なんでも屋と用心棒 理由
「クソ、あいつらいまさら義体化手術を勧めてきやがった。どうにもうさんくせえ」
会社を辞め、古い友人のアパートで寝起きしはじめて三ヶ月が過ぎた頃。同居人は友人とその弟子と。おっさん二人にガキ一人。奇妙な家族だ。やっと環境にも慣れてきたというのに。
いきなり会社から連絡があったと思ったら「補償をする」と言い出した。今までさんざん無視してやがったのに。どういう風の吹き回しだ?
「ああ。情報屋に手を回して調べてもらったぞ、お前さんの古巣。発表前の試作品を前線部隊に配布してテストしてるんだってな」
「そんなの聞いたことねえぞ!!」
「ならそいつらには秘密で勝手にテストしてるんだろ。俺も情報屋がよこしたファイルで初めて知った。
……たぶんお前にも入ってるんだろうな」
「冗談だろ?」
冗談であって欲しい、といったほうが正しいのだろう。得体の知れないものが自分の身体に入っているなんてのは想像したくないものだ。
「ところが本当なんだよ。情報屋からもらった
埋め込み心肺のフリをした強化心肺に腎臓、薬物系への耐久力増加やら記憶力や反射神経のブースターやらネット接続器官やら。定期的になにか投与されたり検診されたりしてなかったか?」
「ああ、もう。思い当たる節がありすぎる。闇医者で何が仕込まれてるか調べられねえかな?」
本当に冗談じゃないぞ。生体実験やってやがったのかよ。寿命が縮んでねえだろうな。
というか本社が海外だからって総務省や厚生労働省の認可を受けてねえような製品を人体で実験するんじゃねえよ。
「規格品じゃないものなら分かるだろうし摘出もできるだろうけど。
いまさら外せないだろ?
強化心肺や強化腎臓はちゃんと人工心肺として機能するらしいからな。それ無しで生きていけるもんじゃなし。代わりの人工心肺なり移植用クローンなりを用意しないと。朝頼んで昼には届くなんて訳にはいかねえからな。
それに強化神経やその他の脳系ブースターならそこらの闇医者が好きに取り外しできるもんじゃない。
幸いお前さんの身体から電波は出てねえし受信してる様子もなかった。タイムリミットありのフェイルセーフは仕込まれてなかったんだな。もうそのままでいいだろ」
自爆装置とか入ってないよな?
マジで嫌な予感しかしねえ。
「その割にゃ抜き取られることもなくあっさり会社を放り出されたんだが」
「現場は知らなかったんだろうよ。埋め込み系の情報は機密レベルが
自分で言って自分で笑ってやがる。お前は他人事だろうからいいけどよ。
「笑い事じゃねえよ。それにエリートじゃねえだろ。さっくりクビなんだからよ」
「だからいまさら義体化で手を打たねえかって打診してきたんだろ。普通の社員ならそのまま放置だ。手術代を持つ、じゃなくて義体化手術をやってやる、って言われたんだろ?
その時に試作品を抜き取って代わりの一般品を突っ込んでごまかすつもりだろうよ」
「そりゃそうなんだろうけど。……どうしたもんかな」
「用心棒のおっちゃん、せっかく左足が馴染んできたのにね。今回のアップデートで違和感は完全に無くなったって言ってたし」
ガキは自分で作った強化神経のアップデートにいそしんでる。性能が上がるのが楽しくてしかたないんだろうよ。俺は俺で助かってる部分もあるが、どうも実験動物扱いされているみたいで楽しくはない。
「お前さんの好きにすればいいさ。
義体化手術を受けてまっさらな身体になるも良し。無視して狙われるも良し」
「よかねえよ!!
それにまっさらな身体はいいけど次は絶対に
「ついでに
部品を返せって訴訟を起こされたら個人じゃ勝ち目はない。本人に知らせず勝手に埋め込んだ未認可品でもな。
だが同業他社のバックアップを受けておけば、弁護士も企業顧問の腕利きが
まずはどんな弄られ方をしたのか調べないと。場合によっちゃ元の勤め先の
試作品に自壊タイマーが仕込んであるなんてのはよくあることだ。他社に
なんでも屋は放置しても大丈夫だと思っているようだが。最新の保全マニュアルには電波や注射で延長コードを入力しないで、直接接触でコード入力しろって書いてある製品もあるんだ。俺の身体の中に入っているナニカもそうなっているかもしれない。
入れ替えるとして。人工心肺なら高いが一般人でも買えるからなんとかなる。だが脳神経系だと致命的だ。
「時間が欲しい。少し考えさせてくれ」
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