第4話 秘めた決意と最後の休息

自らの戦い方を定めたカーレッジ。

彼女の瞳に迷いはなかった。

ヴィランに襲われそうになったレイナをその盾で守り通した彼女の姿は、まさに騎士そのものだった。


「それが、君のやり方なんだね。カーレッジ」

「はい。これが私のやり方です」

その言葉には以前のような暗さはなく。

その一言一言に強さが感じられた。

「・・・とりあえずこれで本当に魔物は最後のはずです」

ヴィランは攻撃が防がれたことや増援に危機を感じて逃げ出していった。

「・・・正直、私の選択はこれで良かったのかとも思うところはあります。

どうしようもない真の悪と相対した時、私の選択では何もすることができない・・・」

カーレッジは少し目を曇らせる。

しかしその瞳はすぐに光を取り戻し。

「・・・でも。そうだとしても私は諦めたくない、何もしないで諦めることをしたくないのです。

たとえその選択が正しくないものだとしても。ただの理想なんだとしても。

・・・私は、この選択を選びます」

「本当にその選択は難しい、限りなく不可能に近いものよ」

レイナはそういう。しかしその言葉の裏にはどこか含みがあって。

「・・・でもなぜかしら、今のあなたがそういうと何だか成し遂げてくれそうな。

そんな気がしてくるの」

それを聞いたカーレッジは目に少し涙を浮かばせて。

「ありがとう、ございます」

見上げた空に差し込む光が、彼女を照らしていた。


その翌日、ここ最近の連戦による疲れを癒すため、エクスたちは砂漠城塞の街中を回っていた。

真面目なカーレッジだけは見回りも含めて、であったが。

「お嬢、ここら辺で自由行動にしないか?

シェインがそろそろこの街のアイテムやら武器やらに興味津々でな・・・」

呆れた顔でシェインを見るタオ。一方シェインは右の店を見たり左の店を見たり・・・アイテムや武器のこととなると止まらないシェインは少々興奮気味だった。


「そうね・・・それなら自由行動にしましょうか。

日が暮れてきたら宿屋で集合にしましょう」

「了解です」 

とシェインが言う頃には既に彼女は店で様々なものを見つめていた。


「坊主、お前はどうするんだ?」

「うーん、やることもないからまだ言ってないところを見てみようかなって思ってるよ。

そういうタオはどこか見るところあるの?」

「俺も同じ感じだ、せっかくなら男のロマンを感じられるところを探そうぜ」

半ば強制的に同行することとなったエクスはタオとともに街中を再び回ることとなった。


「カーレッジ、私たちはどうしましょうか?」

「そうですね・・・折角ですし、少し女性らしく美容や化粧関連のお店に行こうと思っているのですが・・・」

「いいわね、ここは環境的に肌荒れがひどいからそういうところを探してたの。

案内頼めるかしら?」

「任せてください」

レイナとカーレッジはせっかくの休みなので、女性らしく、美容などに関する店へ向かっていった。


戦いの日々の中にあるわずかな休息・・・。

疲弊した精神は癒されていった。

こういった休みの日というのもやはり必要なのだろう。

誰もがそう思っていた。

笑って、楽しんで。

きっと、これがこの想区での最後の休息だから・・・。


そして日が落ち始め、エクスたちは宿屋にて合流する。

するとカーレッジが・・・。

「あの、この近くに温泉があるんですけど、よかったらいきませんか?」

カーレッジは手を挙げながら怖じ怖じと発言する。

「温泉・・・いいんじゃねぇか。体は癒されるし、その後に飲む飲み物は最高だ!」

「僕も賛成。そういうのって入ったことなかったから気になるな」

男性陣はすぐさま賛成した。

「テンション急上昇です・・・!姉御、行きましょう!」

「え、えぇ、そうね・・・私も賛成よ」

温泉という単語に、むふーといわんばかりに目を輝かせるシェインに押され、レイナも賛成する。


「いやーやっぱり温泉ってのはいいもんだ!

