第28話 夜明けのシマパンダー(2)

 金王八幡宮の階段に辿り着いてから、能代はシマパンダーを座らせる。

 十五分ほど転た寝をして、少し眠気が晴れた頃合いで、黒鉄能代は重要な決断を告げる。


「能代が、シマパンダー三号になる。シマパンダーだけの、新しい民間戦隊を作ろう」


 シマパンダーは、階段から青い空をぼうっと眺めながら視線を渋谷の街並みへ、最後に能代に視線を固定する。


「二号がアレなのにでありますか?」

「他にシマパンダーを名乗りたいという、奇特な人材でもいるの?」


 シマパンダーは、此の三ヶ月で知り合った全ての業界人との関係を省みる。

 数多くのディープな変人が集う業界ではあるが、シマパン力で変身しても構わないと言える人材は、自分も含めて三人しか該当しない。


「確かに、三人だけでありますな」

「三人いれば、民間戦隊の登録が出来る。岸司令も、登録を手伝ってくれるさ」

「ヨコシマ戦隊シマパンダー、でありますな」


 誰も感心しない、致命的なまでにダサい、戦隊名だった。

 気まずい沈黙の後、能代は自分のスカートをチラっとめくって見せる。

 白と黒のシマパンである。


「いや、能代のシマパンは、縦シマだから」

「ならばヨコシマ戦隊は、却下でありますな」


 受けなかった戦隊名には執着せず、シマパンダーは戦隊名を考え続ける。


「魔性戦隊で、どうだろう?」


 能代の提案を、シマパンダーは考慮する。


「自分は魔性という程には…たわわではありますが…」

「充分に魔性だよ。黒髪ロングGカップが魔性でなかったら、日本に魔性は存在しないね」

「う〜ん」


 二人でのんびりと神社の階段に座り込んで戦隊名を考えていると、十三夜更紗が私服(白のチューブトップ&黒のエスカルゴスカート)で隣に座り込んだ。

 ドーナッツとスペシャルティーコーヒーを差し入れると、戦隊名の考案に加わろうとする。

 シマパンダーが、やんわりと、お断りをしてみる。


「更紗さんは、本業に専念した方が、天下万民の為だと思うであります」

「更紗の本業は、シマパンダーを不審人物で変態で反社会的なバカヤローだと全国ネットで偏向報道する事だけど?」


 シマパンダーは、此の無表情毒電波女の首をへし折る為にドーナッツを投げ捨てるかどうか五秒思案し、愛と平和と食欲を選んだ。

 人、それを妥協と云う。


 のんびりと三人で新しい戦隊名を考えていると、母親同伴でバス停へ向かう幼稚園児たちが、シマパンダーを指差して無邪気に笑って通り過ぎる。


「まぬけの人だ〜」

「まぬけの戦士だ〜」

「まぬけシマパンの人だ〜」


 母親が子供達を抱き抱えてダッシュして逃げる。

 シマパンダーは、意外と怒っていなかった。


ま性まぬけな性分戦隊にするであります」

 

 変な所に活路を見出していた。

 此のバカの側から離れようとする能代と更紗の腰を抱き止めて、シマパンダーは背中からシマパン状の翼を二枚、広げる。


「シマパン・ウィィィィィィィィィィング!!」

「ダイナミックプロに密告してやる」

「やっていい事と悪い事の区別は付けようよ〜」


 両腕に美人二人を抱えたまま、シマパンの怪人は渋谷の空を飛翔する。


「このまま、登録に行くであります」

「離せ〜、本業に戻る〜」

「推敲しようぜ〜、もう少し〜」

ま性まぬけな性分は治らないから、いいであります」



 

 シマパンダーというヒーローがいる。

 シマパンの力で戦い続ける、変な戦士だ。

 まぬけな性格で、同業者をしばき倒す事も少なくない。

 それでも君がピンチの時は、手近なシマパンに助けを求めてみるといい。

 きっと彼女は、のこのこと助けに来てくれる。

 呼ぶのが恥かしければ、110番に通報する方がオススメだけど。





    第一部 ま性戦隊立ち上げ編 完

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