第2話 優しい心は時に残酷な仕打ちを

「行こう!!」

エクスたちとカーレッジはヴィランが現れた方向へと駆け抜けていった。

道中で慌てる住民たちに押されながらもなんとかしてヴィランにいるところへたどり着けた。


「魔物・・・!このカーレッジ・ホープリリーフが・・・!」

と言い、鞘から剣を抜く。

しかしその声は震え、身体も震えていた。


「やっぱりそうなんだろうなと思ったよ・・・よし、カーレッジを援護しつつ応戦だ!」

何となく彼女が戦いに向いていないのだとわかっていたタオは、

すでに導きの栞をコネクトしていた。

続いてエクスたちもコネクトを開始する。


エクスは剣を持った赤ずきんをコネクトし、その剣術で敵をねじ伏せる。

レイナはシェリーをコネクトし、魔術を用いて薙ぎはらう。

タオやシェインも続き、次々とヴィランを倒していく。

彼らは数多くのヴィランと戦っている。

次にヴィランがどんな行動をとるのか、直感的な判断ができるまでに。

その上、数々の戦いを乗り越えてきたバランスの取れた連携が彼らにはある。

その強さはカーレッジやこの想区の人たちが驚くほどであった。


気がつくとヴィランはすべて倒されていた。

住民の恐怖の象徴である魔物…ヴィランをいともたやすく倒してしまったエクスたちは住民たちや騎士たちにどう映るだろうか。

もしかすると、その強さから畏れを持たれてしまうかもしれない。

しかしその懸念は杞憂にすぎなかった。

「ありがとう、旅の人!」

「すごく強いしカッコよかったぜ!」

かけられた言葉のほとんどが感謝による言葉だった。エクスたちは安堵と同時に心に温かさを感じていた。


「感謝されるって、いいですね」

「うん、助けてよかったって心から思えるよね」

「あの…」

少し感動していたエクスたちに最初に声をかけたのは戦えなかったカーレッジだった。


「私、戦えなくて…その…」

「…とりあえず離れましょう?

ここじゃ目立つし、宿屋にも案内してもらうはずだったし」

話をする前に落ち着ける場所に行くべきと判断したレイナはカーレッジに宿屋への案内を再度依頼する。


「ここが宿屋です」

「ありがとう、カーレッジ。

それでさっきは…」

エクスが先ほどカーレッジに言おうとしていたことを聞こうとすると、カーレッジは

「その戦えなかったこと、大変申し訳ありませんでした!

騎士として、恥ずべき失態です…」

カーレッジは頭を深々と下げる。

そしてその後、任務があるので失礼しますと再び頭を下げて彼女は宿屋から出て行った。


そして再起の日が終わって日付が変わった頃…

「お嬢、ちょっといいか?」

「…カーレッジのこと?」

「あいつ、いつも戦えないんだろうな…。

騎士として頑張ろうとしてるのは伝わるけどな…」

タオはレイナにカーレッジについてどう思っているのか尋ねる。


「…確かにそうね。私たちはまだ彼女に会って間もないけれど…。

彼女があのまま戦えないことに責任を感じ続けてたらカオステラーになってもおかしくない…」

「ということはカーレッジはカオステラーじゃないんだな?」

「それは間違いないわ。彼女は多分、心は強いと思う。きっと何か彼女なりに戦うのが怖い理由があるんだと思うわ」

カオステラーの気配をつかめるレイナはカーレッジはカオステラーではない、と断言する。

彼女はカーレッジがカオステラーになるとは思えないと考えていた。


するとその時どこからか話し声が聞こえてきた。

「カーレッジはまた魔物を倒せなかったか…。」

「やはり彼女には無理なのでは…」

どうやらカーレッジについて話しているようだった。

姿から見るにおそらくカーレッジと同じく騎士なのだろう。

レイナとタオはカーレッジの事情を知るべく騎士たちに話を聞いてみることにした。


「ちょっといいかしら?

