アタシ、アイツに会いたいからさ♪ 親指立ててヒッチハイクだ!!

湊風紳 煌騎

~憤怒~

 城が燃えている――そして闇の中、煌々とした赤黒い光が天に昇っていた。

 

 城から逃げ出した『俺』は森の中を歩いている――。

 身体中が痛い――気分が悪い。吐き気がする。

 目眩が酷い。真っ直ぐに進めない――。


 身体を左手で触る――変に生暖かい水の様な感触がある。

 それを目の前にかざす――真っ赤だ。鉄臭い。

 間違いない――これは血だ。


「ご――ふ……っ!」


 口から何かが勝手に咳と共に出た――顎に触れたそれを右手で触れて眺めた。

 こっちも血だ――。

 ああ――息苦しい。


 穏やかな澄んだ翡翠色の瞳を持つ青年の顔が、頭の中に浮かぶ――。

 それに続いて、白い髪と栗色の瞳を持つ褐色の肌をした妙齢の女性と、彼女と同じ髪と瞳を持つ、若々しい女性が伴って頭の中に浮かぶ――。


 一時間前の記憶が生々しく蘇る――。


 燃え盛る家具や調度品――火の手に包まれる、部屋の壁、天井、床に敷かれた絨毯……。

 翡翠色の瞳の青年は床の上に広がった血溜まりの中で俯せになり、微動だにしない――。

 そしてその傍らには袈裟懸けに斬られ、血の涙を流す褐色の肌をした妙齢の女性の姿があったのだった――。


 火の粉が降り注ぐ赤々と燃える廊下を、筋骨逞しい、野獣の様な顔をした長身の体躯の男が、若々しい褐色の肌をした女性を横抱きにしながら歩いている。彼の赤黒い眼光からは、憤怒と確固たる信念が漲っていた。

 野獣の様な男の周りには、楽しげに笑っている男達の姿が見える――。

 心の奥底から怒りが湧き上がった――俺は奥歯を噛み締める。


 ああ……あいつらを殺してやる。

 絶対に殺してやる。殺してやる。殺してやる…………!!

 あいつらを……。

 義兄あにを殺し、母を殺し、姉を奪った――『あの男達』を!

 殺してやる。殺してやる。殺してやる――!!


「ぐ――げ……は……!!」


 『俺』は血を木々の根本に吐いた――眠い。深い眠りに落ちそうだ。

 そして地面が起き上がって近付いてくる――。


 後少しで地面に『俺』は触れそうになった――。

 その時だった――それが止まる。

 

 視線を下に向ける――『俺』の両腕が、黒い装甲に覆われ、地面に触れていた。


「成る程――その『力』、目覚められた様ですな」


 男の声だ――左から聞こえる。

 顔をその方に向けた。

 そこには黄色いローブを身に纏った、フードを目深に被った人物がいる。

 彼は『俺』に近付き、そして右膝を立てて跪いた――。


我が主マイ・ロード――お初にお目に掛かります」


 目眩がいつの間にか消えている――吐き気もない。

 そして何よりも、血が身体から溢れている感覚がない。

 『俺』は立ち上がり、その男を見下ろした――。


「貴方は、一体誰なのですか……?」

「は……我が主マイ・ロード。『貴方の父上様の下僕しもべ』――だった者でございます。――」


 気が付くと、黄色いローブを身に纏った背の高さが違う人々が森の中にいて、『俺』達の周りを取り囲んでいる。


 始めて見る人々だ。

 しかし彼ら達を見ていると、どうした事か――。


 『俺』は笑った――ああ、この黄衣を身に纏った彼らがいれば。彼らさえいれば。

 何故かは分からない――だけど……直感が告げている。 


(『あの男達』を『俺』は

  

 「ははは……ははは――あははははは……!!」


 ああ……こんなに愉快な事はない――。


 憤怒が止め処なく心にも、頭にも、身体にも溢れる。

 そして、途轍もない生気が心の奥底から漲り生まれた――。 


(今に見ていろ――あいつらめ!!)


 『俺』は黒い装甲に覆われた右手を天に向ける――その先には天に輝く4つの月があった。


 そこに野獣の様な、『あの男』の顔が浮かんだ――それを『俺』は強く握る。

 心の奥底から灼熱の力が湧いてきた――ああ。『俺』は必ず強くなる!!

 

「――殺してやる! 殺してやる!! 『あの男』達を殺してやる!!」


 ああ――そうとも! 殺してやる!! 

 そして『俺』は――復讐を果たす!!

 必ずだ! 必ずだ!!

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