外国企業城下町と銃砲店

 企業城下町シタマチの中でも、ここは特殊な場所だ。


 通販企業の城下町シタマチだが、本社があるわけでもないのにそれなりににぎわっている。ニホン自治政府管理下の国家、その一つであるが、企業の出身がステイツだったからか52番目の州と呼ばれている。その飛び地の一つ。ニホン自治政府の中にいくつも国家を持つ大企業の一つだ。

 特に鉄道網を押さえているのが特徴的。前世紀に国鉄から民営化され、さらに別企業に買い取られたのが鉄道網。


 鉄道の運営は民間でも、鉄道網自体は国家が所有している国がほとんどだと聞くが、ニホン自治政府はなにを考えていたのか運営からインフラから全部を民営化してしまっていた。そして分割された鉄道各社が経営難になったり敵対的買収ホスタイルテイクオーバーをくらったり。あっという間に切り取られていった。

 そして虫食いだらけ、断線だらけの鉄道網をちまちまと買いあさって巨大な流通経路にしたのがこの通販会社だ。ニホン自治政府に属する企業国家が複数あり、それを鉄道網でつないでいる。


 ここは企業城下町シタマチのなかでも倉庫があり、そこに納入する工場があるという奇妙な城下町シタマチ。子請け、孫請けの製造業者がたんまりある。そしてその多くが通販会社の倉庫に送られ、そして別の会社に配送されてゆく。自転車部品、自動車部品、工業用ロボット、果てはネジクギのたぐいまで。

 その製造業も落日の一途いっと。ここにある製造業者のほとんどが外国からパーツを仕入れて加工し、別の工場に出荷する加工屋ばかりだ。単純な組み立てなら人件費の安い諸外国でいいのだろうが、大量生産されたパーツには不具合があるものも混じっている。それを人の目でより分け、確認しながら加工したり組み込んだりするのだ。


 品質管理には定評のあるメイドインジャパン。そのブランドだけで食って行くには厳しいが、それでもまだ需要はある。量産できないものや少量だけ欲しいなんてものも、仕事を選ばず片っ端から受けて作らないと成り立たないのが現状だが。


 ほとんどの加工は機械任せでも可能だ。とはいえ量産レベルの数量、数千とか数万とかの数が出ない少量生産ものや、品質が厳密に要求される試作品に関しては工場と職人の腕にかかっている。というより人間の作業じゃないと採算が取れない。厳密なチェックは機械に任せられる部分を任せ、職人が一つずつチューニングした、という看板が必要なのだ。スイスハンドメイドの機械式時計的なプレミア品かメーカーチューンのスーパーカーのような。

 もしくは人の数に任せて品質を極限まで平均化する大量生産90点商品。初期不良はほぼゼロ、納入時点で問題があれば企業の重役が一人一人のお客様に頭を下げに行きます、という超安定製造。実態は現場の検品がすさまじいレベル、というだけの話だ。

 機能に関係ない、パッケージのシールの位置から説明書の納め方や固定のロックタイの締め具合まで。神経質なまでに均一化を突き詰めた製造業。それが今のメイドインジャパンだ。


 それらも非関税障壁、という名の強制解放措置が招いた結果だ。いわく、〇〇法による制限で海外製品が参入できない、〇〇制度は民間による保険販売を阻害している、etc……。

 過去のいつの時点かは知らないが、そんなムチャを押し通せる条約だかなんだかを結んでしまったせいで極端な特化製品ばかりを作るようになっていって今に至るのだ。


 売りになるものは他になにかあったかな。もう品質をべらぼうに上げるしかないんじゃないか。


 と話したかどうかは知らないが、お家芸を突き詰めたらこうなりました、のオンパレード。金持ちしか買わないし買えないプレミア製品か、バカみたいな使い方をしない限り、バカみたいに丈夫で壊れない製品ばかり。あとはバカが考えたのか、と頭をひねりたくなるニッチすぎる製品か。

 もしくはエロ絡みの色々だな。HENTAI万歳。


 ともかくステイツの出島みたいな企業の城下町シタマチはニホンのヘンタイ技術が跋扈ばっこするヘンタイ製造業の街になってしまっている。そしてニホン自治政府の管理下であるにもかかわらず、ステイツ流の自衛する権利、武装する権利というものが拡大解釈されてステイツ並みの銃砲店ができることになった。

 ミロクやミネベア、ホーワといった武装産業の一部を請け負っていた機械メーカーがその精密加工と検品で高品質なARクローンをバンバン製造し、通販企業は自衛する権利を盾に警備員を銃で武装した。そして企業の敷地内、という言い訳で配送列車を移動火薬庫のように弾薬と兵士を乗せながらニホン中を移動している。税金を払う先が銃の所有を厳しい免許制にしているニホン自治政府であるにもかかわらず、だ。

 いや、税金をたっぷり払っているからごり押しができたのかもしれない。元からステイツの製品のOEM製造を請け負っていたミロクだし。ミネベアやホーワは自衛隊や警察に卸す小銃、拳銃の製造を長くやっている歴史がある。


 なんにせよ、ここはニホンでありながら、実質はステイツのようなもの。庭で銃を撃っても、自衛のために許可を得て銃を持ち歩いても問題ない。これが旧日本の企業が運営する城下町だったら銃も持てないし、持ち込めない。


 最先端ではないが、発展途上でもない不思議な街。


 その城下町シタマチにある工場の一つは拳銃などの製造をなりわいとしていた。量産品だが品質は悪くないレプリカメーカー。自社設計はできないので海外で権切れした銃器をコピーして現代風にカスタムしたものを作って売っている。

