学園もの(仮)

榎澤えのき

プロローグ1

 春。まだ少し肌寒くも暖かな陽射しがそれの到来を告げる。ふんわりと流れていく風の中には、鼻孔をくすぐる芽吹いた草木の優しい香りが漂う。

 

 春は出会いと別れの季節と言われているように、それぞれの人生で少なからず転機が訪れる。学生でいうと進学や進級があり、卒業がある。新たな人たちとの出会いがある一方で、親しい人との別れがある。そんな季節。それぞれの人生にとって、一歩前に進んでいく、そんな時季。


 否応なく巡ってくるこの時を前に、ある人はやる気に満ち、夢を携え、希望を灯す。またある人は後悔し、絶望し、悲嘆に暮れる。この季節はすべての始まりでもあり、終わりでもある。誰しもがそれを知りながら、それぞれの人生を歩んでいく。


 一歩外に足を踏み出すと、慣れない制服姿で初々しく学校に向かう学生や、スーツに着られる若者が目に入ってくる。その表情には、これからの生活に期待しかしていない者。不安を多く感じている者。期待と不安が半々に入り混じっている者など、様々である。だが、これからの日常を思えば、皆少なからず胸躍っていることだろう。


 これから出会う友人のことを思う。まだ見ぬ恋人に思いを寄せる。新しい学校生活に思いを馳せる。進学できたことに思いを巡らせる。そう、想うのだ。これまでのこと、そして、これからのことを。


 かく言う自分も、今日から高校生である。不安しか見えぬ先のことを想いながら……

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