30cmむこう側から

朝焼けに照らされた地下室で、

Aはぼんやりと辞書を捲る

「何を調べているんだい」

30cmこちら側から問う

30cmむこう側から答

「何も調べちゃいないさ」

Aは辞書から目を離さず

30cmむこう側から話す

「人は書を開く」

「書は人を啓く」

「しかし、この辞書には言葉の意味が書かれていない」

Aは辞書を閉じる

30cmこちら側から見る

クリーム色の紙

点在する黒いインク

「この辞書は意味を持たない」

「何故君はここに来た」

30cmむこう側から問う

30cmこちら側から答

「僕は扉を開いた」

「そこには君がいた」

Aは微笑んだ

30cmむこう側から

「つまり、君も僕と同じか」

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