第58話海賊対策

ペトルス、ハルドゥーンに加えてヨロゴスまで、シャルルを取り囲んだ。

何しろ、シャルルの意図が読めない。


「シャルル君、どう考えている?」

ヨロゴスのシャルルへの態度も少し変わっている。

少なくとも自説を主張するだけの以前とは異なる。

まずはシャルルの見解をしっかりと把握したいようだ。


シャルルもヨロゴスには、敬意を持っているので、少し頭を下げる。

「双方にとって、善かれという交渉を行います」

「そこでですが、ヨロゴス先生」

シャルルは、ヨロゴスに再び頭を下げた。


またしてもヨロゴスはシャルルの考えが読めない。

「双方にとって善かれという交渉」その言葉が、頭の中を駆け巡る中、シャルルの次の言葉は、


「ヨロゴス先生、交渉の正確な議事録を作成してもらいたいのですが」

そこで、ようやくヨロゴスもシャルルの意図が少し理解できた。

即座に頷いている。


「武器を相手に見せつけるように威嚇しておいて、一定の身の危険を感じさせる」

「その上での交渉なのか」

「確かに議事録の正確な作成については、ヨロゴスなら適任」

「いわゆる交渉事になれば、アテネ人の議論は強いしな」

「ヨロゴスが議事に介入して来れば、海賊程度なら歯が立たない」

隣で聞いていたハルドゥーン、ペトルスも理解している。


「それで、こちらの希望は?」

ヨロゴスがシャルルに尋ねる。


「もちろん、安全航行が第一です」

「ただ、それだけでは、海賊にはメリットがない」

「対立するだけの議論は逆に危険を招く」

シャルルはここで、ハルドゥーンに向き直った。


「ハルドゥーン様、大きな旗に交渉の用意ありと書いて、何枚も船の全方面に掲げて欲しいという事と」

「矢文を取り囲む船に打ってください」

「安全を確保し、謝礼付きの、交渉を行うので、代表者を何名か乗船希望と」

「船も大量ですので、船同士で、しっかり連絡網を作ってほしいですね」

「出来れば、すぐに作業に取り掛かっていただきたい」


珍しくテキパキとしたシャルルの指示であり、早速作業が実施された。


シャルルは、次にペトルスに頼み事である。

少し恥ずかしそうに笑っている。

「あの、ペトルス様、船乗りの歌を乗船客に教えてほしいのですが」


ペトルスは、最初、またしても、意図がわからなかった。

しかし、すぐに気づいた。


「ふ・・・そうか、海の上では、同じ立場か」

「どこかに、心が通じるものがあるはず」

「そこで船乗りの歌か、そうなると船乗りの魂に響く歌がいいなあ」

「面白い!」


さっそく甲板に乗船客が集められた。

歌の練習も始まった。


ただ、シャルルは歌わなかった。

「これで、案外、音痴」

「下手に喉を開けさせて、風邪ひかれたら面倒なんてもんじゃない」

メリエムの強烈な主張により、聞いているだけを余儀なくされたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る