プロローグ3

 憂鬱な気分で起きあがる気力もなかったが、親に言われては仕方がない。少しばかりの抵抗をしたのち、緩慢な動作で立ち上がった。嫌な気持ちが身支度する足取りを重くさせていた。


 先日に済ませておいた準備に不備がないか確認し、用意してもらった朝食を食べる。沈んだ顔をして黙々と食べる自分を前に、母親は心配して見ていただろう。親にとってもこれからのことは不安だったと思う。


 朝ご飯を食べ終えたあと、着慣れない制服に身を通す。これを着るのは受け取ったとき以来、二度目である。すぐに成長するからと大きめに作られた制服は、まだまだ身の丈に合ってはいない。制服に着られている感じが傍からでも見て取れるだろう。鏡でその姿を確認すると、自分の気分とは裏腹に初々しい高校生そのものとして映っていた。それを目にしたとき、嬉しいという感情が少しだけ、ほんのわずかだけ胸の奥に去来した。高校生になれたという気持ちは、決して嫌ではなかったということだろう。


 時間も差し迫ってきたので、忘れ物がないか再度確認する。母親もあれは持ったか、これはいらないのか、とせわしなく聞いてくる。苛立たしくも、ありがたい存在である。


 準備に余念はない。そろそろ出立の時間であった。家族に挨拶を済ませ、重い荷物を携え、外靴に履き替えた。母親は入学式に参加するため、一緒に行くことになっている。


 一歩外に出る。高校生として初めて外を歩く。悪くはないという気分と嫌だと思う感情が複雑に絡み合って、得も言われぬ。そういった心持ちであった。


 これが高校に向けて家を発ったときの心境である。

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