Bound for Last Terminal

穂月 遊

序章



それは本当に偶然の出来事だった。


大規模なサイバーテロをきっかけに勃発ぼっぱつした第三次世界大戦の最中、自国領を哨戒しょうかい中の戦闘機が、それを捉えた。当初、他国の計略やら合成だと言われていたそれは、次第に世界各国で目撃されるようになり、ついには攻撃を仕掛けてくるようになった。


姿かたちは俗に言う『UFO』に近く、しかしそれは母船にあたる巨大構造物のみ。その母船から出てくる飛行体は、地球上の戦闘機に近い形状をしていた。


正体不明の存在を表す“Unknownアンノーン”という言葉が、そのままそれに当てられ、多くの機関が解析するも、結局正体は掴めないままでいた。

世界中で広がる被害を重くみた各国政府は、一時停戦。情報交換をおこない、“Unknown”からの襲撃を迎え撃つべく、多くの兵力を前線に投入するも、予測不能な出現を繰り返す敵の前に、作戦は毎回失敗に終わっていた。




それはこの10年、ずっと続いている。

世界人口は激減し、人々は“今”を生きることさえ困難な事態にまで陥っていた。




* * * *




声が、聴こえる。

悲鳴も、歓喜の声も、すべてが入り混じっている。


その声に圧倒され、私はいつも目を覚ます。

頭が痛い…。

ただの夢にしては、妙な現実感があって、起きるたびに動悸どうきが治まらない。

落ち着いた頃には眠気がやってきて、また同じような夢をみる。その繰り返し…。


「大丈夫か?」


声をかけてきたのは私の主人。息子が生まれてすぐに体調を崩した私を、いつも心配そうに見守ってくれている、とても大切な人。

持病の頭痛と説明したけれど、きっとそれが嘘なのはもうバレている。それでも私を問い詰めてこないのは、私の気持ちを理解してくれているから。勝手だけど、そう思っていた。

そう思うことが、私がこの人の妻である以上に、母なのだと強く背中を押された気がしたから。


「うん、大丈夫。あの子は?」

「ぐっすり眠っている」

「そう…。ふふ、どんな子になるだろうね」

「さぁな」


言葉は少なくとも、表情が伝えてくる。きっと強い子になる、って。

私はそれを見ただけで安心して、一度起こした体をまた横にする。変わらず眠気はすぐにやってきた。




目を閉じる寸前に見えた彼の表情は、さっきまでと違って大きく歪んでいた。







序章  (完)

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