変人達と奇妙な話
NAAA
本編
第1話 豚と女
興味のある方は見てください。決してきもちのいいものではありません。豚と女の奇妙な話。
※
「あら、今日も来たの?一也くんだっけ」
「…………あなたはなぜいつもこんな所にいるんですか?」
あなたはいつも、そこにいる。僕は彼女の名前を知らない。だから呼ぶ時は「あなた」と呼ぶしかない。彼女は美人だ。僕が今まで出会った誰よりも。
ここにいるのは僕と彼女と
ンゴ、ブヒ、ンゴンゴンゴ
たくさんの、豚である。
「なぜここにいるかって? 一也くんは愛してる人とずっと一緒にいたいと思わないの?」
「…………ここには、豚しかいないじゃないですか」
「そうよ、私は豚を愛しているの。何もおかしいことはないじゃない」
「…………」
豚とは本来醜いもの。雑食であるがゆえ、悪食、意地汚いと思われている。日本ではこのイメージが宗教的、文学的に増幅されたのか悪口として一般的に使われている。
「豚は美しいわ。勇敢でもある。欲望に忠実だし頭もいい」
彼女は続けて言う。
「その点人間は醜いわ。欲望があるのにそれを隠すんだもの。それなのに感情を制御できない」
「あなたはここで何をしているんですか?」
「愛し合っているのよ。彼らに求められれば私は身体すら捧げるわ。これは清く正しいことよ」
「それって…………」
言葉が続かない。
「いい、一也くん。ここにくるのは勝手だけど私と彼らの愛だけは壊さないで」
「…………失礼します」
僕は逃げるように立ち去った。
次の日、僕は思い切って友人に彼女のことを話してみることにした。
「なに? 豚小屋に変な女がいるって?」
「そうなんだ……彼女が言っていることはまったく理解できない…………ただ、美人だ」
「変人なのに美人なのか? それは興味湧くなー。よし! 今日は俺も連れていけ!」
「でも…………」
「大丈夫だって。俺は外で見てるから」
「うん…………わかった」
そうして僕と友人は豚小屋へと向かった。
「じゃあここで待ってて。絶対入ってこないでよ」
「分かってるって。ほら、早くいけよ」
友人にうながされ僕は豚小屋の中へと入る。彼女は今日もそこにいた。ただ、いつもと違うのは…………
「どうして豚と同じ柵の中に入っているんですか…………」
「…………」
彼女は答えてくれない。豚の鳴き声だけが響きわたる。
ンゴ、ブヒ、ンゴンゴンゴ
「おーい、一也。どこにもそんな女いないじゃねーか」
僕は驚いて振り返る。
「バカ! 入ってくんなって言っただろ!!」
「は? だって豚しかいねーじゃん」
「いや、そこにいるだろ!」
「…………お前、頭いかれたか?」
「いや、だってそこに!!」
僕は振り返る。確かに彼女はそこにいた。
…………見えていない? いや、豚に見えてるのか?
「ごめん、先に帰ってくれ…………」
「お前大丈夫か? なんか変だし」
「大丈夫だから」
「…………分かった」
友人は少し気味悪そうに僕を一瞥して、帰っていった。
彼女はそこにいる。僕を見て微笑んでいる。
「あなたは…………いったい…………」
彼女は答えない。微笑みを絶やさず僕を見つめてくる。その姿はなんと美しく、幸せそうだろう。
彼女は確かにそこにいる。少なくとも僕にとっては…………
豚の鳴き声が聞こえる
ンゴ、ブヒ、ンゴンゴンゴ
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