第81話シャルルの兄の死
テオドシウス帝の言葉は、シャルルにとっては本当に想定外だった。
何も事前に聞かされていない。
慌ててハルドゥーンやヨロゴスの顔を見るが、二人とも反応がない。
メリエムやソフィアの顔は、うれしそうな顔になっている。
式典では様々なアトラクションが演じられた。
ギリシア悲劇、ローマ建国以来の歴史劇、数々の民族舞踊・・・
豪勢な料理を前に、何時間も繰り広げられ、全市民が熱狂したのである。
シャルルは途中から疲れ、体調も眩暈を感じるほど悪くなったが、必死に耐えた。
何より皇帝テオドシウスの隣の席であり、数多の式典参加者の視線が集中している。
「ここで、テオドシウス様に恥や心配をかけさせてはならない」
その思いだけが、シャルルの身体を支えていた。
式典も盛会裏に終了し、シャルルはテオドシウス帝により、宮殿に招かれた。
もちろん、ハルドゥーン、ヨロゴス、宮廷官僚のトップたちも同席となる。
ただ、秘密裡の内部会議ということで、メリエム、ソフィア、バラクまで別室に待機となった。
まずテオドシウス帝が会議の口火を切った。
「先ほどの式典でも、シャルル君を余の第一補佐とするのは、ここに集まる諸君の総意なんだ、シャルル君には突然のことであったが・・・」
テオドシウス帝は、にっこりと笑っている。
また、ハルドゥーンもうれしそうである。
「確かに、市民の人気が高いシャルル様を第一補佐にすれば、政権も安定します、城壁の完成に加え、シャルル様が政権に加わるとならば、市民の喜びは数倍にも増します」
ヨロゴスは冷静ながら、言葉を続けた。
「確かに、哲学を基本とする私から見ても、シャルル君の本質は、頑迷なキリスト教のそれではない」
「むしろ、臨機応変な政治家に近い、それも、市民の幸福を実現することができる政治家です」
ヨロゴス自身が、シャルルから家庭の幸福を取り戻してもらうなど、恩恵に授かっている。
失脚した前法務長官トリボニアヌスに代わり宮廷官僚のトップとなったマルクスも続いた。
「とにかく、世情に詳しい、分析力もある、それでいて、市民からの支持率も高い」
「今後、ビザンティンの都にとって、欠かせないお方と思います」
本当に真意がこもった賛辞が続いた。
しかし、そのシャルルの顔が、浮かない。
何か、厳しく考えている。
そして、しばらくの沈黙の後、ようやく声を出す。
「本当にテオドシウス帝をはじめとして、ハルドゥーン様、ヨロゴス様、マルクス様のご厚意、そして市民の皆様の御心、本当に重いものがあるのですが・・・」
そのシャルルの声そのものが重い。
テオドシスス帝他、全員が再び押し黙ってしまった。
「何か・・・事情でも」
この中で、一番シャルルと付き合いが長いハルドゥーンが尋ねた。
そのハルドゥーンの真面目な目を見て、シャルルが事情を告げた。
「実は・・・本当に申し訳ないのですが・・・」
シャルルの顔が赤くなった。
両目に涙が浮かんでいる。
「先月、実の兄が亡くなったのです」
「3日前に、父からの手紙でそれを知りました」
「私の実家の跡継ぎはお前だとの、言葉が付け加えられて・・・」
シャルルの顔は、本当に深刻である。
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