 コルト社の1911シリーズ、カラシニコフのAK-47やAKMのNATO弾モデル(と言い張っている)AK-100系、CZアームズのCZ-75シリーズなど。設計製造から最低70年~100年は経過していて、コピーが多く出回っていたりサードパーティ製パーツが大量に出回っているモデルをアレンジして製造しているのだ。

 あくまでカスタム用の交換部品ですよ、それらを集めたら一丁出来上がっちゃいますけどね、という言い訳なんだろう。


 その工場では量産パーツを製造し、加工精度や仕上げ処理の良ししによってグレード分けされ、組み立て部門に回される。最上級グレード品は組み上げ時に精度、その他諸々もろもろを職人が一丁ずつ調整し高級ブランド名を刻まれ出荷される。

 タイトに組んだ最上級グレードをチューンドカーやF1マシン、ラリー専用カスタムだとすれば、量産グレードは普通の量産車だ。量産車だと言っても手抜きされている訳ではないしちゃんと使えば10年20年は、消耗部品の交換が前提だが平気でもつ・・

 そして検品ではねられた部品は鋳潰されてふたたび原材料に、とはならない。ジャンクパーツの流出品としてアンダーグラウンドマーケットに横流しされる。金属素材として売るより値段がつくし、なにより多少の加工でつかいものになるレベルの部品が多く含まれているのだ。


 これらを選別し、量産品ほど見た目は良くないがちゃんと動作する銃に組み上げて売る、物好きもいる。部品を買ってきて細かく調整し、削り、表面処理を工場に依頼し、自分だけの一丁を組み上げてしまう趣味人マニアも中にはいる。

 安く買って手間をかけて量産品以上、最上級グレードに届くか届かないか、というレベルのものを作ってしまうのだ。そしてそれで食っていくガンスミスもいる。顧客にはガンオタク、安くて良いものが欲しい趣味人マニア、成り上がり者、そして格好をつけてナンボのヤクザ。

 本気で格好をつけるなら最上級品を買えよとも思うが、当代のヤクザ連中は金がない。あっても上に絞られるだけだからないフリ・・・・をする。だから安くて見栄えのするアンダーグラウンド品に落ち着くのだ。多少の注文をつけてカスタムすればオーダーメイドと言い張ることもできる。


 本当のアンダーグラウンド品はメーカー流出の不良部品をかき集めて作られたものにも及ばない密造銃。密造と言ってもこの城下町では「自衛の権利」で武器を作ることが合法だったりする。なので厳密には禁制品というほどのものでもない。そんな所までステイツ準拠だ。

 鉄パイプにショットガンの弾をつっこんで、蓋に突起をつけてたたきつけるスラムファイア方式や弾薬から自作する電気着火の使い捨て先込めキャノン。そんなものが個人の手で作られている。動画が上がっているので見ればいいんじゃないかな。ほかの国家群で見られるのかは知らないけど。

 3Dプリンタで銃を作るのも可能だが、初期投資する分で普通の銃が買えるので趣味の人しかやっていない。安くてナンボの密造銃。一部は非合法なフルオートサブマシンガンをプリントしているらしいけれど。


 最近じゃボクも銃を持ち歩く必要性も下がってきたから、そこそこの装弾数で小型のタイプを密造した。どうせ5m以内で相手に当たれば十分、と割り切った護身武器なのだから命中精度は二の次。最近じゃ地元の自警団のおかげで自分から銃を抜くこともまずないし。

 自警団連中は地元の工場で作られた量産銃を持っている。ステイツ本土と違って法体系がニホン自治政府法準拠ではあるが、特区扱いなのでライフル、ショットガン、ハンドガンなど好きに買えるし前歴確認バックチェックもショップの端末デバイスであっという間。前科なし、合法ID持ちであれば銃の登録にOKが出る。好きな銃をショップで選んで代金を税金分の印紙と一緒に払えばそのまま持って帰れる。

 買うときは所有者IDと銃器IDの登録が必要だけれど、そんなに手間じゃない。端末デバイスのカメラで銃のIDを撮影する。購入者の登録はIDチップをNFCリーダで読むかID刺青タトゥの撮影。いまどきID刺青タトゥを入れているのはじいさんか、凝り性アーティストの海外出身ニホン人だけ。多くの帰化ニホン人はIDチップがほとんどだ。


 銃の弾や部品なんかは前歴確認バックチェックもなにもなく売ってくれるので近くのショップで購入している。自作ショットガンなんかは鉄パイプと溶接機があれば作れてしまう。撃つだけ・・・・でいいなら溶接機もいらない。

 というわけでホームディフェンス用に作った無登録で合法な単発式中折ショットガンをベッドの脇に置いている。自宅での護身用には多弾の拳銃も買って置いているが、これも無登録合法品。フレームの完成品はID登録をしないといけないが、そこを自作すればあとは市販の部品だけで一丁組めてしまう。

 この場合の自作は鉄くずとして売られているフレームの不良品を使えるように加工することだ。あとは純正品でもサードパーティーでも好きな部品をショップで買いあさって組み上げればできあがり。分かっているショップだとフレーム以外の部品一式セットなんてものを用意している。

 こんな法律の不備までステイツから輸入しなくていいのに。


 そこらのチンピラはそういった無登録合法銃を手に入れるために、工業系の学校に行ったやつを取り込んだり脅したりして作らせているとか。ショップ側も分かっているので部品の一式セットを高く設定していたりする。部品一つ一つをバラで買っていく人はただのマニアなのでふっかけたりはしないらしい。


 ボクが地元ショップで世間話をしつつ聞いたのはこんな感じだった。

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