『二つの結末』

彩愛

青い花の末路。

青い花は言いました。

「君、凄く良い色をしているね。」

すぐ隣で咲いていた黄色の花が言いました。

「そう?そうでもないと思うけど。」

青い花は黄色の花のことを

羨ましく感じていました。

けれども、黄色の花のほうは

たいして青い花に関心を寄せてはいませんでした。

青い花はもどかしい気持ちで

いっぱいでした。

(どうしたら、あんなにきらびやかな色が

出せるのだろう・・・)

青い花は毎日のように試行錯誤して、

少しでも黄色い花に近づけるよう

頑張りました。

そうして、365日が経過した頃、

やっと青い花びらの先端が

黄色に染まりはじめました。

隣で咲いていた黄色の花は、

びっくりして青い花に問いかけました。

「君、その花びらの色はどうしたの?」

青い花が答えました。

「最近、水を飲む量を少し減らしてね。

そうしたら、徐々に花の色が

変わりはじめたのさ。」

黄色の花はびっくりし過ぎて、

目を丸くしていました。

青い花は誇らしい気持ちで、でも

体の隅に微かな不調を感じながら、

ピンと茎を伸ばして立っていました。


それからしばらくは

何の変化もない日々が続いていたのですが、

ある暑い日が続いた夏の日、

突然、青い花が「あぁっ!」と叫びました。

黄色い花はびっくりして、

今まで暑さで閉じていた瞳を開けました。

そこには、灼熱の大地の上で

変わり果てた青い花の姿がありました。

黄色い花は問いかけました。

「君、今まで一体何をしてたんだい?

どうしてそんな姿に変わってしまったのさ。」

青い花は弱々しい声で答えました。

「どうしても、君のようになりたかったんだ。

それで、頑張って水を飲まないようにして

いたのだけれど、限界で・・・

この有様さ。」

青い花はぐったりと茎を垂らし、

その花びらはまだらに黄色で

とても健康とは程遠い姿をしていました。

「どうして、そんなに僕のことを羨むんだい?

君は、そのままでも充分素晴らしいのに。」

黄色の花は言いました。

青い花は答えます。

「素晴らしくなんかないさ。この近辺に住む

連中は皆君の方に夢中で、僕の方に関心を

向ける奴なんざ一人もいない。僕は、

寂しかったんだ。」

黄色の花は複雑そうな表情をして、

青い花の方を見やりました。

青い花は、もう気力のほとんどを失った姿で、

その場に倒れ込んでいました。

何もできない黄色の花は、

ただ青い花が何かを喋り出すのを

待つしかありませんでした。

青い花は、

最後の力を振り絞ってこう呟きました。

「君は、いつも忽然とした態度でいるよね。

僕は、それが羨ましかったんだ。」

黄色い花が何も言えずにいると、

そのまま青い花は息を引き取りました。


黄色い花は、心の中でこう呟きました。

(僕が忽然とした態度でいられるのは、

僕が僕以外の何者にも変われないと

ずっと前から諦めていたからさ。

君は変わろうとした。

好きとか嫌いとかじゃなくて、

ただ僕はここに立っていただけなんだ。)


空を滑空していた鳥は、言いました。

「あーぁ、せっかくこの黄色ばかりの

広い大地に、珍しい色の花が咲いていると

思ったのに、枯れてしまったのか。

あの青い花の上を飛ぶのは、

僕の楽しみの一つでもあったのに、

残念だなぁ。」


そうして、

枯れてしまった青い花を

名残惜しそうに見つめ、

遥か彼方へと飛び去っていきました。

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