第26話ビーストハンター 第3話 「帰らざる波止場 」(5)
「こんな人通りの多い所で殺しゃぁしねえよ」男は笑いながらそう言った。
男がスーツの内ポケットから取り出したのは、拳銃ではなく大きな茶封筒だった。
「居場所をダダで教えろとは言わねぇ…ちゃんと礼は出すぜ」
男は茶封筒を開けて中身を栄達に見せた…中には数百万の現金が入っていた。
ゴクリッ!と栄達は唾を飲み込んだ…(これだけの大金があれば、妹の目の手術をしてやれる)
だが、喋れば恩を受けた建勝を裏切る事になる…彼の心は揺れ動いた。
「どうだ…喋る気になったか?」男がそう聞いてきた。
「俺のアパートにいるはずだ。でも今夜『永泰号』に乗るって言ってたから、もういないかも知れない」
「嘘じゃねぇだろうな?」もう一人の男が栄達を疑うように聞いてきた。
「嘘じゃねぇよ」栄達はそう言って男たちにアパートの住所を教えた。
「分かった。お前の言う事を信用しよう…まぁ、夜道にはせいぜい気を付けるこったな」
男たちは現金の入った茶封筒を栄達に渡すと、止めてあった車に乗って走り去っていった。
(裏切った。兄貴を裏切ってしまった…でも妹のために仕方なかったんだ)
彼は、ジャーダンの殺し屋から受け取った茶封筒を握り締めたまま心の中で自分を責めた。
中華料理店のバイトを終えた栄達はアパートの近くまで帰って来たが、部屋に入る勇気が湧かなかった。
恩人である建勝を裏切った後ろめたさと、アパートで起きたに違いない恐ろしい出来事を思うと、とても部屋に帰る気にはなれなかった。
雨上がりの公園のベンチに腰を下ろした栄達は悶々としていた…そこへふらっと一人の男が近づいてきた。
「陳栄達さんかね?」男はそう彼に尋ねてきた。
(あいつら金を取り返しにきたのか?)
男を見た途端に栄達は『夜道には気を付けろ』と言っていた殺し屋の言葉を思い出した。
「ちょっと聞きたい事があるんだが」ツクモはベンチに座っている栄達に言った。
(殺されるっ!)ツクモをジャーダンの殺し屋だと勘違いした栄達は慌てて逃げ出そうとした。
「ちよっと待ってくれよ」ツクモはとっさに栄達の腕を掴んだ。
「俺は関係ないっ!」栄達は掴まれた腕を振りほどこうとしたが、泥濘に足を取られて転んでしまった。
(しまった!)そう思った栄達はツクモの前に膝まづいて哀願した。
「なぁ、見逃してくれよ~…故郷で待っている妹の目の手術をするための大事な金なんだ」
そう言いながら栄達は上着の懐に手を入れた。
「金?…何の事だ?俺はただ」
そう言ったツクモが気付いた時には、すでに栄達の手にグロッグの小型拳銃が握られていた。
「ズド~ン!」と銃声が鳴り響いた。
~続く~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます