戦闘屋たち


 なんで予定より多くドローンを飛ばしてるんだ?


 用心棒が音声通話で問いかける。


「いざって時には突っ込ませて自爆させる。カミカゼUAVって使い方もあるんだぜ?」


手榴しゅりゅう弾の一発かそこらの威力じゃたか・・がしれてるだろ」


「電源のポリマーバッテリーも電解液がよく燃えるガスを出すからな。自爆の時はバッテリーを自壊させて威力を上げるようにしてあるんだ。

 どうせ中身は70機で数千ニューイェンもしない汎用基板のかき集めだから出所も追えないだろうけどな。本体内部の隙間にも爆薬を突っ込んであるからよく燃える。念のための最後っ屁ってな」


 そういってなんでも屋が笑う。

 そりゃ再利用したり、だれかに売り払うって訳にもいかないんだろうが。なんとももったいない話だ。


「実際に運用してみて分かった部分もあるからな。そこらは設計と運用ノウハウのセットで売れる。元は取れただろうよ。

 むしろもったいないのはヒシイの量産型だ。使い回す訳にもいかないし、そのまま誰かに売りつけりゃ出所がバレてえらいことになる。死蔵するか、バラして部品単位で売るか。なんにせよ手間ばかりかかって金にならねえ」


 作戦行動中の通信で愚痴るんじゃねえよ。聞いた俺もアレだけどよ。たぶん向こうさんのほうがカチッとした行動をとってるぞ。俺も前は同じマニュアルで動いてたからな。

 いいかげん物陰で小さくなって連中を覗き見しているのも疲れてきた。アスファルトが戦闘服を通して熱を奪う。


「完品で二体分くらい残ったら遠隔義体オルタボディにしようよ」

「ヒシイ製品か。IDの書き換えなら二体で5000ニューイェンでやってやる」


 なんでも屋からの通話の裏でわずかに弟子と情報屋の声が入る。

 だが俺と情報屋たちで直接通話をすることはない。戦闘に集中するために情報を統合、指示をしてもらうようにしたからだ。なんでも屋の弟子もロボット兵士ジャーヘッズを操作しながらしゃべっているんだろう。

 たぶん、なんでも屋にケツを蹴られながら。


「あと五秒」

 なんでも屋が宣言するように伝えてくる。


 そのなんでも屋はドローン操作と戦況の確認と作戦の管理で大忙しだ。ついでに俺と弟子の面倒も見なきゃならない。アイツがいないと俺は今頃死んでるな。


 そんなことを考えながら障害物から身を乗り出してARを撃つ。だいたいの位置に一秒弱。

 バンプストックが暴れる。10数発が軽い音を置き去りにして飛んでいく。

 視界の端に飛び散る血を見ながらすばやく隠れ、移動する。連中も撃たれたとなれば、どこからどの程度の脅威が迫ってるかバレるからな。すぐに撃ち返してくるだろう。


 リモート義体の代わりにロボット兵士を操作して別の位置から撃つ。同時に事前に狙いを定めておいた狙撃用システムをアクティブにする。こいつは自動でタイミングを見て撃ってくれる。


 ほぼ同時に数カ所から銃撃を受けた戦闘屋たちが兵力を分散してくれればいいが。おっと、そう上手くもいかない。重武装兵ウォーキングタレットどもが前に出てくる。どうやら防御を優先したようだ。

 強化外骨格に取り付けた抗弾プレートに任せて突っ込んでくるつもりか。ここらで牽制けんせいとしてドローンでの爆撃を要請。


重装ヨロイどもが突っ込んでくる前にドローンで足止めを頼む!!」


 小声で叫ぶという矛盾を実行してなんでも屋をせかす。視界の端に時間を見る。


 22:12:41


 直後、コーンという金属音が響いて。そこからはスローモーション。

 重武装兵の装甲でバウンドした手榴弾が空中で破裂。破片が重装どもの後ろに隠れていた戦闘屋たちに降り注ぐ。

 反射的に顔を背けたやつ以外は血を流しながらも空中のドローンを狙い撃っている。結構な速度で回避行動をとるドローンの至近距離を銃弾が駆け抜ける。

 あいつら、いい照準システムを使ってるな。ドローンはあと数秒で砕け散る運命だ。


 認識と想像が、狂った時系列で脳裏に展開する。コンバットドラッグでハイが来てやがる。

 それらをどこか他人ひと事のように、背後霊のようなTPS視点で観察する自分もいる。


 集中しろ。

 集中だ。

 集中。


 戦闘中だ。

 戦闘。

 戦闘?


 どこで?

 だれが?


 ああ、俺は今、銃を持ってる。


 撃つんだ。

 なにを?

 なぜ?


 一瞬、意識がどこか遠くに飛んでいた。ARグラスのすみに映る時間を見る。22:12:42。


 22:12:42

 22:12:42

 22:12:42

 22:12:42

 22:12:42


 22:12:43

 22:12:43

 22:12:43


 22:12:44


 時間が動き出す。

 スローモーションが終わり、普通の速度の現実が追いつきはじめる。


 爆音。熱風と衝撃を顔に感じる。空中のドローンが銃撃を受けて燃えながら落ちてくる。その詳細を捉えたズーム映像をARグラスに映しながら。空中を銃撃していた戦闘屋の一人をひたすら照準しつづけていた狙撃システムにGOサイン。

 燃えるドローンのかけら。

 その吹き出す炎と同じシルエットで脳髄と血をまき散らす戦闘屋。


 助からない。そう分かっていても隣の兵士がそいつをつかんで後ろに引き戻そうと力を込めている。左腕の筋肉が固く緊張しているのが遠くからでも見える。高精細なグラスに映る狙撃システムのカメラ映像。まつげに汗が垂れて、反射的に瞬きをした瞬間。


 二発目。

 音が響き。

 死体が増える。


 重武装兵の影に隠れた戦闘屋以外が身をかがめる。

 同時に重武装兵の12.7mmが狙撃システムを破壊した。


 撃たれる瞬間の映像が目に焼き付く。あまり心臓によくない絵面だ。


 この鼓動はコンバットドラッグのせいなのか。それとも撃たれた狙撃システムが身体の一部だったのか。あの12.7mmの弾丸は俺の身体の一部を奪ったのか?


 まだ奪うつもりなのか?

 もう十分に俺から奪ってきただろう。

 まだ足りないってのか?


 上等じゃねえか。

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