第35話暗殺者への対処とメリエムの涙
シャルルとハルドゥーンの一行は、無事にサレルノの街に到着した。
心配した街道筋での暗殺者の襲撃はなかった。
しかし、いつ何時どんな襲撃をうけるのかわからない。
正当な軍事訓練を受けた軍人、軍隊であっても、いわゆる暗殺者からの襲撃に完全に対処することは難しい。
戦場で相手がどこにいるかわかる状態では、戦略も立てやすい。
しかし、暗殺者は、どこに潜んでいるかわからない、それに対処するには四六時中周囲を見張らなければならない。
そのため、ハルドゥーンの軍隊といえども、緊張感の中でのサレルノ滞在となる。
一方、シャルルの評判は、小都市サレルノにおいても、十分伝わっているらしい。
サレルノに入るなり、街の有力者や聖職者の出迎えを受ける。
シャルルには暗殺者への対処やそんな用心の気持ちは何もない。
丁寧にも、一人ひとり握手や抱き合うなど挨拶を繰り返す。
「危ないなあ・・・あの中の一人でも懐に剣を忍ばせていれば、ひとたまりもない」
メリエムは、本当に不安を覚える。
「しかし、シャルル様のお考えもあるし、こうやってなるべく近くで見ているしかない」
ハルドゥーンは不穏な動きがあるかと、目を凝らして見ている。
「暗殺者だって、薬売りだけとは限らないんでしょ?」
メリエムは、ハルドゥーンの目をみた。
「うん・・・そうなると・・・」
「確かに、そうか・・・」
ハルドゥーンは、何かを考え出した。
「蛇の道は蛇・・・」
「こんな目を凝らしていてもキリがない」
「裏には裏だ」
ハルドゥーンの結論は速かった。
即座に部下の数名を、街の博打街と娼婦街、酒場に向かわせた。
「ということは?」
メリエムはハルドゥーンに尋ねた。
「ああ、ああいう歓楽街というか・・・シャルル様の知らない世界にはな」
「おそらく裏の仕事を仕切る顔役がいる」
「それに金を包ませれば、情報が手に入る」
ハルドゥーンの目が厳しくなった。
「つまり、暗殺者の親玉とか?」
メリエムの顔も厳しい。
「ああ、どうせ表には出られない、金だけで動く連中だ」
「それならば、それ以上の金を包めばいい」
「暗殺者だって危険をおかさず大金が入る」
「阿呆のヴァレンティウスへの対策は・・・アッティラとアエティウスに頼む」
ここでハルドゥーンはニヤリと笑った。
特有の「計略」を思いついたらしい。
「うん、そのハルドゥーンの笑顔は、恐ろしさも感じるなあ」
「いつだって、考えもつかない策を打つし」
メリエムはハルドゥーンの次の言葉を待った。
「何な・・・阿呆にそのお薬を飲んでもらおうとなあ・・・」
「早く、親子連れがここに来ないか、待ち遠しくなってきた」
「呼びに行かせてもいいくらいだ」
ハルドゥーンは、そう言ってククッと笑う。
「そうか・・・金には金・・・毒には毒」
「何もかも阿呆のヴァレンティウスを上回るのか・・・」
メリエムはハルドゥーンの「計略」に舌を巻いた。
そして、ハルドゥーンの顔を見た。
「本当は、私が、剣で刺殺したい」
「それが、あの阿呆に殺された死んだ父さんと母さんの敵討ちだから」
メリエムは涙ぐんだ。
「でも・・・今はシャルルを護りたい」
「私が阿呆のヴァレンティウスを殺したとしても、シャルルも父さんも母さんも喜ばない」
「本当は父さんも母さんも悔しいだろうけど・・・父さんと母さんが今望んでいることは・・・」
「シャルルを護ることと・・・」
「シャルルの子供を・・・」
言い終えてメリエムは真っ赤になった。
ハルドゥーンは深く頷き、メリエムの肩を抱いた。
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