図書館にて

その表紙には,書名も著者も何も書かれていなかった。今にも崩れてしまいそうな,ずっしりと重い赤い本。


夕暮れがせまる図書館の2階。一番奥の書棚にそれはあった。吸い寄せられるように手に取り,ページをめくる。5ページほど読み進めただろうか。文字がぼやけた気がした。


いや,文字が形を変えていた。1文字1文字が,壊れたデジタル時計のように,パラパラと異形いぎょうの文字に変わっていく。


そして,その異形の文字はいまわっていた。そこに記された無数の文字が,ページの中を,裏を,這いまわる。


あわてて本を閉じ,顔を上げる。頭を振った。周囲には誰もいない。何かの見まちがえでは? 確かめようと手をかける。


見るな…! 見るな……! 見るな!!


だが,その意に反して右手が勝手にページに手をかける。

抵抗できない。

開く。

震える手で。

ゆっくりと。



そしてそこには……!



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