王様と舞踏会
ここ数日、ハールファグルではオーロラが夜闇を明るく照らしている。雪降る空を見あげ、人々はそのオーロラを嬉々として見つめるのだ。
それは若き王を称える神々からの贈り物だと人々は言う。今宵はその王の花嫁を決める舞踏会が開かれるのだ。
「帽子王様、是非とも私と踊ってください」
「いやよ、陛下は私と踊るのっ!」
「あの……手を離していただけませんか?」
香水のきつい香りに鼻がおかしくなりそうだ。そう思いながらカットは自分を取り巻く女性たちを見つめた。彼女たちはカットの手をしっかりと握りしめ、離してくれない。
煌びやかなドレスを身に纏った女性たちは、輝く眼でカットを見つめている。
カットは苦笑を浮かべる。彼女たちは黄色い声を発し、ますますカットにつめよってきた。
「いつ見ても素敵ですわぁ、その笑顔! やっぱりその麗しい美貌に、その爽やかな笑顔は欠かせませんっ」
「あぁ、素敵ですわぁ、陛下……」
彼女たちはうっとりと眼を細め、カットを見つめてくるではないか。
彼女たちも苦労しているとカットは思った。今日は自分の花嫁を決める舞踏会だ。自分の親類でもある彼女たちは、狡猾な叔父たちに自分と仲を深めるよう言い包められているのだろう。
そうでなければ、帽子で耳を隠すような自分がこんなに好かれるはずがない。
「申し訳ございませんが、その手をお放し願いますか? 陛下が困っております」
凛とした声が女性たちの後ろから聞こえてくる。声を聞いたカットは、帽子に隠れた猫耳をビンと立ちあげていた。
「あの、これは……」
「私たちの邪魔を――」
「申し訳ございません。失礼いたします」
声のしたほうへと女性たちは体を向ける。そんな女性たちの言葉を、フィナはやんわりと遮り、顔に微笑みを浮かべてみせた。
「フィナ……」
いつもと同じ紺色の軍服に身を包んだフィナは、眼を細めカットに微笑んでくる。その微笑みを見て、カットは身を固くしていた。
自分の決意を告げてから、フィナとはあまり口を聞いてない。どこか気まずくて、彼女と会話をすることが憚られたのだ。
彼女もカットと同じ思いなのだろう。思い切ってフィナに話しかけようとしても、彼女は会話をすぐにやめてしまう。
そんなフィナが、自分に微笑んでくれていることが信じられなかった。
颯爽と女性たちの横を通り過ぎ、フィナは優美な所作でカットの手から女性たちの手を離していく。
「申し訳ございません。陛下は先王様とお話があるようですので」
女性たちに優しい微笑みを送りながら、フィナはホールの上段に設けられたテラスへと顔を向けた。
カットはテラスへと顔を向ける。白いマントを纏ったティーゲルが、楽しげに笑いながら手を振っているではないか。
驚いてフィナへと視線を戻すと、彼女はカットに悪戯めいた笑みを浮かべてみせた。唖然とする女性たちに向き直り、フィナは優美にお辞儀をする。
「もしよろしかったら陛下の護衛たるこのフィナ・ムスティ・ガンプンがダンスのお相手をさせていただきます。こんなに愛らしいレディたちを、壁の花には決してさせませんよ」
そっと顔をあげ、フィナは爽やかな笑みを女性たちに向けてみせた。彼女たちはいっせいに顔を赤らめ、黄色い声を発する。
「きゃー、フィナ様っ!」
「フィナお姉さまっ!!」
先ほどまでカットに夢中だった彼女たちは、すっかりフィナの虜だ。自分につめめかけてくる女性たちに笑みを浮かべながら、フィナは小さく声を発する。
「この場は私にお任せを……。もう、大丈夫ですから」
カットは思わず彼女に振り返る。フィナはカットに振り返り、赤い眼に微笑を浮かべてみせる。
困ったような、それでいて悲しい彼女の眼からカットは眼が離せなかった。
煌びやかに着飾った女性たちが、次々とホールに入ってくる。ジャンデリアの灯りが眩しいテラスから、カットはその様子を眺めていた。