あなたたちさっきカーレッジについて話していなかったかしら?」

「おお、あんたらはさっきの…。

あの時は感謝するよ。

確かにカーレッジについて話していたが…それがどうしたんだ?」

「俺たちはここに来たばっかで彼女が何で戦えないのかわからないんだ。

本人に聞こうとしたけど任務があるからって言って早々に出て行っちまってな…」

「それで事情を知ってそうなオレたちに、か。

カーレッジの知り合いらしいし、オレたちがわかる程度のことなら構わないぞ」

タオとレイナが事情を話すと騎士はカーレッジについて話してくれた。


「…彼女はホープリリーフの名前を借りて騎士になったんだ。

私もこの国を守りたい、って言い出してな。

だけど彼女には一つ難点があってね…」

「難点?」

レイナは首をかしげる。

「彼女は優しすぎるんだ。

常に国民を想い、助ける。騎士として鏡のような人物なんだが…。

それがいきすぎて魔物すらも傷つけたくないと言っているんだ。

傷つけられた魔物はきっと悲しんでしまう…とね。

以前も弱い魔物に対して怪我の治療を施したこともあった」

「それで魔物とも戦えないんだな…」

事情を知ったレイナたちは彼女が優しすぎる人物であることを知る。


次の日、宿屋にカーレッジがやってきた。

「皆様…私たちに力を貸して下さい!」

唐突に彼女は頭を下げた。


「私たちは魔物の巣窟らしきものを見つけました。本日、ここから発つ予定です。

あなたたちの力は凄まじい…是非力を貸していただきたいのです」

「お前はどうするんだ?

魔物と戦えるのか?」

「それは…」

カーレッジはすぐに答えることができなかった。


「次こそは、必ず。

私は騎士ですから、国を守るために魔物を倒すしかないのです…」

「あなたのことは聞いたわ。

無理して戦わなくても…」

「私は父のように優しく、強くありたい…父はそういう人だった。

私もこの国のために戦いたいのです」

「そうか…なら俺たちも力を貸すぜ」

「タオ!?」

「別にいいじゃねーか、なぁエクス?」

「うん、魔物がいるなら僕らの目的にもつながるだろうし、カーレッジも気になるからね」

カーレッジの意志について聞き、彼女の答えを聞いた後、男性陣が押し切る形でカーレッジ達、騎士に力を貸すことになる。


そして騎士達についていく形で魔物の巣窟へと向かう。

「お嬢、頑張れ!もうちょっとだぞ!」

「わかってるわよ!…ここに乗り物はないのかしら?」

声を張りあげるも疲れから全く威勢の感じ取れない声でレイナはぼやく。

「ここの技術は城の守りに特化していて乗り物などに関してはまだほとんど未発展のようです」

レイナは沈黙の霧の時こそあまり疲れた素振りを見せないものの、普段は体力が全くと言っていいほどない。

現にこの想区に着いたばかりの時も沈黙の霧を歩いている時は平気だったにも関わらず、オアシスに着いた時には既にへばっていた。(さすがにタオやシェインも疲れていたのだが)


そうしてレイナを励ましつつ巣窟へ向かっている途中…。

「…シェイン、ちょっといいか」

「タオ兄、どうしたんですか?」

「カーレッジは言葉じゃ、ああ言ったけどやっぱ心配だ、悪いけど見ててくれないか?」

「わかりました、見ておきます」

タオは妹的存在であるシェインにカーレッジの監視を頼む。

またカーレッジが震えてしまったとき、そのときに助けられるように…彼なりの配慮だった。


カーレッジはそんな配慮をされているとも知らず、エクスと会話をしていた。

「エクス様…私は今度こそ魔物を倒せるでしょうか?」

「カーレッジ次第、かな…。

でもカーレッジならやれると思う」

「そうでしょうか…?」

「うん、カーレッジの言葉には真剣さが感じられるから」

「そうだといいのですが…」

「…もしまた躊躇っちゃったら僕がカーレッジを助けるよ、それなら大丈夫でしょ?」

「……エクス様…。ありがとうございます。

少し落ち着きました」


そうして時は過ぎていき、巣窟に到着するとそこには…。


大量のヴィランがそこにいた。


「魔物…!全員戦闘態勢!」

カーレッジの一言で騎士とエクス達は身構える。

しかしヴィランたちはこちらを見て襲いかかることはなかった。


「どういうことだ…?」

カーレッジの疑問はすぐに解けた。


魔物の巣窟から姿を現したのは大きなドラゴン。

そして…。

「この想区のカオステラー…!」

レイナがそう言った瞬間エクス達は驚愕した。

これまではシンデレラに繋がりのあったフェアリーゴッドマザーや想区の主役であった赤ずきんがカオステラーとなった。

しかし今回はドラゴンだった。

それは一体何故なのだろうか?


そしてその疑問は今度はカーレッジによって解決するのだった。

「…あの竜は私の父が戦死した日に現れました。

以来この国を苦しめ続けた凶悪な魔物です」

あの竜とホープリリーフに何があったのかはわからない。

だがホープリリーフが命を落とした理由につながるのだろう。

カオステラーというのはその想区の主役かそれに関わる者がなるという。

つまりカーレッジの、この国の仇ともいえる存在であるあのドラゴンがカオステラーになるのもおかしくはない。


「私は…あの竜を討ちます、この国を守るために…!」

また、彼女の体は震えていた。

それが怒りによるものなのか、恐怖によるものなのか、彼女の優しさからの躊躇いなのかはわからなかった。

しかし彼女は剣を引き抜き、ドラゴンの元へと向かっていった。

そして剣を振り上げ…



たのだが、その剣が振り下ろされることはなかった。



ドラゴンは笑ったように腕を振り上げ鋭利な爪でカーレッジの身体を引き裂こうとする…。

「馬鹿!!カーレッジ、避けろ!」

「くっ、見張っていたのに止められなかった…!」

「ちょっと、エクス!?」

タオ、シェイン、レイナが続けて声を上げる。

しかしレイナのそれはカーレッジに向けたものではなく、共に旅をする仲間に向けたものだった。


エクスは駆け抜けた。

助けると言ったから、助けないといけないと、そう思ったからだ。

「カーレッジ!!」

「エクス様!?」


その刹那、無情にもドラゴンはその腕を振り下げた。


「がぁぁ!!」

エクスはカーレッジを庇い、ドラゴンの攻撃を直接受けてしまった。

カーレッジに倒れこむエクスの背中には、巨大な傷が付いていた。

血が沢山流れ、すぐに治療しないと手遅れになるレベルだった。


「エクス!!」

レイナ達は急いで駆け寄り、エクスに回復術による治療を施した。

それでも傷がふさがることはなく、血が流れるばかりだった。

ドラゴンは再び笑みを浮かべたような表情をし、ヴィランと共に巣窟へと戻って行った。


また、駄目だった。

それどころか、知り合ったばかりにも関わらず仲良くしてくれて、助けるとまで言ってくれたエクスを傷つけてしまった。


なんとか生きているらしく、レイナは必死で応急処置を施そうとしている。

タオもシェインも必死に血を止めようとしていた。


エクスを傷つけ、レイナ達を悲しませ、迷惑をかけたのは誰だろうか。



それは私だ。



失敗してしまった、傷つけてしまった。

私は…結局戦えない。

今度こそは、今度こそはと毎回言い続けていた。

そしていつもできなかった。

誰かに迷惑をかけてばっかりで…そして今回、私の躊躇いのせいでエクスは傷ついて…。


そう思ってしまったカーレッジの中で、何かが崩れてしまった。

遠ざかる意識の中でエクスに対する謝罪をし……。


そして意識がなくなった。

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