第6話 花
花屋なんて入ったことも無かった。
そもそも興味が無い。
花屋の花には値札が付いている、その路地に咲いている花には誰も見向きもしない。
どうも、その差が解らない。
ミネラルウォーターには高い金を払うが、水道料金の値上げには敏感に反応するような矛盾を感じる。
『水』だろ?
花もそうだ。
足を止めたのは、『花』を見て、自分がナニカ感じるか気になったのだ。
ガラス越しに花屋を覗くと、狭い店内で花を見ている若い女性が一人。
アチラコチラの花を手に取り、笑ったり、香りを嗅いだり、首を傾げたり、じつに表情豊かな女性。
落ち着きがないというか…自身の興味に忠実に動くというか…猫のような女性だ。
顔立ちもどことなく猫っぽく視えてくる。
ガラス越しに、女生と目が合った。
スッと視線を逸らす。
ガラスの向こうの女性は、トコトコとガラスに近づいて、その向こうから、両手に握った花をグイッと突き出し
「どっちが好きですか?」
と聞いてきた。
「えっ?」
「だから、どっちの花が好きですか?」
「いや…どちらもべつに…」
「はぁ~」
と深いため息をつき女性は、奥からバケツに一杯の花を持ってきた。
何をするんだろうと、突っ立っていると女性は店の外に出てきてバケツをコトンとアスファルトに置いた。
「この花、捨てちゃうんです」
「あぁ…そうなんですか」
そういえば、どことなく花は元気に咲いているとはいえない程度に萎れている。
「だから、差し上げてるんです」
「お店の人だったんですか?」
「いいえ…通りすがりの人です」
「はっ?」
「いえ…捨てるなら貰って行こうと見てたんですけど、アナタも花を見ていたようなので…差し上げようと思って」
「あぁ…そうですか…じゃあ1本頂きます」
なんとなく勢いで、興味もないのに花を受け取った。
「でも…家まで持つかな?」
彼女が萎れかけの花を握ったまま悲しげな表情をみせる。
(貸してごらん)
言いかけたのだが…やめた。
「ありがとう…大切にするよ」
「うん」
ニコッと笑う彼女に僕の中にあるナニカがドコカで、トクンと音を立てた。
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