緊張を解くために息を大きく吐き、カットはホールを一望する。よく見ると、自分の護衛を務める2人がうら若き女性たちに囲まれているではないか。
壁際に立ちオロオロとしているフィナを庇うように、レヴが女性たちの前に立ちふさがっている。
先ほどまでの出来事を思い出し、カットは苦笑を顔に滲ませていた。
カットを取り囲んできた女性たちをフィナがたしなめたところ、女性たちはフィナの虜になってしまったのだ。
フィナの取り計らいによりカットはその場を逃げることができた。だが、フィナは女性たちに取り囲まれてしまった。そのフィナを助けるべくフォローに入ったレヴは、どうも苦戦しているらしい。
フィナと手を組んで自分を逃がしてくれたティーゲルは、叔父たちと話があるからとカットの元を後にしてしまった。
「フィナ様素敵すぎます!」
「お姉さま! 麗しい! 麗しいですわ!」
「フィナお姉さま、帽子王の護衛などやめて私と結婚して下さいっ!」
テラスの下から聞こえてくる女性たちの大声で、カットは我に返る。階下を見ると、彼女たちは立ち塞がるレヴを押しのけフィナに迫ろうとしている。
フィナが女性にここまでモテるとは思わなかった。苦笑を浮かべながら、カットはそっと2人に手を振ってみる。気がついたのかフィナが顔をあげ、困ったような笑顔をカットに向けてきた。
そんな彼女を見て、カットは安堵に顔を綻ばせる。
フィナが思ったより元気で良かった。
本当だったら、彼女は自分の婚約者としてこの場にいるはずだった。美しく着飾ったフィナと一緒に踊ることが出来たらどんなにいいだろうか。
けれど今は、彼女と踊ることはできない。
その前に、やらなければならないことがある。
「あー、フィナちゃんこっちっ!」
「あ、待ちなさいこの赤毛野郎っ!」
「フィナ様を返してっ!」
レヴがフィナの手を引いて、取り巻きの女性たちから逃れようとする。 彼女たちは、そんな2人を追いかけ始めたではないか。
「まったく……」
羽織っていたマントを翻して、カットはホールへと続く階段を下りる。
女性たちが自分に声をかけてくるが、笑みを浮かべてやりすごす。すると彼女たちは顔を林檎のように赤らめ、その場に立ちつくすのだ。
そんな女性たちを尻目に、カットは逃げるレヴとフィナの前に颯爽と立ち塞がった。
「陛下……」
「よくやった。レヴ……」
立ちどまったレヴの手を引き、カットは彼に囁きかける。さあっとレヴの耳たぶが赤く染まる。
「カット……」
「おいで、フィナ」
レヴに手を引かれていたフィナを抱き寄せ、カットは不敵に微笑んでみせた。
「ちょ、カットじゃなくて、へ、陛下っ?」
「フィナは黙ってて……」
ふっとフィナの耳元に息を吹きかけ、カットは彼女の顎を掬ってみせる。フィナは恥ずかしそうに眼を潤ませ、カットから視線を逸らした。
「あ、あの陛下……」
「その……私たち」
2人を追いかけていた女性たちが、気まずそうにカットに声をかけてくる。カットは眼を鋭く細め、彼女たちを見すえた。
怯えた様子で、彼女たちは黙ってしまう。
「俺の護衛が迷惑をかけたようだね。でも、素敵なレディたちがパーティー会場を走り回るなんて少しお転婆かな? 俺は、君たちのそんなところも魅力的だと思うけど……」
顔を綻ばせ、カットは彼女たちに優しく声をかけてみせる。彼女たちは驚いたように眼を見開き、頬を赤く染めていた。
「あと、フィナは俺にとって大切な人なんだ。だから、君たちには渡せない」
腕の中のフィナを抱き寄せ、カットは笑みを深めてみせる。
「カ……カット……。その……迷惑です。こんなの……」
消え入りそうなフィナの声がして、カットは彼女の顔を見おろしていた。頬をす赤く染めたフィナが、困った様子でカットを見あげている。
「ほら、フィナも嫌がってるじゃない。だから、ね……」
「す、すみませんでしたー!!」
カットは女性たちに問いかける。彼女たちは顔を真っ赤にして、走り去っていった。
「あれ、俺……。なんか、嫌われるようなことした?」
「陛下……」
ぽんっと後ろにいるレヴに肩を叩かれ、カットは彼へと振り向く。顔に手をあて自分から視線を逸らすレヴを見て、カットは口を開いていた。
「どうした、レヴ? 何だか具合悪そうだけど……」
「フィナちゃんに迷惑をかけてるのは、あなたですよ……」
「えっ?」
「その……放してください。周りの眼が……」
フィナの言葉を受け、カットはとっさに周囲を見渡す。
周囲にいる人々の視線が、一様にこちらを向いているではないか。彼らは意味深な笑みを一様に浮かべながら、フィナとカットを見つめている。
特に父であるティーゲルは、期待にみちた眼差してカットを見つめているではないか。
あぁ、そうだったとカットは父との約束を思い出していた。その約束を実践すべくカットは息を大きく吸い込む。
「みなさんにお話がありますっ!」
フィナを抱いたまま、カットは大きな声を周囲に発する。客たちは騒めき、声を発したカットに注目した。
カットはティーゲルに視線を向けていた。父はぐっと親指を突き立てカットを応援してくれる。そんなティーゲルが何だかおかしくて、カットは苦笑を浮かべていた。
「俺は、この胸に抱きしめている女性フィナ・ムスティー・ガンプンを心より愛していますっ! そしてハールファグル国王の座を辞し、父ティーゲルに王位を返上する意思をお伝えいたしますっ!」
凛とした声をカットは発する。周囲の奇異に満ちた騒めきが、一瞬にして驚く声に早変わりする。
「カット……?」
フィナの声が聞こえる。腕の中の彼女は、眼を見開き自分を凝視していた。
「俺は、この胸に抱きしめている女性フィナ・ムスティー・ガンプンを心より愛していますっ! そして、ハールファグル国王の座を辞し、父ティーゲルに王位を返上する意思をお伝えいたします。」
カットの言葉に、フィナは耳を疑っていた。
「カット……」
彼に声をかける。
カットはフィナに振り向いてくれる。悲しげなアイスブルーの眼でフィナを見つめ、カットは言葉を続けた。
「俺は王に相応しい人間ではありません。それは、この耳が証明してくれます」
凛とした声を張り上げ、カットが自分の頭に手をのばす。一瞬だけその手をためらうようにとめ、彼は被っていた帽子を脱ぎ捨てた。
ふわりと帽子に隠れていた銀灰色の猫耳が露になる。
その猫耳に、会場にいる誰もが釘付けとなった。ざわめきがホールを埋め尽くす。
カットは怯えた様子で猫耳を伏せながらも、言葉を続けた。
「この猫耳をご存知の方も多いいはずだ……。みなさんは公然の秘密として俺が呪われている事実と、それを示す猫耳の存在を隠してくれました。ですが、それは国民に対する裏切りに他ならないっ。だからこそ、俺は父に頼みました。どうか王位を返上することをお許しくださいと。そして将来生まれてくるであろう俺の子供を、王位につけて欲しいと」
すっとカットは言葉を切り、腕の中のフィナを見つめてくる。
「ごめん……フィナ」
そっとフィナの耳元で彼は囁く。驚いたフィナが顔をあげる前に、彼は次の言葉を放っていた。
「王位を父ティーゲルに返上した暁には、俺はこの胸に抱いている愛しい女性と共に人生を歩んでいくつもりです! この言葉に嘘偽りはありませんっ! 俺はここにフィナ・ムスティー・ガンプンを妻として迎えることを宣言いたしますっ!」
自分を妻として迎える。
彼の爆弾発言に、フィナは頭が真っ白になった。
「カット、何言ってるんですか……?」
「俺は心の底からフィナを――」
「カットっ!!」
フィナは腹の底から大声を出していた。フィナの声はホールに響き渡り、天井に吊るされたシャンデリアすらもゆらす。
「どうして私を妻に迎えるなんて勝手な宣言を、みなさんにしてるんですかあなたはっ!!」
