第20話ビーストハンター 第2話 「東京租界に死す」(9)

 そんなある日の事、事務所の受付でヒナを相手に遊んでいるウィルを見ながら沙羅が言った。

「ねぇ、ウィルちゃんはもう小学校にいく年齢じゃないかしら?」

「そう言えば、そんな気もするなぁ」ジョーは漫然と答えた。

 ウィルは、栄養不足と教育を受けていないせいで随分幼く見える。

 けれども、子供を育てる女の目から見ると素振りだけで本当の年齢が分かるのだろう。

「だとしたらいかせてやらなきゃならないわよね…小学校」

「けど、難民の子だぜ…戸籍なんかないよ」

「私が外住局(外国人居住許可局)に申請してみるわ」

「どれくらい掛かる?」

「さぁ…早くて二年って所かしら」

「二年って…そんなに?」

「二年ならまだましな方よ…昔はもっと早かったんだけど今は外住局が渋るのよ」

「そうだなぁ…日本も自国の事で手一杯だし、外国人が起す犯罪も多いからな~」

「それまで私が少しづつ勉強を教えるわ…まずは日本語からね」

「あぁ、まったく喋れないものな…日本語」


 ジョーと沙羅がそんな話をしているところへ、ツクモが出先から帰ってきて言った。

「おいっ!ジャーダン(蛇党)に動きがあったらしいぞ!」

「ジャーダンって…あの中国マフィアの疑いが掛かっているジャーダンかい?」ジョーは言った。

「おぅさ、表向きはカジノを経営してるグループだがな…裏じゃ振り込め詐欺からヤクの密売までやってる組織らしい」

「噂は聞いた事があるわ…でも、何も証拠がないんでしょ」沙羅もそう尋ねた。

「なかなか尻尾を掴ませなくって警察も苦労してたんだがな…どうも組織内部からタレコミがあったそうだ」

「ほぅ、チクったヤツがねぇ…危ない橋を渡ったもんだな。組織に追われて自分の命も危うくなるだろうに」

「よっぽどせっぱ詰まった事情があったのかも知れないわね」

「人身売買がらみだそうだ…警視庁が大手警備会社二社と連携して人身売買組織のガサ(捜査)に入るらしい」

「先手を打とうって言う訳か?…それでタレコミしたヤツはどうなった?」

「そいつは商品の女と逃げたらしいが、ジャーダンの連中が血まなこになって追ってるってぇ噂だ」

「そうか…まだ組織に捕まってないのか」

「警察の捜査が組織の上層部までいって、ジャーダンの構成員がビーストに指定されたら大掛かりな狩りになるぞ」

「そうね。他の警備会社も総力を挙げて乗り出してくるでしょうね」

「こりゃぁ、ものすごい競争になるぞ!…大物を仕留めた所が勝ちだな」

「で…ボスの居所は分かっているのかい?とっつあん」

「それが、吉野の野郎にカマ掛けたんだがな…どうも警察の方でも行方が分からないらしい」

「それで他のヤツらに先んじて、ボスの居所を突き止めようって腹か?」

「そうだよ…先にめっけた方が勝ちだからな」

「ちょっと待って…行方の分からないボスを探すより、ジャーダンが追ってる密告人を探す方が早いんじゃないかしら」

「社長にそう言われりゃそうだ…ジャーダンのヤツらのケツに付いて回る方が近道かもな」

「そしたら、おのずと芋蔓式にボスの居場所も割れるかもよ」

「よ~しっ!善は急げだ…他の警備会社に先を越される前に密告したヤツの居所を突き止めよう」

「そうね。全員に召集を掛けるわ」

「あぁ、そうしてくれ社長…久し振りに腕が鳴る」


~続く~

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