track 28-OFF LIMITS
黒く塗られた空間を、2度、3度と引っ掻く、亀裂が入った空間に、大きく変容した牙で食らいついた。
「13秒サキが読めナイ! ダレかの異能がカンショウしてるみたいだヨ!」
片言の日本語を話す男が叫んだ、lumoという男が邪魔をしているのだろう。
防御を破られたEZFGという男は「消し去り」と呟くと少し離れた場所に移動した。
「なるほど、上塗りと消し去りを操る異能で距離を消し去ったか」
lumoが背後に現れる、自在に色を操れる光の粒子を纏って姿を隠していた様だ。
「関係無いな、避けられる前に叩けば良いだけの話だ」
「そんな脳筋な」等と呟くlumoを無視し、再び突撃を繰り返す、稀に何も無い空間から突然花火のような爆発が起きるのを避けながら、俺は戦闘に集中した、ジベタ様が止めろと言った、それ故に此の連中を止めなくてはならない。
甲高い音と共に、灰色の線が空中に現れ、EZFGの左手首へと巻き付いた、wowakaが使う異能だ。
其の隙を突いて、lumoが彼の周囲に光の粒子を撒く、粒子は赤く染まり、弾けて火柱と成った。
「手で塗りつぶす動作をしなければその異能は使えないみたいだね、さしずめ左手が消し去りで右手が上塗りといったところか」
wowakaの声が何処からか響く、俺をあの隠れ家の床に固定した力を応用しているのだろう。
「何をしているorangestar、援護が手薄すぎるぞ」
「残灯花火はあまりタクサン撃てないんデスよ!」
「上塗り」で作った即席の盾で攻撃を凌いだEZFGが仲間へと叫ぶ、其の間も絶え間なく飲料容器の攻撃と上塗りの攻撃をこちらへと繰り出している、其れを掻い潜りながらジベタ様に借りた力を存分に振るった。
* * * * *
あの片言の日本語を話す男が何度か何秒か先の出来事を読み取る異能を使っているのを見たから、少し邪魔をしてみた。
『デンパラダイム』がどうすればいいのかを的確に教えてくれる、俺はいつだって『デンパラダイム』のおかげで危機を脱してきた、そんな経歴があったからこそ、あのEZFGとかいうワケの分からない男に捕まり、異能を無理やり好き勝手に動かされて自力で状況を打破できなくなった時は物凄く腹が立った、それは俺の異能だ、勝手に操ってるんじゃねえ、と。
「アワジリカルラストルレイラー」
男がボソリと呟く、途端に『デンパラダイム』の援護が無くなり、あの力を使って保っていた『パーティクルパーティ』によるステルスも解除されてしまった。
「なぁんだ、カンタンな話だったネ」
男がこちらに手のひらを向ける、直感が警鐘を鳴らしまくった、このままでは死ぬと。
キュルキュルと音がしながら、灰色の線が目の前で球状に固まる、次の瞬間に球の中心で何かが爆発した。
「妨害は一瞬だけだ、あの異能で『デンパラダイム』を止められてもすぐに発動し直せ」
すぐ隣からwowakaさんの声がした、しかし姿は見えない、orangestarも彼の声に気付いたらしく、虚空に向けて陽気に手を振った。
「やぁやぁwowakaサン、お会い出来てコウエイですよ、できるならそのお姿をミせて欲しいですネ……アワジリカルラストルレイラー」
何も起きない、不思議な表情をするorangestarに向けて、俺は『デンパラダイム』の助けを必要としない粒子攻撃を仕掛ける、水色、ミストの目眩しだ。
粒子が弾けて辺りにミストが立ち込めた、俺は早速また姿を隠し、orangestarの背後へと回り込んだ。
「アワジリカルラストルレイラー」
ダメだ、あのワケの分からない言葉を言われると『デンパラダイム』が一瞬止まってリセットされてしまう。
ドカンと音がする、振り向くと、あのパンダヒーローと少女2人が天井に向けて落ちていくのが見えた、そんなバカな、天井に落ちる? いや、そもそもあのパンダヒーローが何故あんな状況に──
よそ見をした瞬間にorangestarの攻撃が飛んでくる、間一髪で青のパーティクルを使った水のガードで助かったが、とんでもない攻撃力だ。
再び背後で爆発が起こる、振り向いている暇は無い、俺は赤のパーティクルで日向電工に向けて飛んでいくボトルを撃ち落としながらorangestarの方へと走り始めた。
* * * * *
『スレッドネイション』で周囲に糸を張り巡らせる、細く、綿密に。
指先に集約された糸のうち数本が切れる感覚が伝わって来た。
「『サイバーサンダーサイダー』」
切れた糸の周辺を纏めて吹き飛ばす、糸に何かが接触しながら爆発を避けて移動するのが分かった。
「蜘蛛みたいだな」
wowakaとかいうヤツの声だ、ミストの中では姿が確認できないが、糸を張り巡らせた俺には関係無かった。
「だったらコレはどうかな」
プツリ、プツリと背後の糸が数本切れる、瞬間移動か? しかし位置が高すぎる、どうなってる?