がしっとカットの胸倉を掴み、フィナは彼を怒鳴りつけていた。
「フィナ……」
猫耳を震わせ、カットは怯えた様子でフィナを見つめてくるだけだ。
「その……君は俺と結婚したく……」
「結婚しますっ! 猫耳の責任とって今すぐあなたと結婚しますっ!!」
おどおどするカットに、フィナは凛とした声を発してみせる。カットの腕を振りほどき、フィナは唖然とする客たちを見すえた。
彼らに、フィナは優美な仕草でお辞儀をしてみせる。
「私は先々代の王の時代に、近隣諸国の王族を根絶やしにした魔女ムルケの娘フィナでございます。この陛下の猫耳も私が生やしたもの。陛下を愛するあまり、私は彼に忌まわしい呪いを施しました」
そっと顔をあげ、フィナは口元に嫣然とした笑みを浮かべてみせた。客たちが驚きに眼を見開き、フィナを見つめてくる。それでもフィナは言葉を続ける。
「私は陛下を愛しております。そんな陛下に弓を引く者たちが現れました。そんなならず者から私ごときを守るために、陛下は王位を捨てると宣言なさった。でも、そんなの私が許しませんっ! 猫です! 猫さんです!! 今後、陛下を苦しめる者は誰であろうと、この魔女フィナ・ムスティー・ガンプンが呪いによって猫さんにしてあげますっ!!」
びしっと人々に指を突きつけ、フィナは高々と自分の覚悟を宣言する。人々はぎょっと眼を見開き、フィナを凝視するばかりだ。
「あれ……」
気まずい静寂がフィナを取り巻く。
「あははっ。フィナなんだよそれっ」
その静寂を、カットの無邪気な笑い声が打ち破った。
「カット……?」
フィナが背後のカットへと振り向くと、彼はお腹に手を当て笑っているではないか。
「猫にするって……。いくらなんでも、それ……おかしいだろ?」
笑い声を堪えながら、カットはフィナに言葉をかけてくる。彼の言葉にフィナの顔は一瞬にして熱くなっていた。
「いっ、いやーー!!」
急に恥ずかしくなって、フィナは叫び声をあげながら両手で顔を覆う。それと同時に、大きな笑い声がホールから響き渡ってきた。
「猫っ、猫となっ!!」
「これは恐ろしくて戦争などできぬわ!」
「カットも、面白い女性を射止めたものだなぁ!」
客たちの口から、弾んだ言葉が溢れ出てくる。
「いやー。兄上これは上手くいきましたねっ!」
「まったもって、お前たちがカットに出鱈目な軍事同盟の話を持ち掛けてくれたのには驚いたぞっ! 2人をくっつけるためとはいえ、少しやり過ぎではないかなぁ?」
「いやぁ、カットの呪いを逆手にとってフィナ嬢を権力保持の道具に使うアイディアを思いついた兄上には及びませんよっ!! 初恋の少女を救うために尊敬する父に弓を引く若き王!! 最高のシュチュエーションだと思いますよっ!!」
「えっ……?」
盛り上がるティーゲルたちが、とんでもないようなことを言っている気がする。笑い合う彼らの様子が気になり、フィナはそっと顔から手を退けた。
「ちょ、どういうことですか父上っ!」
カットが隣国の王たちと肩を並べるティーゲルに詰め寄っている。
「さぁ、儂らはちょいっと息子の恋を応援しただけだがのぉ。それって悪いことかぁ、カット……?」
「応援って、まさか……」
「そのまさかじゃ息子よー!! 儂を出し抜くには、まだまだ修練がたりんようじゃのぉ!!」
へなへなと猫耳をたらすカットをみながら、どっとティーゲルたちが大声で笑い始める。フィナは唖然とその様子を見つめることしかできなかった。
カットたちのやり取りを聞いている限り、どうやら自分たちはティーゲルの掌の上で踊らされていたらしい。
「老いぼれ共の、最後のわがままじゃ……。年老いた父の頼みを聞いてはくれまいか、息子よ……」
カットにティーゲルが優しく声をかける。弱々しい笑みを向けるティーゲルを見て、カットは微笑んでいた。
