前の自分と今の自分の違いに私自身が当惑してた。
「なんか樹里変わったな?」
「そ、そう?」
だよね。自分が一番思ってる。変わったことに気づいてる。
あの時は類を見ただけで泣いてたのに。
ガチャ
拓海の部屋の前を通る時に拓海の部屋のドアが開いた。
「おお! 上がってもらったの?」
ちょっと不満げにそういう拓海。
「あ、うん」
自分は上がらせろって類に言ってた拓海が言う言葉?
「あ、はい。これ」
拓海は持っていた物を類に渡す。
「なに?」
なんだろう? 拓海が類に渡した物を見る。
「あ」
「ありがとう」
「類それって……」
「俺のへその緒」
それは宅配では確かに送りづらいな。でも、拓海の部屋にそのままってのもどうなの母!
「あ、類コーヒー好きだったよね? 今、淹れるから、飲んでっ行って」
へその緒の話題には触れづらい……類の母親に話がつながっていくから。
久しぶりにコーヒーを淹れる。類が淹れてるのを見て見よう見まねで淹れるようになった。類に少しでも喜んでもらいたくて、そして近づきたくて。子どもだったな……私。濃いめにしてアイスにする。
「紫苑さんに連絡もらって宅急便でもって言ったんだけどね。暇な時にでも取りに来てって言われて。それで思い出したんだ荷造りの時にどこにしまっていいか悩んで後回しにしてたこと。ないならないで困らないから忘れて来たことにもずっと気づかなかったよ」
「そうだよね。使うものじゃないし」
「俺のなんてどこにあるんだかわからないよ」
拓海が言う通り私のへその緒なんてどこにあるんだろう? そもそも見たこともない気がする。
「あ、私もあるのかな?」
と、拓海の話題に乗ったけどこの話題……していいのか? この二人としていいのかな?
そんなこんなでコーヒーが出来た。
「はい。類、コーヒー」
「ありがとう」
昔はよくこうして一緒に飲んだ。私はコーヒーが苦手なままだった、なのに牛乳いっぱいいれて、カフェオレ状態にして飲んでいた。類と同じになりたくって……もうそこで足掻いてる時点で子ども丸出しだよね。
「拓海は?」
「あー、俺は半分牛乳入れて! あと砂糖も!」
ふふ、拓海は私と同じ。
「うん」
拓海と私はカフェオレ状態で三人でこうしてキッチンでコーヒーを飲んでいる……変なの。類は時折へその緒の箱を眺めてる。思い出してるんだろうか……お母さんのこと。類はお母さんに会いに行ったりはしてないのかな。また聞くに聞けない私がいる。
「ごちそうさま! 樹里のコーヒー美味しいね。相変わらず。じゃあ、もう遅いし行くね」
ひと時の沈黙を破って類が言う。
「うん。ごめんね。母さんが取りにくるように言ったのに。留守で」
休みのこの時間を狙ってきたんだったら、類はわざわざ母と父に会える時間を選んだんだろうに。
「ううん。お礼言っといて。じゃあ、樹里、元気でな」
「うん」
あれ? 類、今度は言わないの? 「またな」は?
「バイバイ」
「おやすみなさい」
*
玄関を閉めて考えてた。類、いつお母さんからへその緒の連絡もらってたんだろう? 拓海がここに来た時に見つけたんだよね。なら、あの時類の家を私が尋ねた時にはもうここに取りに来ること知ってたよね? だから、またな、だったの? 今度はバイバイだった。もうまたなはないから……。か……。
「樹里!」
「え?」
拓海の声に不振り返ると腕を取られ、二階へ上がってく。
「な? なに? 拓海?」
私の部屋の前まで来ると
「入っていいか?」
「え? あ、うん」
ガチャ
拓海が私の部屋のドアを開ける。あ、忘れてた。服が何着か出しっぱなしだった。焼肉屋行くのにまた服をどうするかで悩んでたから。
「あ、ちょっと片付けるね」
さっと拓海の腕から逃れて服をなおす。ああ、もう、また悩んでたのバレバレじゃない。
って! 拓海が私のベットに腰掛けてる。しかたない私も横に並ぶ。
「なあ、あいつと二人で何話してたの? 俺が部屋に取りに言ってる間に」
「え? んーっと」
何だったけ?
「あ、ああ。私が変わったとかなんとか」
うう。それは単に私が好きな人が変わったからなんだけど。それが拓海だとは言えないよ。
「ふーん」
「変わってた?」
ああ、バカ! なに本人に聞いてるの私!
「そういや、なんか……親しげだった」
「そりゃあ。類とは一年以上も一緒に居たんだし、親しげに決まってるでしょ?」
ああ、拓海ともそうなるのかな……いや、その前に拓海は出て行くのかな…。
「そうか」
「うん」
「あのさ、樹里、俺……」
と、そこで玄関のドアの鍵の音がする。
「あ、ヤバイね、ここに今の時間にいるのはさすがに……」
と言って、拓海が部屋を出て行った。何の話だったんだろう?
なんだか、父も母も久しぶりの二人きりだったからか二人で酔っ払ってたんで、コーヒーの匂いを嗅ぎつけてコーヒー淹れろとうるさかった。まあ、ついでだから淹れてあげよう。全くラブラブして娘の前でもどうかと思うのに拓海の前ってどうなのよ! 二重の意味でね。
類が来たことやへその緒の話をしたら
「それでコーヒーね」
となんだか母が意味ありげな顔をするんだけど……気のせい?
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