なぁ坊主!」

「うん、そうだね・・・。

まさか温泉っていうのがこんなにいいものだったとは・・・」

エクスにとって初めての体験であった温泉というものは、彼にとっていい意味でのカルチャーショックを与えた。

体から疲れという疲れが流れていくような、そんな感覚に陥った。

これはタオやシェインのようにテンションが上がるわけだ。

「ちなみに坊主、隣は女湯だが、絶対に覗いちゃいけねぇ。

男として情けないからな」

「へ、変に意識させるようなこと言わないでよ。

・・・そんな失礼なこと仲間にするわけないから安心してよ」

「まぁ坊主はそこんところきっちりしてるから、要らない心配だったか」

とさっきまで真剣な声で話していたタオは笑いながらに言う。


一方その頃女性陣は・・・

「ごくらくごくらく・・・」

「シェイン、年寄りくさいわよ」

「だって気持ちいいじゃないですか~」

シェインはすでにダメになっていた。

「でも、そうなる気持ちはわかります。

私もよく疲れてるときとか、考え事をしたいときはシャワー浴びたり温泉に入ってたりしてますから」

「カーレッジは水浴びや温泉が好きなのね」

レイナは少し興味を示しながら言った。

「はい、心が落ち着くというか・・・一人で入るのもいいですけど、

こうして友人同士で入るのもまたいいものですし・・・」

友人、その言葉を聞いてレイナとシェインは心のどこかで温かさを感じた。

「・・・私も、こうして友達と入るのは悪くないと思うわ」

「シェインもです。カーレッジさん、友達とこうしてるのは楽しいですね」

「・・・はい!」

レイナとシェインの肯定に嬉しそうな声でカーレッジは答えた。


「んっ、んっ、んっ・・・ぷはー!やっぱり格別だ!」

「むふー、ほんとです・・・」

ごくっ、ごくっと勢いよく瓶に入った牛乳を飲みほすタオとシェイン。

「確かにこれは格別だね、レイナ」

「・・・本当。今まであまり意識したことなかったけどこれは格別だわ」

続くエクスとレイナも感想を言う。

「ここの温泉はわが国自慢の一つでもありますから。

・・・まぁ少々高いのが難点ですが・・・」

カーレッジは入浴料金の板をチラチラと見ながらつぶやく。


「・・・皆様、お話があります」

カーレッジは改まって、エクスたちに声をかける。

「おそらく、そろそろあの竜がこの国を攻めてくるでしょう。

住処をばらしてしまった以上、あの竜はこの国を滅ぼしてくると思います」

「カーレッジ・・・」

彼女の父が命を落とした理由につながるドラゴン・・・。

彼女の心情を何となく察したエクスは彼女の名前をつぶやく。

「・・・これ以上、あの竜に好き勝手させるわけにはいきません。

私はあの竜を追い払うつもりです」

あくまで命は奪わない・・・そんな決意を胸に秘めている彼女はそう語る。

「だからもう少しだけ、私に、私たちに力を貸してください・・・!」

「・・・何言ってんだ、カーレッジ」

頭を下げたカーレッジに対してタオが言う。

「俺らは仲間だろ?

協力するにきまってるじゃねぇか」

「そうですよ、友達なら助けあうのが常ってもんです」

「もともと、私たちも協力するつもりだったわ」

「・・・そういうことだから、安心して、カーレッジ。

僕らは君たちに協力するよ」

タオの言葉に続き次々と協力に賛成的な声をかける。

「皆様・・・本当にありがとうございますっ・・・!

なんと、なんといったらいいのか・・・」

またしてもその瞳に涙を浮かべ、感謝するカーレッジ。

そしてその涙をぬぐった彼女の顔は、決意の表情になっていた。


次の日・・・。

ドラゴン・・・この想区のカオステラーが大量のヴィランと共に砂漠城塞に攻めてきた。

一方その頃、エクスとカーレッジ達は、国中の騎士を集め、来るべき決戦に備えていた。

「やっぱり・・・!

みんな、準備はいいよね!?」

エクスの問いに、レイナたちは、

「もちろん!」

と返す。


「大変だ!町中にもうヴィランが!」

騎士の一人が声を荒らげる。

「なんですって!?」

レイナはその声に強く反応する。

「カーレッジ、戦闘の準備は!?」

「まだ万全ではありません、予想していたとはいえ、まさかこんなに早く来るとは・・・!」

エクスの問いに申し訳なさそうに答えるカーレッジ。

「・・・なら、カーレッジ達は準備を。

まずはこのヴィランたちを片付けよう!」

「そうですね・・・新入りさん、行きましょう」

エクスたちはそう言ってヴィランのいる方向へ駆けつける。


「いたわ、ヴィランよ!」

「おうよ!コネクト!!」

全員がレイナの声に続いてコネクトを開始する。

ヒーローたちに変化した彼らは、次々とヴィランをなぎ倒す。

「数が少ない・・・シェイン、どう思う?」

エクスは背中を合わせるシェインに問いかける。

「そうですね・・・陽動部隊とか囮とか・・・そんな類のものだと思います。

それか偵察部隊かのいずれかでしょうね」

「そう、だろうね・・・向こうは準備終わったかな・・・」

エクスは戦闘を終わらせ、コネクトを解除しつつ準備を進めているであろうカーレッジの心配をする。


カーレッジ達のところに戻るとそこには既に整列が完了している騎士たちの姿があった。

「皆様、大事に至ってなくて何よりです。

・・・準備は、完了しました」

安堵の表情を浮かべたカーレッジは準備が完了したことを伝える。

「間に合ったのね!」

「さ、カーレッジ。騎士代表として言葉を」

エクスはカーレッジの背中を押す。

「・・・はい。

・・・皆の者、聞いてほしい」

カーレッジの重く、強い言葉に騎士たちは姿勢を正す。

騎士たちが彼女を見つめるその瞳は、彼女が変わったのと同じように

変わっていた。

「私は魔物に手を下すことすらできない甘い人間だ、今も、それは変わらない」

カーレッジは静かに語り始める。

「だが!この国を愛する想いは変わらない!

この国を守りたいという想いが変わることはない!

私は、今一度。この盾を槍でこの国を守りとおすことを誓おう!

・・・こんな甘い私についてきてくれるというのなら。

こんな私でもいいというならば・・・。

皆!力を貸して欲しい!


この国を守るために!!」

「うおおおおおおおおお!!」

彼女の決意の言葉は、彼ら騎士の士気を大いに高めた。


「行こう、カーレッジ。

この悪夢を終わらせる!」

「・・・はい!

行きましょう、これが最後の戦いです!」

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