「ほんと、あなたには敵いません……」
カットの言葉に、フィナは大きく眼を見開く
「フィナ……」
そっと誰かに肩を抱かれ、フィナは後方へと振り返る。
「父様……」
父であるウルが、フィナに笑顔を向けている。彼は静かにフィナに告げた。
「私の最後のワガママだ。幸せになってくれるか?」
問いかける父の顔はどこか寂しげだ。そんな父を慰めたくて、フィナは彼に笑顔を返していた。そっと彼に向き直り、フィナはウルを抱きしめる。
「フィナ……」
「ありがとう。父様……」
泣きそうになってしまう。父に泣き顔を見られたくなくて、フィナはウルの胸に顔を埋めていた。
「フィナっ」
カットが自分を呼んでくれる。フィナは顔をあげ、ウルを見あげた。
「さようなら、フィナ……」
離れたフィナの頭を、ウルは優しくなでてくる。いつぶりだろうか。彼に、なでてもらったのは。
「行ってきます。父様…… 」
フィナは眼を細め、父に微笑みかけてみせる。そっとフィナは父に背を向け、愛しい男性の元へと歩んでいた。
彼は優しく微笑みながら、フィナへと近づいてくる。
「フィナ……」
そっとフィナに手を差しのべ、カットは口を開いた。
「命令だよ。俺と結婚して」
「だから、それは命令されても……」
身勝手な彼の言葉に、フィナは苦笑してしまう。
「やっぱり、俺と結婚したくない?」
しゅんと猫耳をたらし、カットが悲しげに眼を潤ませる。フィナは言葉を失い、彼から顔を逸らしていた。
「します……」
「フィナ聞こえない……」
「結婚します。あなたと結婚しますよっ!」
「フィナー!!」
フィナはカットを怒鳴りつけていた。そんなフィナにカットが抱きついてくる。
「ちょ、カットっ!」
「ごめん……つい嬉しくて」
カットは照れくさそうに笑いながらフィナを放した。煌めくアイスブルーの眼にフィナを映しこみながら、カットはフィナに手を差し伸べる。
「俺と踊っていただけますか? 愛しい人……」
「へっ……」
「命令だよ、フィナ。俺と踊って」
囁くようにカットが言葉を紡ぐ。彼の顔には優しい笑みが浮かんでいた。
「カット……」
そっと差し伸べられた手をフィナは握りしめる。
大きくてあたたかな彼の手は、触れているだけで心が落ち着く。
次の瞬間、フィナの体が淡い光に包まれた。
「えっ?」
驚く暇もなく、フィナの服装は軍服から雪原を想わせる美しいドレスへと変貌していく。ビーズが星のように煌めくそのドレスは、フィナがレヴから受け取ったヴィッツのドレスだ。
カットを見つめる。
彼は笑みを深めフィナに優しい眼差しを送ってくるだけだ。そんな彼を見て、フィナも自然と微笑んでいた。
そっと2人は手を取り合い、ホールの中央へと進んでいく。そんな2人を祝福するように、小さな旋律が周囲に流れ始めた。
カットとフィナはお互いに向き合い手と手を取り合う。
2人がお互いに近づくと、広間に流れる音楽が大きくなる。
流れるような旋律に身を任せ、カットとフィナは踊る。
2人が回るたびに、フィナのドレスが雪のように美しく煌めくのだ。
カットの猫耳も楽しげにひらひらと動いている。猫耳のように嬉しそうな彼の笑顔を見つめながら、フィナは静かに微笑んでいた。そんなカットの後ろを、横切る赤い猫がいた。
フィナは、猫を視線で追う。
悲しげに眼を伏せ、猫はホールから出ていくではないか。そのあとを、静かにティーゲルがついていく。
「ごめんな……。」
寂しげなカットの声が聞こえ、フィナは彼を見あげる。カットはアイスブルーの眼を悲しげに歪めていた。
「カット」
そんなカットにフィナは声をかける。
「フィナ?」
「笑ってください」
フィナの言葉にカットは驚いた様子で眼を見開く。彼は眼を細め、静かに微笑んでくれた。
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