「僕に気を取られていたら──」
wowakaの声が途切れた瞬間だった、地を這うように何かが迫る感覚、咄嗟に地面ごと吹き飛ばすが、迫っていた何かは素早く移動しながら俺の攻撃を避け続ける。
糸を張り続けるが、あちこちの糸がランダムに切られ続け、位置の把握が一向に進まなかった。
「バカにしやがって……」
突風が吹き、ミストが晴れる、orangestarが異能を使って援護したようだ。
晴れた視界に映ったのは、メチャクチャに張り巡らされた灰色の線、あちこちの糸を切って回ってたのはこの線だったようだ。
俺はすぐさま線を消し去ろうと手を翳す、しかし再び線に阻まれ手が固定されてしまう、先程そうしたように上塗りで線を無理やり破断させようと力任せに塗り潰す、しかし視界を塞いでしまったのは愚策だった。
ペットボトルの弾幕を抜けて来た日向電工が、目の前で地面に手を付けてこちらに狙いを定めていた。
* * * * *
狙い通り、EZFGが上手い事視界を塞いでくれた、orangestarが一度ミスをしてくれたおかげでそれを『ローリンガール』で連鎖させたのだ。
「wowaka!」
ハチ君が叫ぶ、あの厄介な奴を倒したらしく、巨大な氷柱の上からorangestarたちの方を見ていた、なるほど、あそこから飛びかかったら攻撃の反動が日向電工たちに行ってしまうということか。
「『とおせんぼ』」
orangestarとEZFGの間に灰色の無機質な壁が出現する、音も衝撃も、何もかも絶対に通さない壁だ。
それを見たハチ君が氷柱から跳躍する、orangestarの周囲に現れたパーティクルが強く発光し、orangestarの動きを止めた。
壁の反対側では、日向電工が地面の形を大きく曲げている、EZFGが『サイバーサンダーサイダー』で反撃を試みるが、飛んでいったボトルは全て『オリジナリティ』で僕の『ずれていく』を使って駆け付けたさつき が てんこもりが弾き飛ばした、ハチ君や強化された日向電工が味方にいるから『ネトゲ廃人シュプレヒコール』の威力があの時の数倍のものになっている。
「ダンスの時間はお終いだ」
日向電工君が捻じ曲がった地面を操りEZFGへと叩きつける、同時にハチ君がorangestarへと金属バットの一撃を叩き込む、壁の左右で2つの衝撃波が発生した。
「え、終わったの?」
リンゴの絵が描かれた巨大なパッケージを抱えてやってきたオワタPが残念そうに言った。
「まだだよ、あいつは「世界はもう動き始めた」なんて言ってたんだ、この壁の外で何が起きているか分かったもんじゃない」
そうだ、嫌な予感が的中してなければいいが、そう思いながら俺は、相手を叩きのめしたばかりの友人の元へと向かった。
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orangestar
異能
5-残灯花火:指定した位置に花火を出現させ着火する異能、打上花火や線香花火、ロケット花火等どんな花火でも対応可能。 花火を所持している必要は無いが、出せる花火の数には限りがある。
6-パラダイムバグ:思考に影響を及ぼす異能を一瞬だけ邪魔する異能、邪魔した直後にその異能が解除されるかリセットされるかはランダム。 「アワジリカルラストルレイラー」と唱えると発動。
wowaka
異能
6-とおせんぼ:絶対に何も通さない壁を出現させる異能。障害物を透過する異能ですらも阻むことができる。
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