百八十紐

水辺無音

プロローグ

夢を見た。

暗闇に古代の和装をした少年が一人きりでいる。

来る日も来る日も、球体に映された外界の様子を楽しそうに見るばかり。

でもたまに、諦めたように寂しそうなふりをする。

君は誰……?

何を願うの?

正体も分からぬまま全ては暗闇に紛れてしまった。

次いで別の夢が始まる。

夢というより思い出に近いかな。

あまり思い出したくない古傷のような過去。

あの日の中学校の教室だ。

僕は喜び勇み、理由も分からず身に付いた超常の移動能力をクラスメイトに初披露した。

皆喜ぶと思っていた。

でも、周囲に生まれたのは負の感情。

男子も女子も怯えと敵意と拒絶とを向けてきた。

「やべえよ、こいつ!」

「来ないでよ!……来ないでよ!?」

両親にサトされた。

超常の力は二度と使わないようにと。

以後、化け物としてぼっちのまま中学を卒業する。

しかし、人の噂も七十五日。

高校は少し離れた所で心機一転、化け物とも超常とも縁のない平和な日常ライフを再スタートさせた。

高校一年、秋。

あの秘密を知らない新しい友人もできて、順風満帆な生活を送っている。

今の悩みはやたら難しい高校の授業と、せつかく共学なのに浮いた話が一つも現れないことくらいかな。

……でも本当はね。

超常の移動能力を使って、漫画みたいなドキドキワクワクの大冒険が始まったりしないかな、なんて心の奥ではずっと期待してたんだ。

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