変人達と奇妙な話

NAAA

本編

第1話 豚と女

 興味のある方は見てください。決してきもちのいいものではありません。豚と女の奇妙な話。



「あら、今日も来たの?一也くんだっけ」


「…………あなたはなぜいつもこんな所にいるんですか?」


 あなたはいつも、そこにいる。僕は彼女の名前を知らない。だから呼ぶ時は「あなた」と呼ぶしかない。彼女は美人だ。僕が今まで出会った誰よりも。

 ここにいるのは僕と彼女と


 ンゴ、ブヒ、ンゴンゴンゴ


 たくさんの、豚である。


「なぜここにいるかって? 一也くんは愛してる人とずっと一緒にいたいと思わないの?」


「…………ここには、豚しかいないじゃないですか」


「そうよ、私は豚を愛しているの。何もおかしいことはないじゃない」


「…………」


 豚とは本来醜いもの。雑食であるがゆえ、悪食、意地汚いと思われている。日本ではこのイメージが宗教的、文学的に増幅されたのか悪口として一般的に使われている。


「豚は美しいわ。勇敢でもある。欲望に忠実だし頭もいい」


 彼女は続けて言う。


「その点人間は醜いわ。欲望があるのにそれを隠すんだもの。それなのに感情を制御できない」


「あなたはここで何をしているんですか?」


「愛し合っているのよ。彼らに求められれば私は身体すら捧げるわ。これは清く正しいことよ」


「それって…………」


 言葉が続かない。


「いい、一也くん。ここにくるのは勝手だけど私と彼らの愛だけは壊さないで」


「…………失礼します」


 僕は逃げるように立ち去った。


 



 次の日、僕は思い切って友人に彼女のことを話してみることにした。


「なに? 豚小屋に変な女がいるって?」


「そうなんだ……彼女が言っていることはまったく理解できない…………ただ、美人だ」


「変人なのに美人なのか? それは興味湧くなー。よし! 今日は俺も連れていけ!」


「でも…………」


「大丈夫だって。俺は外で見てるから」


「うん…………わかった」


 そうして僕と友人は豚小屋へと向かった。


「じゃあここで待ってて。絶対入ってこないでよ」


「分かってるって。ほら、早くいけよ」


 友人にうながされ僕は豚小屋の中へと入る。彼女は今日もそこにいた。ただ、いつもと違うのは…………


「どうして豚と同じ柵の中に入っているんですか…………」


「…………」


 彼女は答えてくれない。豚の鳴き声だけが響きわたる。


 ンゴ、ブヒ、ンゴンゴンゴ


「おーい、一也。どこにもそんな女いないじゃねーか」


 僕は驚いて振り返る。


「バカ! 入ってくんなって言っただろ!!」


「は? だって豚しかいねーじゃん」


「いや、そこにいるだろ!」


「…………お前、頭いかれたか?」


「いや、だってそこに!!」


 僕は振り返る。確かに彼女はそこにいた。


 …………見えていない? いや、豚に見えてるのか?


「ごめん、先に帰ってくれ…………」


「お前大丈夫か? なんか変だし」


「大丈夫だから」


「…………分かった」


 友人は少し気味悪そうに僕を一瞥して、帰っていった。


 彼女はそこにいる。僕を見て微笑んでいる。


「あなたは…………いったい…………」


 彼女は答えない。微笑みを絶やさず僕を見つめてくる。その姿はなんと美しく、幸せそうだろう。



 彼女は確かにそこにいる。少なくとも僕にとっては…………






 豚の鳴き声が聞こえる







 ンゴ、ブヒ、ンゴンゴンゴ



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